第124話 最強少年は悪しき神を滅ぼす。 13


 

「封印指定、展開」


 魔力を籠めた力ある言葉を紡ぐことによって俺の中にある20の封印が可視化される。たったこれだけで抑えきれないほどの力が周囲に拡散し、猛烈な力の奔流に晒された<結界>が軋んでいる。


「な、なんだ、その異常な力は……」

 

 呆然とした蛇野郎の思念が俺に届く。奴くらいの低能でも俺の力の大きさは理解できるようだ。

 こっちはこれでもまだ本気出してないんだけどな。



 現在、俺達の各種ステータスは軒並み6桁、10万超えの大台に到達している。この数字は異常というか頭おかしいというか……怪力で名を馳せる一流冒険者のSTR値が35だった事を考えればどういう数字なのかは理解してもらえると思う。

 こうなった最大の原因は俺のユニークスキルである<<オールステータス増加>>にある。スキルのレベルを上げてみると実際は増加ではなく倍加であり、今のレベル8だと素の状態から256倍に増えてしまうのだ。


 だが実際の所、ステータスなんざ各種50もあれば十分で、それ以上あっても持て余すだけだ。

 冗談抜きで全開放状態の俺達だと、物を掴んだつもりが握り潰したり、地を蹴って走り出した途端に蹴り足が強すぎて大地を砕いてその場で一回転しかねない。

 本当なら普段は無意識に脳がそういった制御をしてくれるが、力を魔力でブーストしている状態だとアシストが効かなくなり、はっきり言って日常生活に支障を来すレベルだ。

 要は力の入れ具合が非常に難しく、制御可能なのだ。人間に無駄なく扱える能力の上限が先ほど告げた50くらいだと見ていい。


 本当はこんなにステータス要らないんだが、とある理由から俺達は大量の魔力、つまりMPであり、自分のスキルレベルをガンガン上げた結果、こんな有様になっている。

 そういうわけで俺達は自分の能力値を徹底的に封印して大幅な制限を掛けているんだが、それを開放した今溢れ出した魔力がこの周囲一帯を埋め尽くして自分で張った結界(ユウキが構築した超広域結界とは別に俺や蛇野郎の流れ弾で被害が出ないように張った結界がある)が崩壊一歩手前だ。


 もうこいつとやりあうのは飽きたな、敵の能力も判明したし計画も最終段階、そして結界も保たなそうだ。

 さっさと終わらせるか。



「有り得ぬ! こ、このような力が、矮小なニンゲンに扱えるはずがない」


 奴の思念は焦燥に満ちていた。俺のこの力を認めたくないらしく、先ほどまであった優越感がきれいさっぱり消え去っている。


「矮小だと!? 実態のないガス生命体の分際で抜かしやがる。だったらお前の体で試してみようじゃねえか!」


 さっき思わず叫んじまったし、もう奴の正体を隠しておく必要もない。正直やっちまったなと思わないわけではないが、この程度の雑魚野郎にここまで舐められて黙っていられるか。


「往生しやがれっ!!」

 

「ニンゲン風情が、神を舐めるなっ!!」


 俺の掌底と奴の龍爪が真正面からぶつかり合うが、俺の一撃はその爪ごと打ち砕いた。神気と常軌を逸した魔力で護られた今の俺にたかが土地神程度が敵うはずもない。


「か、神の爪が砕けるだと!? ぼぐあっ!」


「驚いてる暇があると思ってんのか、この三下が!」


 俺は続けざまに連撃を打ち込み、蛇野郎の体を崩壊させる。俺の拳が撃ち込まれた箇所はこれまで行われていた復元が始まらない。桁違いに増大した魔力を送り込んだことで相手の再生能力を超える大破壊を行っており回復が追い付いていないのだ。


「馬鹿な。復元が、我が力が働かぬだと!?」


「神ってのはこうやって殺すんだよ! 出血大サービスだ、とっておきでブチ殺してやるから感謝して地獄に落ちやがれ!」


「<呪縛《カース・バインド》>」


「くっ、この程度の拘束で……」


 最上位の呪縛で奴の巨体を拘束する。蛇野郎の体が万全ならすぐに抜け出せただろうが、体中が崩壊しかかっている現状では容易に抜け出すことができない。

 この状況を作り出すために敢えて殴り続けていたんだ。


 そして俺は荒れ狂う力の奔流に身を任せ、最強技の始動を開始する。



「”出でよ5つの小鍵 その五芒の星よ 光輝たる閃光で我が敵を討ち滅ぼし給え”」


 普段は無詠唱を基本とする俺だが、こいつは絶対に詠唱を必要とする大魔法グラン・マギカだ。威力があり過ぎて無詠唱では扱えない魔法の一つとされている。


 この大魔法の特徴はただ一つ。詠唱者の魔力に応じて人知を超えた超威力を発揮するのだ。

 今の俺の一撃がどれほどのものか、蛇野郎には身をもって体験してもらおうじゃねえか!


「”天の星、地の星よ、その曇りなき極光よ 裁きの雷となりて我が手に集いて力と為せ”」


「まさかその呪文は!? な、何故お前が使えるのだ! や、止めろ。その光は!」


 アセリア出身だけあって蛇野郎もこの禁呪の事を知っているようだ。先ほどまであれだけ偉そうな口を叩いていたのに泡を食ってやがる。

 その無様さを嘲笑ってやりたいが、俺の、俺達の力はこんなもんじゃない。

 


「地獄の果てまで消し飛ばす! 冥途の土産に見せてやるぜ、本当の力って奴をよ!!」


 だが俺は駄目押しの一撃を加えるべく、最後の扉を開ける。


「馬鹿やめろ玲二!! お前はこの国を人の住めない土地にするつもりか!!」


 遠くでユウキの声が聞こえた気がしたが、力が溢れ出す全能感に身を任せつつあった俺は最後の力ある言葉コマンド・ワードを口にした。



「拘束術式、1番から10番。限定解除」



 その瞬間、俺の力を封じている枷が解き放れた。

 そしてこれまでの比ではない激烈な力が爆発的に生み出され……



 不意に俺の意識は途切れた。





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