第21話 最強少年は悪巧みをする。
スマホの画面に映し出されているのは俺達が昨日出会った所属事務所の社長が死体になって発見されたという内容だった。
「な、なんでウチの社長が殺されてるの!?」
「いや、なんでって。そんなの芦屋の連中が始末したに決まってんだろ」
困惑する葵は物事の背景まで読めてないようだ。俺の方が当事者じゃないだけまだ周りが見えてるな。
「葵、ボサっとしてないで動け。これは敵の攻撃だぞ、今となっては時間は俺たちの敵だ」
「えっと、そうなの?」
なにも解ってない葵に俺は溜め息をつきつつ説明してやることにした。
「記事をよく見てみろ。内部でトラブったと書いてあるだろうが。てことは警察は怨恨の線で捜査するんだろうが、つい最近あの須藤と揉めた最も怪しい容疑者は誰が思い浮かぶ?」
「ボク、思いっきり喧嘩売った……」
「俺もな。そんでその光景をかなりの面子が見てる。目撃者は警察の事情聴取になんて答えるだろうな?」
葵の顔がみるみる曇ってきた。今の段階で真っ先に怪しまれるのは間違いなく俺達だ。ただ記事には事務所内で殺されたとあるから推定死亡時刻次第では矛先が逸れる可能性が……あるはずないな。
「で、でも! ボクが会議室を出た時には社長は生きてたし! ボクが殺したわけじゃ……」
言い募る彼女を手で制した。
「そんなん解ってるっての、その後に俺もあの屑に喧嘩売ったんだからな。それにもう誰が殺ったかはどうでもいい話だ。解ってるのはこのままだと芦屋の奴等に加えて警察にまで追われることになるってことだ」
「……警察には芦屋の手が回ってるんだね?」
「ああ、それもかなり好き勝手出来るくらいにな。言わなかったが、一昨日の夜にお前を捕まえにきた奴等は、その夜の内に全員死体で見つかったってよ。報道もされてないが土御門からの情報だから間違いないだろう」
この情報はあまり知らせたくなかった。自分のことで大勢の人間が死んだと聞かされた葵は顔面蒼白になっている。
俺も陽介から聞いたが、陰陽師は警察や国家機関に顔が利くようだ。その中でも数の多い芦屋一族はそれが顕著だとか。
「れ、玲二。どうしよう……」
「少なくともここに留まるのは論外だ。お前の迎えと合流するのがベストなのは変わらないが、このまま待つだけだけだと下手すると公開捜査になって俺とお前の顔写真が全国の茶の間に写し出される事になるぞ。お前の人気がさらに上がっちまうな」
「それは、避けたいね」
実情はこの記事で俺達、いや俺を炙り出すのが目的だろう。葵は力を封じられて一般人と大差ないが、俺は奴等の手勢を大勢始末している。昨日の件で力押しは無駄と悟った敵が搦手を仕掛けてきたのだろう。社長が始末されたのは約束事でも破ったか、芦屋にとって都合が悪くなったかのどちらかに違いないが、俺としては生きていてほしい。
あの野郎は俺の獲物だ。
だが、このまま隠れ続けたら直に警察も駆り出されて俺達の捜索が始まりかねない。
身内や財産とか失うものがまるでない俺と違い、葵にはアイドルの顔やら家族もいるからな。警察が本気で動く前にこちらから行動を起こす必要がある。
「と言っても馬鹿正直に警察に出向いたら、そのまま芦屋連中に引き渡されるだけだろうしな」
「そこまでやるなんて。一体何を考えているんだろ……」
葵の言葉には恐れが混じっている。。自分を巡って人死にまで出ているのだ、敵の目的が判明しないもの、そのなりふり構わない狂気のさまに気圧されているようだ。
「今は原因より対策と行動する時間だぞ。そこ退け、色々片付けるぞ」
葵の肩を叩いた俺は技能の一つである<範囲指定移動>を使い、キャンプセットを<アイテムボックス>に仕舞い込んだ。まだ何も予定は決めてないが、準備だけは終えておかないとな。
