第10話 竜の墓場と竜狩り

これまでのあらすじ

 ドラゴンゾンビが多発している報告を受け、火竜の谷の調査に向かう主人公リュートとゴーレム使いのパーティー一行。谷に辿り着くなり地上からは火竜、空からは禿鷹の襲撃を受ける。はたして無事、調査任務を遂行できるのか?

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 ゴツゴツした岩の影を慎重に選びながら、恐る恐る進んでいく。上空を旋回する禿鷹に見つからない様に、火竜の群れが集まっている場所に鉢合わせない様に、だ。


 ルート取りを間違えれば谷の入り口で出くわした様な『空と地上からの波状攻撃』が待ち構えていると思うとめちゃくちゃ怖い。暑いはずなのに冷や汗が出そうな感じがする。


 一方で姿を隠せない人型機械兵器ゴーレムのゾンダは、僕らから離れた所をズシンズシンと歩いている。彼に関しては禿鷹たちも火竜たちも攻撃が通じないので「餌にならないヤツは襲い掛かってもムダ」と認識されるのか全く襲撃を受けないみたいだ。


「いっそゾンダの中にパーティーで乗り込める機能があればいいのにね」

「確かにそれは理想だけど今は技術的に難しいよ。出来たとしても一人が限界かもね」


 移動しながらフィオナとシャマルが小声で話す。そのうち僕らも乗り込んで戦える時も来るのかな?そうなったらって想像しただけでワクワクする。でもそれは人形使いドールマスターさんの特権になりそうだけど。


 一方でゾンダを遠くから操縦しながら僕らと移動しているボーラさんは大変そうだ。自分たちの身を隠す事と、ゾンダの動く先が安全かどうかにも気を配って常にキョロキョロと索敵を欠かしていない。その姿からゾンダをすごく大事に扱っている事が分かる。


「ん!? 右前の岩場の奥!! 何か積み重なってるな……」


 ボーラさんが今までとは違う何かを見つけ、その場所へと向かわせるようゾンダを操作している。僕らもその場所に向かってみる事にした。


「ここは……」

「なんて……こんな事って」


 その場所には大型の生き物のモノだと思われる骨が無造作に積み重ねられていた。先着させたゾンダに驚いたのか、骨に付いた肉を啄んでいた数羽の禿鷹がそこから飛び立つ。骨は比較的新しいと思われる物もあり、血生臭いニオイを放っていた。


「大きさと形からすると、どうやら火竜たちの骨みたいだな。数は……百は下らないか。手前側のは置かれたのがごく最近、下手すると数日内か数時間前って可能性もある」

「こんな扱われ方をすれば怨念でドラゴンゾンビになるのも仕方ないわ。誰がこんな事……絶対に許せない」

「キュイィィィィ……」


 積み重なっているのが同族の遺骸なのを察知したのか、ピニオンが悲しそうな鳴き声で一声鳴いて息吹ブレスを放った。すると息吹を受けた手前側の骨がキラキラと光って消滅していく。


神聖系の浄化エクソシズムの息吹……そんなのを使える竜を実際見るのはさすがに初めてだ」

「見るのは初めて、っていう事は他にも使える竜がどこかに居るっていう情報があるんですか?」


 シャマルさんの呟きについつい質問してしまう。ピニオンみたいな白い竜は珍しいから他にも居るとしたらやっぱり知っておきたい。


「情報、というかお伽話だけどね。

 かつて何百年も前、ゾンダぐらいの大型兵器が普通の存在だった時代があって、その頃は真っ白な聖竜の一族というのが居たらしいんだ。でもその時代の邪龍と聖竜の戦いがあった後、どちらの存在も姿を消したって聞いているよ。だからもしかしたらピニオン君はその伝説の竜と何か関係があるのかもしれない」


 シャマルさんが知っている伝説を話してくれている間もピニオンは息吹を吐き続け、少しずつ骨になった火竜を浄化している。祈るようにその姿を見つめるフィオナと辺りを警戒して見回しているボーラさん。


