第126話 最強少年は悪しき神を滅ぼす。 15



 相手の持つすべてのスキルを問答無用で封印するという、このふざけた効果を持つ魔導具はあるダンジョンモンスターのレアドロップ品である。


 このぶっ壊れ魔導具、何がひどいってスキルと名のつくものは何でも封じてしまうのだ。

 つまり俺たちの持つユニークスキルも例外ではなかったりする。俺も食らって確かめたから間違いない。

 俺達のは一応、神からのギフトなんだがそんな特別なものでも容赦なく使用不可能にしてしまう。そんな頭のおかしい性能してるのに、あの光線は散弾みたいに放射状に広がって撃たれたらほぼ回避手段はないし、食らうと3時間もの間全てのスキルが使えなくなる。


 そして最悪なのが、この封印攻撃はこのモンスターの特殊な攻撃のようで、いわゆる毒や麻痺みたいなバッドステータス扱いじゃないときた。

 要は俺達の持つ<全状態異常無効>をすり抜けてきやがる。現状ではこいつを食らうと対処方法がないのだ。


 さらに酷いのがこいつはクールタイムが1時間でその後は再度使用可能という頭のおかしさだ。こんなぶっ壊れ能力、普通使い捨てが基本だろうに。


 そしてこのアイテムは俺達というかユウキと因縁深かったりする。


 ユウキはその本名こそ無名だが、その異名である<シュトルム>の名は突如現れた超新星として冒険者界隈では知らない者がいないほどの有名人だ。


 このモンスターが出現するウィスカのダンジョンは世界有数の鬼畜難易度で有名なんだが、そこをソロで、それも並み居る超一流冒険者たちを軒並み追い抜いて深層を攻略することでユウキは世界中にその名を売ったのだ。

 襲い来る大量のモンスターと敵集団を倒したと思ったらすぐに新手がやってくる異常なリポップの速さからウィスカのダンジョンに挑むのは精鋭中の精鋭、二つ名持ちのAランク冒険者ばかりである。そんな彼らでさえ攻略に難航する中、一人の少年が誰よりも深い層を潜っている事実に界隈は戦慄した。


 その常軌を逸した戦果は未だに冒険者ギルドが士気高揚のために作り出した虚構の存在だなんて話がかなりの説得力を持つあたり、俺の仲間ながらユウキの成し遂げた異常さがよくわかる。


 そのウィスカのダンジョンの30層からこいつを落とす敵が現れ始めるんだが……勘の良い奴はもう気づいただろう。この敵が封印攻撃を仕掛けてくるのだ。

 戦いに身を置く者というのは総じてスキルが生命線である。鍛錬の果て、死闘を経て鍛え上げ磨き上げた才能の結晶、それがスキルとなって現れるからだ。


 そんな命の次に大事なスキルをこの敵はあっさりと封じてくるのだ。魔導具と違い、ダンジョンから脱出すれば効果は消えるとはいえ必ず他の敵と戦闘中の所を狙って封印攻撃を仕掛けてくる最悪の敵である。

 いかに世界最強のユウキといえども、魔法を失い、身体能力をそこらのあんちゃんと同じにされたら(剣術もスキルに昇華した時点で封印される鬼畜仕様だ)勝ち目はない。特にその階層に出てくるもう片方の敵が最強の脳筋、オーガの最上位種だったりする。それが集団で攻めてくるとなれば命懸けの死闘の幕開けだ。


 その分宝箱にはこれを使って敵を倒せと言わんばかりにスクロールの束がごっそり入っていて、俺たちがどうしてあんなに溜め込んでいたのかという理由でもある。



 ユウキがそんなギリギリの戦いを繰り広げていたある日、憎き敵を偶然範囲魔法で先に殲滅することに成功し、この見た目が玩具の魔導具が落ちた。

 俺達はこの敵が落とすのだからきっと封印攻撃をなんとかするアイテムに違いないと期待をしていたんだが……出て来たのはあの敵と同じ能力、相手のスキルを封印する悪夢のような光線銃だったんだ。


 俺が欲しいのはこっちじゃねえ! とユウキが心から絶叫したのは記憶に新しい。


 そしてこの能力は色んな悪事に利用できまくるので、転移環のように表沙汰にできず<アイテムボックス>の肥やしとなる魔導具がまた増えることになった。

 