「ふぎゃあ!」
しかし俺の思考は変な悲鳴に中断されてしまう。
「あ、悪い、忘れてたわ」
テント内で爆睡中だったリリィがベッドがなくなったせいで、べちゃっと地上に落ちてしまったのだ。
「もー、なんなのさ、いきなり。葵のお迎えが来たの?」
「いや、それどころじゃなくなった。少し慌ただしくなりそうだ」
「なになに、どったの?」
眠気を一瞬で振り払ったリリィは実に楽しそうな顔で俺の話に耳を傾ける。本当に妖精って生き物はトラブル好きだな。
「ふ~ん。じゃあこのままだと警視庁捜査本部でローラー作戦で指名手配コースな訳だ。たいへんたいへん」
「リリィ、なんか詳しいね」
「ドラマで予習してあるし。今度はマッポとドンパチか、腕が鳴るね、玲二!」
「いや、ドンパチすると俺らテロリストにされるから。日本に居られなくなるからな」
リリィぱ半分本気でそう言っているのがもう長い付き合いになる俺には解る。そりゃ戦えば負けはしないが、戦った時点で破滅確定だっての。
「解ってるって。でもさー結構詰んでない、これ? 玲二は何をどうするつもりなの?」
「それを悩んでんだよな。普通に身の潔白を叫んでも取っ捕まって終わりだし、かといって警察相手に喧嘩したら人生終了だぞ。たとえここを切り抜けても一生監視生活になる」
「そうだよね、でもこうして悩む時間もあんまりないよ?」
葵の言葉は事実だ。俺がさっきスマホを見て知ったから仕方ない面もあるが、記事の掲載時間は朝の八時でそれから4時間以上が経過している。警察はもう手を回している筈で、のんびり悩む時間はない。
逃げ隠れしてもこれ以上は意味ないし、かといって考えなしに適当に動けば捕まって終わりだ。
さて、どうしたもんかな。
「ねえ、玲二。なにも思い浮かばない時はね、他の皆ならどう動くかを考えるんだよ。例えばユウならこういう時はどうしてるっけ?」
俺の脳裏にある仲間の姿がよぎった。破天荒という言葉が意味を失うほど色んな意味で滅茶苦茶な奴だが、誰よりも信頼できる男だ。
もしアイツなら……あ、そういえば似たようなケースが前にあったな。
あのときは……
頭の中で数多の情報の欠片が浮かんでは消えて行く。陰陽師、葵の実家。芦屋、土御門、警察、そして各勢力の追っ手。一つ一つのピースは全くの無関係でも組み合わせれば意味を成すこともある。
ここで俺が考えることはただ一つ。
相手が最も望まない展開は何だ? 絶対に嫌がるタイミングは? 俺達が横合いから最悪の一撃を加えるにはどうすればいい?
いくつかの仮説が思い浮かび、取捨選択を経て、とある計画に辿り着く。
全てが上手く行く保証はないが、やる価値はありそうだな。
「なるほどな……リリィ、助かった。とりあえずやるべき事が見えたぜ」
「どういたしまして。あとでパフェ奢ってね?」
「ああ、何杯でも奢ってやるさ!」
俺はジャケットの内ポケットからスマホを取り出すと最近手に入れた連絡先にをタップする。
さぁて、芦屋の皆々様よ。
俺達をこれで追い詰めたつもりだろうが、世の中には更に根性の悪い奴が居いるってことを教育してやるぜ。
「うわぁ、悪い顔してる」
「うーん、よくない影響受けてるなあ。これは一度言っとかないと」
外野がなんか失礼なことを言っているが、別に俺は悪事を働くわけではない。
善良な一市民として義務を果たそうとしているだけなのだから。
「よう、元気か? いきなり電話して悪いが、俺達、ちょっと自首しようかと考えてるんだ」
奴等の描いた絵図を根底からぶっ壊す俺の思い付きはこうして始まった。
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