第47話 最強少年は披露する。




<7等級の魔石に500万円の価値がついたというのは凄いね>


<ええ、俺も驚きましたけど、この里では死活問題だったからそれだけの額になった可能性もありますが>


<それでも凄いよ。魔力の薄い地球で魔石があったことも驚いたけど>


<どうも鍾乳洞みたいな古い洞窟から極稀に取れるとか何とか。秘密らしくて詳しくは聞けなかったんですけど>


 俺は<念話>で如月さんと会話している。電話の繋がらないド田舎(間違いなく敢えて外界から閉ざしているようだが)でも俺達のスキルの前では何の障害にもならない。

 遠距離通信方法が限られた異世界で便利に過ごすには必須級の技能だが、他のスキル併用とは言え異世界にいる姉貴にも繋がったことを考えれば届かない場所はないと言っていいだろう。


 会話の内容は先ほどの魔石の価値についてた。40万が500万になったと聞いて彼も驚いている。


<これが6等級や5等級を出せばどうなるか楽しみなくらいですが、数が出る品じゃなさそうなので魔石で更に大儲けってのは厳しそうですね>


 陰陽師が上級国民様だと解った以上、寄生しまくって金を吸い上げることに躊躇はないが、そこまで需要がある品かと言われると難しい。

 まだポーション類の方が希望がありそうだが、披露する機会がこれまでなかった。薬事法とか絶対引っかかるだろうし、積極的に売り込むことはない。


 何故なら俺達はグレーな商売は絶対にするなとユウキから強く言い含められているからだ。

 アイツの言い分は真っ当な商売で十分稼げるのに危ない橋を渡る必要が何処にあるんだ、というのものだが、より正確には違う。


 姫さんやイリシャなど俺達の”身内”に胸張って説明できないことはするなってことだ。俺も如月さんも口にしないユウキの意思は理解しているのでその意に沿うつもりだ。

 正規の手段で稼げる手段があるのに欲掻いて警察に目を付けられるなんて御免だからな。


<異世界アセリアでは魔石は電池の扱いだからね。日本とは違うさ>



 この世界に魔導具が存在すれば話は別だが、消耗品とはいえ一家に一つみたいに売れるわけでもないしな。異世界は技術が進んでいないが、その分魔法や魔道具で生活の質を補っている。大貴族や富裕層限定ではあるが。


<まあそれは仕方ないし、嬉しい誤算ということにしておこう。稼ぐなら貴金属やレアメタル系の方が確実だしね。僕の方で始めた家具売買も順調だよ、あれから4個売れたし>


<へえ、結構買い手があるもんなんですね>


 八面六臂の怒涛の活躍を見せる如月さんだが、彼の本業は家具職人だ。まあ、実際は全く売れなくて投資で大きな利益を出していたみたいだ。


 彼は彼でイケメンな上、とんでもスペックな超人である。有名な医者一族の家系に生まれて医師免許まで取ったのになぜか家具職人の道を選んだという変わり種だが、俺達は彼の多大な恩恵に与って異世界で成功することが出来たのは前に触れたと思う。


 その彼が最初に挙げた商売が家具売買だ。没落した貴族家が所有していた由緒ある家具を引き取ってこちらのセレブに売りつけようという寸法だ。

 家具は一定水準以上の人種にはステイタスになるんだそうで、成金なんかが箔を求めて買い漁るようだ。”このチェストはとある貴族家が所有していた~”なんて売り文句に価値を感じるのはどこの世界も同じだって事だ。俺には古ぼけた机と椅子にしか見えないが彼にかかってはアンティーク家具に早変わりだ。

 実際貴族が使っていたのは間違いないし、は確かだしな。


 彼はその生まれもあって伝手も多く、会社設立など時間のかかる商売の前に家具売買を本格化させていた。そして高級家具はお値段も相応だ。一脚の椅子に300万の値付けもビビったが、普通に売れたことにもっと驚いたわ。金持ちの神経は貧乏人にはよくわからん、だって椅子だぞ。

