無料ガチャって逃すの悔しいんですよ
入学式、始業式、学年合同交流会等々、一年生が年度はじめに参加するイベントが一通り過去のものとなり、通常授業に慣れ始めた頃。
肩につくか否かの桜色の髪、青と緑のオッドアイ。春と夏の境を閉じ込めたようなその容姿を持つのは桜屋敷家長女、
「あと五分で鐘鳴るよ?教室行こ」
志弦、ゆかり、瑠永、癒月が一階のNo.000で話していた。
No.000というのは『ナンゼロ』と呼ばれている休憩スペースのような場所だ。そこにはグランドピアノと長机、座り心地が比較的良い緑のパイプ椅子が四つ、そして自販機が四台ある。一部生徒の溜まり場であり、音楽室が使えない場合の臨時部室にもなるが、そのピアノは調律されなくなって久しい。
「あ、待って」
とジャケットからスマホを取り出し、ゲームを起動する。
「あと五分だと言いましたよね?ゆかりさま」
「敬語きんし」
「瑠永さま⁈」
「私は前から言ってる」
「前からと言うほど前がないのは気のせい…?」
「気のせいだ」
志弦と瑠永もいまの状況での距離感を短期間で確立し、仲間に癒月を迎え入れた。
「だって今日の十二時までなんだよ!一日一回の無料ガチャ!」
「回して来なかったんだ、ゆかちゃん」
志弦がゆかりに布教し、たまたま同じゲームのプレイヤーだった瑠永と意気投合。交流する中でゆかりが同じクラスで推しぬいをぶら下げた癒月を発見し、声をかけた結果、こうして集まるようになったのだ。
「いやぁ〜今日起きたら七時でさ、ご飯作ってないしあと三十分で家出なきゃだしで超バッタバタだったのよ〜。バスの中でも寝ちゃったし」
「ゆかりさまのお家はご両親不在で?」
「まー、そんなとこ。ママが夜勤の日多くてさ、父親は泊まり・深夜帰宅・深夜帰宅・事務所・泊まりみたいな仕事だから半ば一人暮らしみたいな?」
「わお…」
音量一のスマホが知らせるは星五確定。画面が虹色に光った。
「お前はおれのすべてだ!」
「ちょっと、大袈裟すぎ。自立しなよ」
短く音声が流れる。
「はっ⁈」
ゆかりは思わずキレてしまった。予想外の結果になったとき、嬉しいはずなのにキレてしまうのはヲタクの悪癖だ。
「りーくんとれーくんじゃん!」
「いーなー!ゆかちゃん、手握って!」
「ん?」
「神引きの運が俺にも移りますように!」
「おっと…?」
「えーと、水を差すようで悪いんですが、あと一分もしないうちに鐘が鳴ります」
「まっじで⁈」
癒月の一言で現実に戻り、三階まで全力で走った。校舎にいるのに教室にいない、がために遅刻判定を食らうのは滑稽だ。鐘が鳴る前のジイィィ…という音の段階で教室に入り、なんとか遅刻にはならなかった。クラスメイトや担任からは『何やってんだ、お前…』という視線が刺さったが、間に合ったことには間に合ったので、万事オーケー判定。
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