第11話 因縁の戦い

前回までのあらすじ

 火竜の谷を調査していた主人公、リュートたちは無造作に打ち捨てられ積みあがった火竜の骨の山を発見する。そこに現れた竜使いグレイブによって竜を狩ってその鱗や肉を売り捌く『竜狩り』の仕業であることが判明。竜狩りに加担するグレイブと戦い、ついに追い詰めたパーティーの人造機械人間ゴーレム、ゾンダだったが……

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 人型機械兵器ゾンダの背中には巨大な刃の斧が突き刺さっていた。その斧には雷の力が付与されていたらしく、未だにバチバチと音を立てて紫色の光を放っている。


「ゾンダ!! 」


 慌てた様子で彼に駆け寄るボーラさんとシャマルさん。斧が飛んできた方を見ると紫色の中型竜とそれに乗った大柄な男が着陸しようとしているのが見える。


「ルーカス……どうして……」

「よう、久しぶりだな弱虫リュート」


 悪びれる様子もなく竜から降りたルーカスは悠々とこちらに向かって歩いてくる。


「すまねぇけどクレイブと一緒でな。客と客側の人間を守るのは用心棒の仕事なんだわ」

「貴ッ様ぁ!! よくも!! 」


 ボーラさんとシャマルさんが怒りの形相で彼に向かって殴りかかる。でもその拳は届くことなく、彼の引き連れた雷竜ライドウの電撃で二人同時に倒された。


「機械の人形なんて雷で制御回路をやられればタダの鉄屑の塊だ。人形と一緒で作った奴もポンコツだったな」

「ルーカス君……そんな言い方するなんて!! 」


フィオナがルーカスに向かって怒るが彼は全く気にも留めない。


「あ?俺が間違った事言ったか?所詮は強い奴の言い分が通るようにできてンだよ。

 フィオナ、今からでも遅くない。そこの弱虫を見限ってこっちに付くなら分け前はくれてやる。でも邪魔しようってんならお前の可愛いペット達も無事じゃ済まないかもしれないぜ?」


「私、アナタのそうやって何でも力に任せて自分の思い通りにいう事を聞かせようとするところが大嫌いなの!

 ちょうど良いからこの前の返事をするわね。私はアナタみたいな暴力に頼って自分が優位に立たないと気が済まないような、弱い人と一緒になんて居る気は全く無いから! 」


 フィオナの返答を聞くが早いか、ルーカスの巨体がその場から消えフィオナの目の前に現れた。そのまま奴の拳がフィオナの胴体にめり込み、彼女の身体が後ろに吹っ飛ばされる。それを見てカルとミアは鋭い唸り声をあげるが、後ろに構える雷竜ライドウと拘束を解かれたクレイブ達に警戒して動けないままでいる。ルーカスに対しては苦手意識がある僕でも今のはさすがに……我慢できることじゃない。


「ちょっと顔が可愛いからって目を掛けてやったら調子に乗りやがって、このクソアマ」

「ルーカス!! お前ふざけるなよ!! 」


「一番ムカつくのはテメーだ、リュート!

 弱そうな竜連れて『可哀そうだけど頑張ってます』みてぇな顔して同情を引きやがって! 冒険者で成り上がってやるって頑張ってんのはこっちだって同じだっつーの!

 強さを手に入れるためなら何だってするし、弱い奴なんかねじ伏せて従わせて自分が強くなるための餌にする、それが冒険者ってモンだろうが!! 」


 そう言ってゾンダの背中に刺さったままの斧を引き抜いてこちらを向いて構える。僕も剣を構え、ピニオンも姿勢を低くして唸り声をあげた。


 前からずっと冒険者としても竜使いとしても考え方が違うって思っていたけれど、フィオナまで傷付けられてはもう彼の考え方や行動を許しておけない。


「ちょうど良い機会だからテメ―は俺がここでぶっ殺してやるよ! 俺らはこのまま王都行くからそうなりゃ町の竜使いギルドからのお咎めなんぞクソ喰らえだ! 」

「そう、じゃあ僕も手加減しなくて良いね」


 二人同時に地面を蹴って飛び出す! ルーカスは一撃必殺を狙った上段からの振り下ろしを狙ってくる。僕はそれを躱しながら腕を狙った横薙ぎを入れる。確かな手ごたえはあったけど、全身を岩のような鎧で固めたルーカスには大したダメージは与えられない。