 そういえばチューバ―が良く幾らの家具を買ったとか動画にしてたっけ。見栄や節税対策だと聞いたが、そういう層にも需要はあるんだろうな。


 そんなわけで彼は異世界の品を着々と現金化し始めている。


<俺も何か手伝えればいいんですが、頼りきりですみません。こんな場所に閉じ込められてるし>


 魔石で結界を張り直すならその隙に俺が脱出できないか聞いてみたが、里長は今すぐ再構築する気はないようだ。

 葵が芦屋に追われることによって日本中の術者にかんなぎが実在すると知られてしまった以上、長年秘匿されてきた巫の隠れ里を探ろうとする勢力が現れても不思議はない。特に今は常に目を光らせているはずで、この時期に結界を張りなおすなんて派手な真似をするわけにはいかないと諭されると納得せざるを得なかった。


 大人しくあと三日ここで待機するしかない現状だ。

 まあ、葵がこれからどうするのか聞いてみたくもある。逃げるように帰ってきたが、あいつもアイドルやら学校やら突然全部放り投げるにはいかない問題を抱えている。特にメディア露出もしてる人気アイドルなんだから、突然書面だけで引退なんて出来やしないだろう。

 事務所も社長が死んだし、大混乱だろうしな。



<もともと玲二はディスニー要員でこっちに来てたわけだし、これは僕の仕事だから気にしないで大丈夫だよ。むしろ葵ちゃんを放置して帰ってきたらユウキが怒ると思うけど……>


<そうなんですよねー。ああ面倒くさい、面倒臭いがあいつを見捨てるわけにはもっといかないのが更に面倒臭い>


<ははは、今のユウキに似てるよ>


 マジですか? 確かにユウキはいつも面倒だと口癖のように言ってるが最後は全部解決しちまうからな。地味に似てると言われて喜んじまう俺がいる。



<でも、やることが出来たんだろう? その里の人たちに稽古をつけるとか聞いたけど>


<そんな大それたもんじゃないですよ。どうせ俺達の真似は無理なんだし、ちょっと魔法を使ってお茶を濁すつもりです。4千万の授業料と思えばそれくらいはしないと>


<そうだね。あ、ちょっとごめん契約相手と面会の時間だった。悪いけど、今は切るね>


<こちらこそ仕事中にすいませんでした。色々とよろしくお願いします>


 非常に忙しい彼の時間を奪ってしまった事に詫びつつ、何もできない俺は彼に心の中で声援を送っておいた。


<玲二の案件もそろそろ朗報を届けられそうだから、楽しみにしておいて。それじゃあ>


 それだけ告げて彼は<念話>を切った。

 普段通りの声音だったが、きっと激務中に俺に付き合ってくれたんだろう。何かお礼をしたいところだが、あの人それ嫌がるんだよなあ。


 何か彼の好きなものでも贈ってやれたらと思うんだが、今度ユウキと相談するか。




「玲二、お待たせ!」


 待ち合わせの場所は里の外れの空き地だった。そこは里の術者が訓練場にでも使っているのか、程よい広さと整地が為されていた。


 そこで待っていてと葵に告げられてから暫く待っていると、ようやくの事で待ち人が登場だ。


「おせーよ。午後3時からって言ったのはお前だぞ」


 芸能人は時間にルーズだって聞くが、こいつに関してはマジだったようだ。頼んだ側が約束から15分も遅れて来やがった。


「ごめんごめん、里の皆に言い訳するのに手間取ってさ」


「玲二さん、ごめんなさい。私が参加を願い出たのが原因なのです」


 葵をかばうように進み出た人物に俺は驚いた。


「瞳さん、貴女も参加するんですか?」


 葵を迎えに来て芦屋に捕まり、霊力どころか命まで吸われていた彼女は帰還後もしばらく安静にしているように言われたはずだ。あれから6日ほど経ったが、まだゆっくりしていた方がいい。生命力まで吸われるってのはかなり重症だからな。


