第2話
魔人は悪でそれ以外は正義、それは至極当然のことである。
魔人は人間を殺し、のうのうと生きている。
人間の血を好み、無慈悲に生きている。
僕はあの時から心に誓ったのであった、絶対に魔人は楽に死なせないと。
あの出来事からはや3年、僕は9つになり、常に魔人を殺す術を磨いていた。
「おい、ルナミス。いつまで休んでいる気だ」
「はい、すいません!」
僕はとても9歳児ではとても持てないような金属製の真剣を握り、すぐに木陰から立ち上がり男へ小走りで行った。
男の名はクタルバ、3年前。僕の命を救った命の恩人だ。彼はこの3年間、僕の野望の為に養子として引き入れてくれて、剣術、魔術、体術の三つを休む暇もなく僕に叩き込んでくれた。
「分かっているとは思うが、3年間君にできる限りの事を教え込んだ。そして明日のイービル戦士団入団試験に落選しようが当選しようが俺はお前を養うつもりはないからな」
「はい、わかっています」
二人は互いに剣を交わしながら、会話をする。そして僕の成長を実感した。クタルバに課された猶予は3年、それをフルに使い、明日の為に備えたのだった。
身体にできた痣、傷は数知れず。僕は努力を重ね、どんなに辛くても前に進み続けた。
その成果か、僕は剣を交わしながらでも多少の会話であれば、できるようになった。
あっという間にルナミスは隙を突かれて剣を首に当てられた。
「……僕の負けです」
唇を噛みながら、不機嫌な様子でルナミスは呟いた。
「まあ、そんな顔をするな、お前は見違える程成長したのだから」
「ですが、僕は貴方にこの3年間1本も取れなかったんですよ」
「それはそうなんだがな……」
僕は目から涙を流して、両手目を擦っていた。自分はまだ子供で幼稚だ、だからこんな感情が。だからこんなものが。
とにかく悔しかった。この3年間勝ちを実感したことがなかった。
こんな力じゃ、魔人の一人も殺せやしない、そんな不安に煽られる。
「もう……」
「もう一回はしない!」
クタルバは僕の言葉を遮るように言った。
「兎に角、明日へ万全な状態で挑むんだ。今日は風呂でも入ってゆっくり休んでくれ」
「はい……」
ルナミスは気乗らない様子で肩を落とし、小屋へ入って行った。
(それもそうか、明日に試験があって。それで大怪我をしたらどうするんだ)
唇から血を垂れ流し、トボトボ自室の扉を開けた。
すっかり手馴れた様子で水属性の魔術で身体の汚れを洗い流した。
こうして身体を洗うのも久しぶりだ。普段は暇さえあれば剣や魔術を鍛え、腹が減れば満足行くまで食らい、眠くなれば思う存分眠るという自堕落な生活を送っていた。
こう考えると家族と住んでた整った生活が嘘みたいに感じてくる。
まぁ、それも今日で最後なのだからな。
全裸で山奥にある源泉に向かった。
そして、ふぅ〜と身体の力が抜けた声を出して身体を温めた。
源泉は霧によって覆われていて景色がよく見えない。
すると何処からか鼻歌が聞こえてきた。
その音色は美しく、どこか包み込まれるような懐かしさを感じさせ、聴き惚れてしまう。
霧の中を凝視してみると、人影が映って見えた。
「誰かいるのか?」
得意の無詠唱魔術で風を起こして霧を吹き飛ばした。
するとたった一瞬ではあったが、裸体の少女の姿が見えた。
髪は透き通るほどに白く、吸い込まれてしまうような紅い瞳、そして整った顔立ち。それはまさに美少女であった。
しかしそう思っているのも束の間、少女は霧の中に消えてしまった。
僕は少女のいた先に駆け寄るがもう姿はなかった。
彼女の姿が頭に取り憑いて離れない。なんだよこのむず痒い感覚は、なんで彼女を忘れられないんだ?
顔を穂照らしながら肩まで湯船に浸かった。
源泉はやっぱり僕では熱すぎる。
そして次の日の朝、クタルバは小屋から姿を消していた。
魔人殺しの少年 乙彼秋刀魚 @otukaresan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。魔人殺しの少年の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます