第13話 最強少年は遊んでやる。
「はい、おしまい。
「一瞬で終わるから問題ないよ。僕の力を思い知らせてやるから綾乃はそこで見ててよ」
小学生(それも低学年だな)の方が前に出ると同時に後ろの女が何か手を動かしていたが、人払いの結界とか言ってたか? 確かに<空間把握>でもここら一帯が不自然な歪みを見せている。陽介に昨夜聞いた通り、陰陽師は自らの存在を一般人には隠しているようで、他人がこの戦いを目撃できないように手を打ったようだ。
しかし、人を意識的に近づけさせない空間を作れるとはな。こんな技もあるのか、つくづく俺達の知る魔法とは別系統だな。目の前の二人は話にならない弱さだが、俺の知る常識で測ると足をすくわれるかもしれないな。
「別に手柄を独り占めしないなら構わないわよ。ただしそこのイケメンは殺さないでね、持ち帰るから」
「それは約束できないなあ、僕は手加減するけど、それでも弱くて死んじゃうかもよ?」
「それに関しては俺も同感だ、どうやればお前ら程度に負けるのか想像もできねぇしな。そっちこそギャラリーが居なくてよかったじゃねえか。大恥かかなくて済んだぞ」
「このっ、野良術師の癖に生意気なんだよ! 僕の技を受けてみろ! 切り裂け、鎌鼬!」
怒りに満ちた目で俺を睨む子供は片腕を突き出して何事か叫んだ。するとそいつの手から黒い刃が産み出されて俺目掛けて向かってくる。
「風の刃でズタズタにしてやる! この世には凡人には絶対に越えられない高い壁があるのさ! それを思い知りながら……えっ?」
勝ち誇った顔でそう宣言した小学生は、俺の<結界>に自慢の攻撃が阻まれて仰天したまま言葉をなくしている。今の黒いのは風属性だったのか? 無色透明であることが最大の利点であるはずの風属性にわざわざ色を付けて何の意味があるんだか。遊んでんなぁ、こっちは機嫌悪いってのに、まともにやりあう気が削がれるぜ。これがむさ苦しいオッサンなら遠慮なくぶちのめせるんだが、相手が子供と女じゃこっちが悪者だ。
アイツが前に言ってたな、これが”白ける相手”ってやつか。
「これで高い壁ねぇ、随分と低くねえか? いや、お前さんの身長じゃ十分に高いか?」
ランドセル背負ってそうな子供の背丈を笑ってやるとその顔が怒りに染まった。俺への殺意で周りなんてまるで見えてないだろうな、あれは。
本当に見た目通りのガキだ。喧嘩ってのはな、怒りに我を忘れた方が負けなんだぜ?
だから
「こ、このぉ!」
「
「ったく、また同じことを繰り返すのかよ? 学ばない連中だな」
今度は小学生の後ろに退いていた俺と同じくらいの少女が、土で作られたかのような鋭い槍を生み出してこちらに放ってきた。
しかし結果が変わるはずもない。打ち出された鋭い土槍も俺の<結界>に阻まれた途端<敵魔力吸収>によって俺の魔力に返還されたんだが、この程度の端数がいくら手に入ってもな。
今の俺の魔力総数は4百万を超えているし、<MP急速回復>があるので一秒間で約15%も回復してゆくのだ。常時展開する各種スキルの消費以上に回復するのでこいつらのシケた魔力なんざあってもなくても同じだ。
「なっ! なにそれ! まさか物理障壁だっていうの? 魔祓い結界だってそんな効果はないはずよ!」
女が俺の<結界>に驚いているが、こちらではそんなに希少な技術なんだろうか? 技能としては非常に珍しいと思うが、同様の効果を発揮する魔道具は数多いので異世界ではそこまで驚くものではないんだがな。もちろん俺達の<結界>は超がつく特別製だ、なにしろ強化に強化を重ねている。
「お前らの常識で物を語るなよ。俺からすれば陰陽師とやらがこうして現代日本で生息していたことの方がよっぽど不思議に思えるぜ」
「あんた、まさか術師じゃないの? だとしたらその意味不明な力にも納得がいくけど」
今のは多少不用意な言葉だったか? いや、それでもこの流れで俺が異世界からの帰還者だと当たりをつけられるのは頭がおかしい奴だけだろう。
「さあて、それはどうかな。判断は任せるぜ、それよりそっちの攻撃はもう品切れか? あれだけ啖呵切ったんだ、もう少し俺を楽しませろよ。昨日のお笑い連中と言い、芦屋ってのは芸人の集まりか?」
そのように言い捨てた俺に対して小学生は怒りを爆発させた。
「ふ、ざけるなぁ! 僕は雑魚なんかじゃない! 僕はいずれ”芦屋八烈”に名を連ねる真宮寺亘だぞ!」
「はっ、そりゃご大層なこった。でも今は弱っちい小学生だろ?」
「なめるなぁ! 食らえ、砂礫! 滅べ、風雷! 疾く行きて滅せよ双牙! 急急如律令!」
俺の挑発に子供の方が我を忘れたように魔法を放ってくるが、結果は何一つ変わらない。最後の一撃は多少魔力が籠められていたが、俺にはそよ風一つとして届くことはない。
「くそ、何なんだよお前。僕の攻撃が何一つ効かないなんて、そんなのおかしいだろ!」
全力で俺を攻撃しても何の効果もなかったことと、もう一つの理由で亘と名乗った少年は膝から崩れ落ちてしまった。早いな、もう暫くかかると見ていたんだが、こいつ魔法の行使に集中し過ぎて呼吸しすぎだろ。後ろの女はまだ影響出てないってのによ、予定が崩れたな。
「あー、はいはい。ただお前が弱いだけだろうが、グダグダうるせえ小学生だな」
「亘、ちょっとあんた大丈夫なの? 様子が変よ?」
荒い息をしている小学生に後ろの女が声をかけているが、これは相手を心配したところでどうにかなるもんでもない。
「う、うるさい。僕はまだこんなものじゃ……」
「いや、お前もう終わってるだろ」
そう、俺の言葉通り、この小学生はもうお終いだ。既に俺の罠に気付かずに術中に嵌まっている。
俺の罠から逃れる術は何一つない。
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