新学期
一月二十日、冬休みが終わり始業式を迎えた。瑠永は志弦を探すため、体育館内をウロウロしている。
「瑠永ちゃん」
「ゆかりちゃん」
「どうしたの?誰か探してる?」
学期が始まって最初に行われる全校集会。ゆかりの友達なら同じ学年だと踏んで探しているが、例の青髪が見つからない。
「ちょっとしづるを」
「志弦ちゃん?」
いつ仲良くなったの?と続けるゆかりに瑠永は「冬休みの間にちょっとね」と返す。
「ふ〜ん?」
鐘が鳴る少し前、志弦は急ぐ様子もなく体育館に入ってきた。瑠永とゆかりの隣のクラスのスペースに並ぶ。
(三組だったんだ…)
ゆかりと瑠永は六年四組。まさか隣のクラスなのに全く認知していなかったなんて…と己に驚きを隠せない。
鐘が鳴り終わると校長が「全校生徒の皆さん、おはようございます」と話し始めた。
「本日、一月二十日は『海外団体旅行の日』らしいので——六年生にとっては最後の学校生活の時間ですし、一日一日を特に大切にして過ごしましょう。下級生の皆さんも——」
これから三十分以上、校長が話し続けると思うと生徒の感想は「あ〜クソだりぃ…」「話長ぇぇ…」「早よ終われ…」が大半を占め、まともに校長の話を聞いている者はだんだん少なくなっていった。生徒たちは体育座りから徐々に自分が楽な姿勢に変え、寝始まる生徒も出てくる。
(始業式という名の全校朝礼、普段の朝の会と同じくらいの時間にしたほうがいいんじゃねぇの…?)
だるいだるい校長の長話が終わって二時間目からは比較的いつも通り、慣らしとして少しゆるく授業が始まった。
給食の時間。
四時間目が終わってすぐ、瑠永は隣の三組へと向かった。給食の配膳が終わるまでの約十分間で、志弦の存在を確かめたかった。後ろ扉から三組の様子を見ると、珍しい客人だと瑠永に視線が集まる。
「ルナか、どうした?」
志弦も瑠永に気づき、声をかける。
「しづる、この前会ったときから気になってた。どんな子なのかなって」
「ふ〜ん…で、僕に会いにきたんだ?」
「うん。だめ、だったかな…?」
「そんなことないさ。バケツの水汲み行くから僕が気になるならついて来て」
「ん」
志弦が掃除用のバケツを二つ取る。
「一個、私持つよ」
「別のクラスなのに?」
「私だけ手ぶらはなんかやだ」
「じゃ」
と瑠永はもう一つのバケツを持って水汲み場までついて行く。
「いつもやってるの?」
「あぁ」
「給食当番の日も?」
「あぁ」
「当番じゃないの?」
「本来はな」
本来、降瑞小は掃除当番と給食当番の割り当てが一日ごとに変わる。盛り付けを担当した日は配膳台の掃除、箸や盛り付けられたものを運ぶ班は床掃除、バケツに水を汲む班は床拭きと机拭き。給食時に担当がない班は黒板と水飲み場。しかし、どの班もバケツに水を汲むのを忘れることが多々あり、半分以上ボランティア任せになっているのが三組の現状だ。
「ま、苦じゃねぇし、誰もやってなさすぎたら担任からの全体説教だから」
関係ねぇやつが怒られんのは可哀想だろ、と志弦は付け加える。
「それから」
と志弦は瑠永に近づき、声を低く小さくして耳元で続けた。
「俺にあんま関わんじゃねぇ、痛い目見るぞ」
このとき瑠永にはその意味がわからなかった。しかし近い未来、知ることになる。
その日の放課後、警告の意味を理解できなかった瑠永はその訳を知ろうと志弦に接触を試みた。しかし「いまならお前には関係ない」だの「お前は俺と同じ匂いがするから近寄るな」だのと真意が読めないことばかり言われてしまう。帰り道もなんで、どうして、と続ける瑠永に「あんまりしつけぇなら殺すぞ」と低音ボイスで脅されてやっと瑠永は退いた。
二人黙って同じ道を歩いているときは子供たちの声が目立つ。歩道橋を挟んで大声で話す低学年。また後で、と別れる高学年。
「お前も気をつけて帰れよ」
と神社で会ったときのような荒々しくもやわらかい口調で志弦は別れを告げた。瑠永が返事をするまで待たずに志弦は背を向けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます