白に赤をたしたら当然、純白のままではいられない

 新入生を交えた生活も慣れた頃、ある人は問題として捉え、ある人は問題なしと捉える『それ』が起きた。いや、表現的には起きた、というよりは『表面化』したとした方が良さそうだ。

 各クラスで起き、学年のものになった。高入生と内部進学生の壁、とでも言おうか。内部進学生のコミュニティに入れなかった高入生同士がグループを作り、完全にとはいかなくとも大きく二分されてしまった。

 もちろん、志弦・ゆかり・瑠永・癒月のように混ざって仲良くやっていけているグループもある。ただ、全体の大きな流れとしてはそうなのだ。陽キャによる会議が開かれる程度には。

(どうでもいい…)

 みんな仲良く!世界平和☆なんてことは実現しない。自分の周りがせめて、笑顔で過ごせていればそれで良い。

(いまの私にとって志弦、ゆかり、癒月だけでも…)

 大きな流れなんか知らない。周りの雰囲気に呑まれてやらない。全員が林檎を梨だと言おうと、林檎だと主張し続ける。

(そうやって生きてきた)

 教室の内部進学生陽キャ組は対策本部(仮)を立て、高入生を如何に『六十四回生』の輪に溶け込ませるかを話し合っている。

(正直いらない。散らかすだけ散らかして、後片付けをしねぇんだよ、こういう輩は)

 いつだってそうだ…などと口には出さないが。

(兄さんはそれで壊れた…)

HRホームルームやるよ〜」

 担任の一言で瑠永は思考を現実に戻した。


 休み時間のたびに対策本部(仮)は集会し、脱水の心配をするほどおしゃべりをしては授業に戻る。これを繰り返して昼休みを迎えた。

 Dクラスにいつメンはいない。その上高入生の新参者。積極的に声をかけなければ孤立はほぼ必然。『昼休みは屋上で友達とお弁当』というのは漫画の世界のみの夢物語で、紙ないし、画面の向こう側の話である。故に教室で独り、騒音をBGMに寂しく食べるのだ。

 ドン!ともバン!とも言えぬ、鈍く大きな音の後「瑠永さま、お迎えにあがりました」とかなんとか言うお騒がせ者が現れた。よく見なくても後ろに二人いる。

「いやぁ〜。Dのドアって開かないもんだねぇ」

 と説明もなく入って行く志弦。

「ということで、Aクラに行くよ〜」

(待て待て、何が『ということで』だよ。どういうことだ)

「はい、お弁当持って、椅子はいらないからあと水筒持って。れっつごー」

(おーい…)

 言われるがまま連行された先のAクラス。レジャーシートが敷かれた教室後方。

「なんだこれ…」

「ピクニック!」

「ピクニック!じゃねぇだろうがぁぁ…先生とクラスメイトには許可を取ったのか?こんなのアリなのか?」

「許可が出たのでアリです」

「おぅ…」

「ではでは皆さん、本日のお昼は」

 一斉にランチバッグや巾着からお弁当を出す。

 志弦、タッパーにふりかけご飯とおかず。

 ゆかり、二段弁当に白米とおかず。

 癒月、おにぎりとタッパーにおかず、個別で果物。

 瑠永、コンビニの菓子パン。

「癒月ちゃん、いっぱいある〜!」

「なんですか、その語彙の幼さは…」

「だっていっぱいあるんだもん!」

「で、るなちゃんはそれでたりるん?」

「たりることはたりてる」

「のわりにはっそいぞ〜?」

 ぷにぷにもできない、と志弦は瑠永の手首を触る。

「ちゃんと食べてんの?」

「一日二食は食べてる」

「二食、ですか…?」

「…作りに行ってもいい?」

「まともな具材ないんだが…」

「食費は?生活費は?ご両親は?」

「はーい、ストップ。こんな大勢の前で言えるわけないでしょ?てか、食べないと五時間目すぐ来るよ?」

「…たしかに」

 昨日のゲーム状況や今日のガチャスカウト結果など、推しにまつわる話をしながらお昼を食べた。

「ごちそうさまでしたっ!」

「たっ!」

「ではでは撤収〜!」

 志弦がレジャーシートを折りたたみ、ゆかりと癒月が二人を見送る。

「今日もナンゼロ?」

「そーだな、ならさっきの話の続きでもしようか」

「いいの…?」

「私が話したいんだよ。じゃ、またな」

「またね」

「また後で」

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