「ええ、玲二さんが稽古をつけて下さると聞けば側付きの私が部屋で静養などしていられません。おばば様に直談判してお許しいただけました」


「本当は私達だけの予定だったのだけれどね」


「まあ、少数のみと言われていたが、3人でも構わないだろう? 少年」


 瞳さんの隣には琴乃さんと俺が里で初めてであった宝塚さんがいた。この二人が戦巫女と呼ばれる里の自警団の2トップらしい。


「ボクは見学ね。玲二の術は何度見ても感心するし」


 お前の意見は聞いてない。そういえばこいつ力を封印されてるとか言ってたな。


「ええ、もう報酬は受け取ってますので。これ以上増えるのは勘弁ですが」


「ふふ、それはないから安心して。貴方の力を疑っている者も大勢いるもの」


「でしょうねえ」


 この里に着いてからキャーキャー騒がれるのと同時に敵愾心に満ちた視線を何度向けられたか解らない。女嫌いの俺としては心地よいくらいだが、女の里だけあって男嫌いが多そうだ。


 俺の見たところ、この二人もそれに該当する。男嫌いは俺と仲良くなれる法則が発動するので俺は批判的な言葉も平然と受け入れた。


「おや、否定しないんだね」


「ええ、別に誰がどう思おうとも気になりませんね。最強の看板背負って商売している訳でもないですし。それより二人は久さんからどう聞いているんです? 正直言って俺のやり方とそちらではあまりにも違い過ぎて参考にならないと思いますけど」


「それを判断するためにもまず私たちが見学させてもらおうとしたのさ。自己紹介がまだだったね。私は北条麗華だ、よろしく後輩君」


「原田玲二です。ということは貴女も琴乃さんと同じ学校で?」


「麗華とは腐れ縁だと言ったでしょ? それはそうと、何を見せてもらえるのかしら」


 試すような視線は懐かしささえ感じる。俺も駆け出し冒険者だった頃はよく値踏みされたもんだ。その視線が驚愕に変わるのは何度見ても面白い。


「そうですね、とりあえずこんなものですか?」


 俺は土魔法で30メートル先に丸い標的を作り出すと、即座に風魔法でその中心を打ち抜いた。この間わずか一秒未満、得意の早撃ちクイックドロゥだ。ユウキには遠く及ばないが、アイツはいつだって最強最速なので問題ない。本人からも実戦レベルだとお墨付きもらってるしな。


「なっ!」「ええっ!」「まあっ」


 三者三様の言葉が返ってくる。見学者の葵だけはボクは知ってたもんね、と言わんばかりの顔をしてやがる。


「腕前を見せろと言われたのでこれくらいはやらないとマズいでしょう。剣も使えますが、女性相手にチャンバラするのは気が引けますし」


 というか絶対嫌だ。女、それも美人が相手だなんて冗談じゃない。組手も同様に却下だ。


「今のは、何をしたんだい? 符は使っていないように見えたが」


「麗華さん、玲二は陰陽師じゃないんですよ。完全な別物、イレギュラーなんです」


 麗華さんの方は俺に質問を重ねてくるが、琴乃さんは打ち倒した標的を確認に向かっている。


「では、これは巫術ではないと? なるほど、この速さ、そして威力。確かに私たちの技術とは全く違うわ」


「だから参考にならない気がしますよ? 金を受け取った以上、やるべきことはしますがね」


 それからもう一度同じことを求められ、今度はゆっくりと時間をかけて繰り返したが葵を含めた4人には俺が何をしているかまるで理解できてないようだ。


 そりゃ概念自体が違うからな、一番大事なことをしてないので今のままじゃ真似したくともできないはずだ。

 その意味では俺も彼女たちの力は一切使えない。


 だから興味は尽きない。


「むしろ皆さんはどうやって陰陽師の力とやらを使ってるんですか? 教えてくれればそちらにも何かヒントに繋がるかもしれませんよ」


 葵だけはヒントも何も今のままじゃ絶対無理だと解っているが、俺はこの場を利用して彼女たちの巫術を勉強する場にさせてもらうつもりでいた。



 できるなら式神とかちょっと使ってみたい。異世界の召喚獣と何が違うのか、男として単純に憧れるしな。



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