 その時、物陰の方からゴトリ、と音がして何かが動く気配があった。


 そちらの方を見ると、赤い中型竜の背中から降りて落とした何かを慌てて拾おうとする一人の男。彼の姿は何度も見た覚えがあるのでよく覚えていた。そして彼が抱えて拾い上げようとしているのは形から言って多分、竜の頭部の骨。


「げぇっ! リュ、リュート。こんな所で何してるんだい?」

「クレイブ……そっちこそ何してるんだ?」

「そうよ! それに今手に持ってるのとアナタの竜の背中に乗せてるの、火竜の骨よね?もしかして、アナタがコレを捨てていたの!? 」


 フィオナの問いかけに「いや、そのぅ」とか「俺が殺したわけじゃ……」とか小声でしどろもどろになるクレイブ。


「はっきり答えろ!! 」


 ボーラさんはそんなクレイブを一喝する。こちらまで怯むぐらいの剣幕だ。


「あ、あぁ。そうだよ! だが殺したのは俺じゃない!! 俺は竜狩りの商人のガイドをしているだけだ! 」


 怒鳴られて開き直ったのか、クレイブも大声で返してくる。


「火竜の鱗は高価な防具の素材になるし、肉は魔獣の上等なエサになる。ようするに金になるんだよ! そして俺は火竜を連れてるから侵入者として認識されにくい。だからガイドにうってつけってワケさ」


「クレイブは……そんな事して竜が狩られる事に心が痛まないの?」


「痛まないね! デカくなるまで野生で育った懐きもしない火竜なんざそこら辺の魔物と一緒だ! それに竜にしろ獣にしろ、人間サマが手綱押さえて力づくで言う事を聞かせて利用すんのも、殺して素材を奪うのもどっちも人間の都合だけだろうが! 」


 クレイブが自分の意見こそもっともだと言うように力説する。でも、僕はそんなの間違ってると思う。


「違う!! 竜と人間が信じあって初めて、竜使いって存在が成り立つんだ!! 獣使いだって人形使いだってみんな同じに違いないんだ! 力づくで従わせるだけなんて、そんなの僕は竜使いだって認めない!! 」

「ああ、お前の言うとおりだリュート。コイツに使役者テイマーの何たるかを分からせてやる! 」


 ボーラさんが僕の方を見て大きく頷き、ゾンダをクレイブの方へと前進させる。


「やれるものならやってみろよ! 言っとくけどウチのフレアの炎は鋼鉄も溶かすんだぞ!!

 いけ!! 火球の息吹ブレス・ド・ボムだ!! 」


 クレイブの乗っている火竜フレアの口から球状の炎の弾が二発放たれ、ゾンダに命中すると爆発を起こす! その衝撃で周囲の岩が砕けて土煙を巻き起こした。


「仕上はコレだ!! 獄炎の息吹オンフェル・ファイア!! 」


 土煙めがけて今度は直線状に高温の炎が放たれる! 離れた位置に居ても皮膚が灼けつくような熱さだ。鋼鉄も溶かす、って言ったのはウソじゃない気がする。こんなのマトモに食らって大丈夫なのか!?


「恐れ入ったか! これで自慢のゴーレムももう跡形もなく……えっ!?」


 土煙が収まるとそこには炎を浴びる前と変わらない姿のゾンダが立っていた。


「残念だったね。ゾンダの鋼鉄の身体のさらに外側には、僕の付与術で岩の加護がかかってるんだ! マグマの海に沈むぐらいでもなきゃ、彼は倒せないよ」

「今度はこちらの番だな! ゾンダ!! 目標補足次第殲滅サーチ・アンド・デストロイだ!! 」


 ゾンダが地を蹴り、凄いスピードでクレイブ達に迫る! ズシンズシンと歩いていた時からは想像も出来ないような機敏さだ。全く対応できないまま火竜フレアはゾンダの左腕に首筋を掴まれ、身動きが取れなくなる。


「ひいいっ!! やめろ! 殺さないでくれ!! 」


 そしてゾンダの右腕がクレイブを捕まえようと火竜の背中に迫った時だった!


 ドスッっという大きな音と共に、ゾンダがその動きを止めた。

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