「はははっ軽い! お前の剣なんてやっぱそんなモンだよな」

「なんとでも言ったらいいさ」


 そう、そんな口が叩けるのは今のウチだけだ。すぐにルーカスの遠心力を使った横薙ぎが来るけど、それも躱して先程と同じところを狙って一撃を入れる。次の攻撃も紙一重で躱して同じ攻撃、それを何度も繰り返す。ピニオンも雷竜ライドウから放たれる雷光の息吹ブリッツサンダーを回避し続けている。


「チョロチョロと逃げてたって俺様には勝てねぇぞ! それともナニか?真っ二つにされんの待ってるのか?」

「さぁ、どうだろうね」


 息を切らしながら憎まれ口をたたくルーカスと、言葉少なに応える僕。小型竜に進化してからだけど、ピニオンが近くに居てくれるだけで足元から力が湧いてくるような感じで全く疲れを感じない。きっと付与の力とかそういうモノなんだろうけど、それだけじゃないって僕は思ってる。これは僕とピニオンの信頼の力だ!


「じゃあお望み通り次の一撃で……ぬあっ!? 」


 斧を振り上げようとしたルーカスがバランスを崩して斧を取り落とす。そろそろ続けざまに同じ方の腕を狙って攻撃した影響で手に力が入らなくなってるハズだ。そう、コレをずっと狙ってたんだ!!


 ガラ空きになった彼の胴体めがけて渾身の突きを放つ。主人を庇おうと雷撃を放とうとしたライドウの首元にピニオンの全体重を載せた一撃が直撃して倒れた。コレで勝負は決まったハズだ!!



 そう思った僕の身体に突然、横からの強い衝撃が走って転ばされる。遅れてきた痛みに顔をしかめながら起き上がるとルーカスを庇うように火竜に跨ったクレイブが立ち塞がっていた。


「別に1対1じゃないとダメだなんて誰も決めてないだろ? どうすんの?続けるの?」


 ニヤニヤした意地悪そうな笑みを浮かべながらクレイブが言う。一騎打ちだって宣誓した覚えはないけど、流石にコレはないだろ!?



「ほう。ならばこの状況でも良いのだな?」


 何処からか聞き覚えの無い声が響くと辺り数カ所の岩陰から、中型竜に乗った全身黒い甲冑の一団がルーカスとクレイブを取り囲んだ。


「一騎打ちならば決着が付くまで待ってやろうと思ったのだがな。我らはドラグニア王国直属部隊・王竜騎士団だ!! 」


 その名前を聞いてクレイブが顔を青くする。


「話は先程捕縛した竜狩りの密売人どもから聞かせてもらった。ラ・グラン竜使いギルド所属のルーカスにクレイブ!! 貴様らは竜使いでありながらこのような事に加担していた罪、決して軽くはないぞ!」


 一団の中央に立つ人物がそう叫ぶと騎士団の面々は一斉にルーカス達の方へ槍を構える。


「クソッ!! ここまでかよ! 」


 憎々しげに吐き捨てて斧を地面に投げ捨てるルーカス。僕の力で最後まで決着を付けたわけでは無いのが残念だけど、こうして僕とルーカスの因縁の戦いは幕を閉じた。

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読んでいただいてありがとうございます。

最終話まであと2話となります。

明日は更新をお休みして最終話は土曜、日曜に更新いたします。

ご意見、感想など戴けると嬉しいです。

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