ささくれ

飛鳥部あかり

ささくれ 


マキは退屈そうに窓の外を眺めている。

スマホは母、尚子の命令で家に置いてきている。

車の中はマキと尚子の二人だけだ。

無言が続く。


それには原因がある。

マキは高校に入ってから変わり果ててしまった。

勝手に髪を染めて、学校はすぐにサボり、夜はゲームをしてばかり。

いつの間にか不良へとなってしまった。


それに対して尚子は様々な葛藤があった。

本当は親として止めるべきだと思ったが、一度マキの好きなようにさせることにした。



「着いたよ」

「……」


今日は久々に祖母の家に行くことになっていた。

だが、マキは乗り気ではなかった。

(おばあちゃんの家とかつまんないだよね……。早く帰って動画見てぇ!!)


「いらっしゃい、マキちゃん。どうぞ中に入って」

「お邪魔します。……マキも」

「……お邪魔します」


祖母は心底嬉しそうに微笑んで、マキを出迎えた。

茶の間に入ると茶菓子が用意されていた。


「ほら、昔マキちゃんが好きって言っていたお菓子よ。たくさんあるから遠慮しないで食べなさい」


マキは無言で頷く。

(本当は、もうお菓子で喜ぶ年齢じゃないんだけど……)


「じゃ、ばあちゃんはお母さんとお料理してくるね。……マキちゃんも一緒にやる?」


マキは無言で首を振る。


「あら、そう。……何かあったら言ってね」


祖母は小さく微笑んでキッチンへと向かった。



茶の間にはマキ一人だけ。

スマホもないのでただただ暇だ。


「早く帰りたい……。めっちゃ暇……」


マキは、暇つぶしにテレビをつけようと思い、リモコンを探した。

祖母はあまりテレビを見ないようで、リモコンはなぜかソファの下にあった。

ソファの下に手を伸ばしリモコンをとる。


「……ッ痛」


手にもともとあったささくれが手を伸ばしたせいで悪化してしまったみたいだ。

少しだけ血が流れる。

ささくれは放っておけば治るが、気になりだしたらなぜかとても痛く感じる。



絆創膏を取りに行こうとマキは茶の間を出て言った。

小さな部屋に入り、絆創膏を探す。


「マキちゃん?どうしたの?」

「……絆創膏」

「絆創膏?ちょっと待ってね……あったあった!」


祖母は絆創膏を引き出しから出してきて持ってきてくれた。


「どこ怪我したの?」


マキはささくれを見せる。


「あら、ささくれね。血出てるわね……」

「……」

「……知っている?ささくれって“親不孝”って意味があるのよ(※諸説あり)」


祖母の言葉にマキは眉間にしわを寄せる。

(絶対何か説教されるじゃん……めんどくさ……)


「……おばあちゃんは私が親不孝だと思う……!?」

「ううん。マキちゃんは良い子でしょ?」

「……」

「あのね、お母さんがばあちゃんに相談してきてね……マキちゃんは最近寝れている?」

「ううん。友達とゲームしてるから……」

「お母さんが心配していたわよ。……もし、体調崩しちゃったらどうしようって……」

「………」

「お母さんのこと、好き?」

「……普通」

「普通か……。お母さんはね、マキちゃんのこと大好きなんだって。だから、マキちゃんの好きなことをさせたいって思っているんだって。だからこそ、マキちゃんにどう接したらいいか分からなくなっちゃうんだって」


マキは言葉を失う。

何を言えばいいのか分からなくなる。

そんなマキを見て祖母は微笑んだ。

そして、マキの指に絆創膏を貼って、昔みたいに「いたいのいたいのとんでいけー」とおまじないをかけた。



「お邪魔しました」

「……お邪魔しました」

「今日はありがとうね。……またおいでよ」

「はい」


おばあちゃんは少し寂しそうな笑みを浮かべてお別れをした。


帰り道、行と変わらず無言が続いた。

マキは絆創膏でおおわれているささくれを無言で見つめていた。


家について、いつも通りがはじまろうとした。

マキは家事をしている尚子の背中に声をかけた。


「お母さん、迷惑かけてごめん。………いつもありがと」

「……っ」




単純かもしれないが、マキは少しだけ、変わってみようと思った。

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ささくれ 飛鳥部あかり @asukabe

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