 とはいえ、使える力であることは事実なので、こういったふざけたチート持ちには逆にやり返して溜飲を下げることにしているが。



 そして今回はこの蛇野郎の化けの皮を剥いでやったわけだ。


 厄介な能力のないこいつなんてマジでただの雑魚だ。初見の敵だし、万が一撮り逃すことのないようにと慎重に戦った事は悪くない方策だと思うが……冷静になって考えると、これ使えばすぐ終わらせられたじゃねえか。


 くそ、マジで何で気づかなかったんだよ。らしくなく緊張でもしてたってのか?


 ああ、考えれば考えるほど自己嫌悪に陥りそうだ。さっさと頭切り替えてもう考えるのは止めるとしよう。




「何故だ! 何故我が無限の分し身が消える!? 何故支配できぬ!?」


 先程までの余裕などどこへやら、焦りまくる蛇野郎……いやもう奴はガス野郎だな。既に巨大蛇の体からは抜け出ていて、なんとか再び入り込もうと纏わりついている。


 だがどう足掻こうがあと3時間は絶対に能力使えねえんだよなぁ。むしろこの封印攻撃から逃れる術があるなら参考にするんで是非ともやってほしいくらいだ。


 奴の慌てようは滑稽の一言……ではあるが、戦闘中に全能力を突然封じられたら無理もないことだ。あのユウキでさえ初めてこの攻撃を食らった時は死んだかと思ったと正直にその心情を告白している。

 こいつを仕掛けられたらどんな猛者も虚を突かれる、まさに初見殺しの極みみたいな技である。

 俺達も決して普段使いする魔導具じゃないが、こんなめんどくさい能力盛った奴には遠慮するつもりはない。



「さて、終わりの時間だ」


「ひっ!?」


 俺の処刑宣言を受けてガス野郎は露骨に怖気付いて距離を取った。もう乗っ取れない大蛇に執着することなく逃げの一手は思い切りはいいが、俺は威力のデカすぎる禁呪を使うために新たな<結界>郡を展開している。

 その内の1枚に激突した奴は力なく地面に落下した。

 

「おいおい、御自慢の神の力とやらはどうした? 矮小な人間に偉大な力を見せてくれよ」


「そ、そうだ、交渉だ! 交渉しようではないか。我はこの者達には金輪際手を出さん。だからお前も手をっやめろぉぉ!」


 ガス野郎の寝言は俺の火魔法で途絶えさせた。ガス生命体は超高温で焙ってやるとその総量を削ることができる。

 つまり非常によく効くのだ。


「今更眠たい事ほざいてんじゃねえよ。この戦いの決着はどちらかの消滅以外に有り得ねえよ」


「待て! 早まるな、我をここで殺したら後悔することになるぞ! 我がこの千年の間にこの国に仕込んだ策略はまだあるのだ。どうだ? 聞きたいであろう? だからまずは……」


 これ以上の問答は時間の無駄だ。

 既に語るべき言葉は尽きた。


 この戦いを、終わらせるとしよう。



光に還れラハゾル・オル


 最後の力ある言葉コマンド・ワードが紡がれるとこの大禁呪の最終段階が発動する。封印解放状態の俺の魔力を使って構築された術式だけあってイカれた威力になりそうだ。


 だがこの規模ならこの事件の終焉を祝う盛大な花火としては悪くない選択だと思う。


「嘘だ。我がこのような僻地で果てるなど有り得ん。そうだ、これは夢だ、悪い夢にちが」



封神極大極光乱舞ガンマ=レイ!!」



 触れたもの総てを消滅させる神罰の光が奴を包み込む。


 もとは異世界の高位神を誅滅させるために生み出された大禁呪が地球で炸裂し、俺が張った幾重もの<結界>が超威力に抗しきれずに全て破壊され……


 この裁きの閃光は事態の推移を注目していた世界中の術者にその決着を悟らせることになった。



「ったく、手間取らせやがって。一生地獄で悶えてやがれ」




 こうして、この国で千年にわたり多くの者を苦しめ続けた悪神はここに滅びた。




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