放課後、空き教室にて

「なぁ、ゆかり」

 翌日の放課後、空き教室に呼び出されたゆかりは瑠永から疑問を投げられた。

「あれ、本気でしづるか?」

「正真正銘の青木志弦だよ?」

「あのおどおどした感じが、か?私のことを覚えていなかったんだぞ?お前は私のこと、すぐわかっただろ?」

「三年も離れていればいろいろあるんだよ。それに瑠永ちゃんは当時、志弦ちゃんから避けられていたしね」

「っ…あれは……。」

「あれは志弦ちゃんの、精一杯、瑠永ちゃんを守ろうとした行動だよ。わからなかったみたいだけどね」

「そう、だったのか…」

(全然わからなかった…)

「わからないのも無理はないよ。不器用だしね、あの娘」

「…で、何があってあんな感じになったんだよ?志弦は」

「ん〜私が言っていいのかな?中学時代いろいろあってね…」

「ふ〜ん…?」

 濁しても瑠永にはそれで伝わったものがあった。

「んじゃ、私はどう接したらいい?要は私はいまのしづるにとって初対面認識なんだろ?」

「そーだねぇ…。普通に初めましてで接していいと思うよ?翔空で初めてな人の方が多いでしょ?」

「まぁ、そうだな」

「それと、志弦ちゃん関連で秘密にすべきことは秘密にしてね」

「なんだぁ、秘密って…」

 含みのあることしか聞き出せず、疑問ばかりが増えていく。

「…なぁ、それ。『ユキナリサマ』とやらが関係してる話か?」

「ん…?」

(図星か…?)

「ユキナリサマって…?」

「知らないのなら良いんだが」

(本当に知らないのか…?)

 含みのある物言い。秘密にすべきこと。つまりそれは志弦が少数派である、この現代で妖と関わる人間だと指すのでは?と思案せられた。果たしてゆかりはその事実を知っているのか、幾年か前に見たのは自分の勘違いだったのか。瑠永は疑問の渦の中心にいる気分だった。

「で、話はそれだけなの?」

 それだけ。青木志弦がなぜあんなに不安定になっているのかを訊いただけ。言ってしまえば『それだけ』だ。

「そうだな…?悪かった、時間取らせて」

「ん」

 ゆかりは廊下に出ようとしたが、瑠永はそこから動かない。

「帰らないの?」

「あぁ。残ってく」

「ふ〜ん?」

 ゆかりは大して気にも留めず、Bクラスの教室へ戻った。

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