新年度
私立
世界で活躍する女性の育成を教育理念に掲げ、WHOやJICAなど国際的に活動する卒業生も多い。親子三代翔空という家庭も少なくなく、出身校である翔空に勤める教師もいる。
ちなみに生徒は医者の娘や、何処かのご令嬢が多く、とある年は北海道お菓子メーカーTOP3の娘さんが同級生だったこともあったそうな。
そんな医者・社長・国際機関と大物ばかりの中に一般家庭もある。そんな学び舎に向かう生徒たちは坂道を歩いていた。校舎にはバス停から下り、信号を渡って坂を登る。そして門前についてもまた坂道を登らなくてはならない。
青い髪を風に揺らす。まだ雪が残る道を進んで滑り止めマットの階段を三段登ってドアへ。横開きのドアを開けてロッカーで靴を履き替える。向かうは一年Cクラス。
あまり変わらないメンバーと高入生が一クラスざっと五人。翔空は外部混合型の中高一貫校だ。願えば翔空の大学にも進める。そのため、一度中等部で卒業式を行い、高等部で再度入学式をした。クラス替えはないが、望めば中学から高校へ変わるときにクラスの変更はできる。
志弦は中等部同様、クラスでは孤立気味だ。ただ、ゆかりが翔空にいたため、学年全体での孤立は避けられた。
「志弦ちゃん!」
「なに?」
「瑠永ちゃんがいるよ!高入生に!」
翔空は一クラス三四十人の四クラスだ。降瑞が三十人四クラスだったので降瑞より少し多い。そのため、入学式で読み上げられた新高一生を全員覚えていられるわけはなく、殆どが右から入って左で抜けていく状態だった。
「るなちゃん…?」
「松井瑠永ちゃん、金髪の。ほら、小六で初めて接点を持ったって言ってた子。覚えて、ない…?」
「ん〜…誰?いたっけ、そんな子」
「覚えてないなぁ」
(仕方ないよね)
(なんでそんな顔するの?)
「ほらほら、今日は教科書販売の日だよ」
ゆかりは不自然に話題を変え「油性ペン持ってきた?」と訊いた。
(持ってきたっけ…?)
「たぶん?」
ふわふわした、確信の持てない返答にゆかりは新年度早々不安を抱いた。
まず一時間目に各教室で生徒は机に置いてある二重の紙袋の中にある教材を一覧と照らし合わせ、中身に間違いがないかを確認しながら名前を書いていく。二時間目は翔空の高等部の生徒としての心構えと教室内での自己紹介。三四時間目が学年合同の交流会。
体育館で行われた交流会は簡単なゲームが多かった。じゃんけん列車、フルーツバスケット、コインタワー。コインタワーだけは数班に分けられ、競う形になった。
「ゆかちゃん…」
フルーツバスケットとじゃんけん列車は志弦とゆかりは共に行動していた。ゲームが進むにつれ席が変わるとしても最初は隣に座り、一回めのじゃんけんをしてずっと一緒にいられるようにするなど、ゆかりは志弦から離れなかった。が、コインタワーで二人は別班に振り分けられ、志弦は瑠永と同じ班になった。
「久しぶり」
瑠永が志弦に声をかける。
(金髪…)
「るな、ちゃん…?」
「そうだが?」
(なぜ疑問形なんだ?んで、あのオラオラ感は何処に行った)
瑠永は違和感を抱きつつ、班のメンバーでコインを積み上げていく。人班五人、計二十八組の戦いが始まり、音楽が止まった時点で集計をする。隣の班と積み上がった数を競い、多かった方が勝者となる。敗者復活戦はないため、戦いの数が増えるたびに観戦者も増えていく。ゆかりの班、志弦と瑠永の班も何度か戦ったが、準決勝に行く前に敗退してしまった。決勝戦まで残った班は志弦にとって、知らない人だけ。
「志弦ちゃん」
「ゆかちゃん…」
不安に満ちた声でゆかりを呼ぶ。
敗退して観戦している人たちは仲がいい者同士固まって見てる。そのため、ゆかりは自分の班が負けたときから志弦を探していた。
「よく頑張ったね」
「ん…」
瑠永は隣で行われるやりとりに違和感のみを抱いて聞いていた。
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