第12話 ピニオンへのスカウト
ルーカスとクレイブはそれぞれの乗る竜共々、王竜騎士団に捕縛されて王都へと連行された。
フィオナとボーラさん達も気付け薬で復活し、回路を壊されたゾンダの修復もようやく終わりかけた頃。
「先程は失礼した。王竜騎士団・団長でラティール王国第4王女のアリシアだ」
僕らの所に戻ってきて兜を取り、挨拶をしたのは僕とそう変わらない年齢の女性。
「君がラ・グラン竜使いギルドで噂のリュート君だね?そちらが君の竜ピニオン」
「僕らを……知っているんですか?」
見ず知らずの、それも王族で国の直属部隊の偉い人なんかに僕の名前が知られている事に思わず緊張する。目の前に居るのがものすごい美人の女の人だって事もあるけど。
「正式に君たちの事が耳に入ったのは緑竜の森の大規模掃討作戦の前、ラ・グランの冒険者協会から報告を受け取った時の事だがね。ただ私個人は、他では珍しい『白い竜を連れた竜使い』が居るという事には前からずっと気になっていた」
僕に話しかけているけど、その視線はずっとピニオンに向けられている。ピニオンはそんな様子を不思議がっているのか、前足で立ったまま首を傾げてこちらを見ていた。
「単刀直入に言おう。君の相棒の竜・ピニオンは伝承にある『邪龍の力を唯一打ち払う事の出来る伝説の聖竜』である可能性が高い」
「えっ! ? 」
「この場に立っているだけで高位の付与術士から付与魔法を受けているような感じ。先ほど見せていたドラゴンゾンビになる前の竜の骨を浄化していた神聖魔法の息吹。そのどちらも伝承に書かれている白い聖竜の持っていた能力で他の竜には一切無いものだ」
驚いてはいたけれど、納得できる部分もあった。
先代ピートも白くて珍しい竜だったけどそんな能力は1個も持っていなかったからだ。それと幼竜の時は白っぽい身体をした竜は居ても種族進化すると赤とか青とか属性に応じた色に必ず変わると言われている中で、白いままの竜はピニオン以外に全く聞いたことが無かったのもある。
だからピニオンが普通の竜じゃないっていうのは予感はしていたけれど、まさかそんな凄い竜だったなんて。
「しかし、そう分かったからには申し訳ないが今まで通りというワケにはいかない。
リュート君。この竜・ピニオンは邪龍を倒すための勇者パーティーの一員候補として、我々の管理下で預かる事になる」
アリシアさんは淡々とした口ぶりで僕にとっては残酷すぎる事実を伝える。
「そんな! そしたらピニオンはどうなるんですか!? 」
「勇者パーティーへの加入に見合う様なAランクの、いずれはSランクになる見込みのある竜使いに預けられることになる。いつか勇者たちが力を付け、邪龍を倒す決戦に挑む時にはその者と共に勇者パーティーへの加入が義務付けられる」
「それは……僕が一緒ではダメなんでしょうか?」
「リュート君……君は今、Cランクだと聞いている。その実力で邪龍に挑むという事は自ら死を選ぶことと、唯一の邪龍を倒しうるかもしれない『勇者たちと聖竜』という人類の希望の、足を引っ張る事と同意義だ」
そこまで言われて僕は自分の無力さに絶望する。ピートを亡くした時のあの、自分の身体の半分を失う様な苦しみからようやく立ち直れて、ようやくまた一緒に居られると思ったのに! 今度こそずっと一緒に居られるって、やっとそう思えたのに!
「キュルルイ?キュルルルン」
下唇を噛みしめて俯いた僕を見て不思議そうに顔を近づけるピニオン。そのまま僕の顔をぺロペロと舐め回す。
まるで「何泣きそうになってるんだよ?弱虫だなあ」って言っているみたいに。僕もそんなピニオンの首に手を回して抱きしめる。こんなに信じあえているのに、必要とし合ってるのに……別れるなんてそんなの、できるかよ! 他の全てを捨てたって、世界中敵に回したって、僕は彼の隣に立つ。
そう思った時に僕は、ある一つの覚悟を決めた。
「僕が、いつかAランクの竜使いになります。ピニオンにちゃんと釣り合うように」
それからの日々は何も思い出せないくらい、凝縮された時間だった。
ルーカスが竜使いとしてのライセンスを剥奪されて主を失ったライドウを受け入れ、彼と共に任務と訓練を繰り返す毎日。ギリギリ勝てるかどうか、命を削るような魔物との死闘を何度くぐり抜けたか分からない。
前日の戦いでの傷が痛んで数日休みたいと思った朝もあった。それを我慢して戦いに明け暮れる日々を送ってさえ、間に合わないかもしれないと思う夜もあった。それでも、僕には絶対に間に合わなければならない約束があったから。
傷の上に傷を重ね、何度も自分の能力の足りなさに失望し、それでも歯を食いしばってやれる限りの訓練を重ねて、勝てないと思われていた相手を打ち倒し続ける事、3年。
勇者たちが世界中に向けて、ここ数年の魔物の凶暴化の原因である『復活した邪龍ファフニール』の討伐を宣言したその時。
僕はようやく、Aランクの竜使いにまで上り詰めていた。
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いよいよ次で最終話です。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
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