第9話 火竜の谷の調査
「おはよ、ピニオン! よく眠れたかい?」
「キュイイィィィ♪」
朝、ベッドの足元で寝ているピニオンに声を掛けて起きる。
「ご飯、食べる?」
「キュイ♪キュイ♪」
いや、もう一つ不満というか不安な点があった。身体が大きくなった分だけ食べる量も増えて、幼竜や小型竜の時は10日間かけて1袋食べていたドラゴンフードをなんと、たった一日でペロリと丸々食べてしまうのだ。おかげで抱えないと持って帰れないぐらいのドラゴンフードの大袋を毎日、依頼が終わって宿に帰る度に買っていかないといけない。
「リュート先輩、さすがに小型竜になったら竜舎に預けた方が良いっすよ」
相棒のデュラを任務以外は竜舎に預けているレッドはそうアドバイスしてくれるけど、僕はやっぱり多少の苦労はあってもピニオンといつも一緒に居たいって思う。
でも……早く一緒に寝れるぐらいの大きなベッドのある部屋に泊まれるようになりたいな。
Cランクに復帰すると早速、偵察や魔物討伐といった任務の現場に毎日駆り出される。昇格の話があった時のエレノアさんの話は本当らしく、僕がピートを亡くしてお休みした数か月前より強い魔物と戦う機会は増えてるし、どこの現場も冒険者が足りていない。
「まったく、こんな時にルーカス君とクレイブ君は何してるのかしら」
エレノアさんによると彼らはここ最近、依頼も受けず竜使いギルドにも全く顔を出していないらしい。火竜の谷で彼らの姿を見たという人はいたけれど、何をしているのかまではわからないみたいだ。
僕が今日、調査に向かうのはその火竜の谷。地表からマグマの熱が噴き出しているところが沢山ある谷で、文字通り熱に強い火竜の住処になっているんだ。
最近そのエリアで骨だけの姿になったドラゴンゾンビによる被害が多いので、理由を調べてきて欲しいというのが今回の依頼内容。
「あ! リュート君久しぶりだね~。それにピニオンちゃんも」
「キュイイ♪」
「なんだ、お前ら知り合いなのか」
待ち合わせ場所で待っていたのは勝手知ったる獣使いのフィオナと、不機嫌そうな二人の男性。その後ろには大きな身体の機械みたいなのが微動だにせずに待機している。
「俺は付与術士のシャマル、んでこっちが
「フン、竜使いにとっては懐かない人形など興味ないかもしれないがな」
『ゴーレム・ブラザーズ』のシャマルとボーラって言ったらこの町では有名人だ。彼らの操るゾンダは人形使いギルドの最高傑作でその力は
「お! 分かってくれてるねぇ♪ これだけの大きさともなると手足や頭と胴体、各部位の接続部の強度維持が動かす上での課題でね、その補強がこの凄腕付与術士シャマル様の技術の結晶……」
「余計な事はいい! とっとと依頼現場に向かうぞ!! 」
とボーラさんに怒られる。人形使いと竜使いはお互いを忌み嫌ってるというけどそのせいかな? 僕はそんな偏見持ってないつもりだけど……ちょっと怖い。
そのまま火竜の谷に向かって4人で黙々と移動する。谷に近づくにつれ、地面にも樹にも緑が無くなり辺りの風景が色を無くしていく。僕はココに来るのは久しぶりだけどやっぱり苦手だ。横を見るとフィオナも暑さと地面から噴き出すガスで気持ち悪そうにしている。
「フィオナ、大丈夫」?
「うん、何とか大丈夫よ……ねぇリュート君、戦闘になる前に話しておきたい事があるの。あのね、この前なんだけど……」
「お二人さん、来やがったぜ!! 」
シャマルさんの声に前の方へ向き直ると、ドドドッという大地を鳴らす音と共に赤黒い影が幾つか近付いてくる! 火竜が3匹、大きさから察するにピニオンと同じ小型竜だ。でも幼竜から人と暮らす個体と違って谷に住む野生の火竜は気性が荒く、顔つきも愛らしい感じはない。いかにも獰猛な肉食獣、って雰囲気。
さらに空からは甲高い鳴き声と共に岩の上に降り立った禿鷹(ヴァーチャー)の集団。こちらを谷に迷い込んだ哀れな獲物だと思っての、あまり嬉しくない歓迎だ。
「竜は俺らがやる! お前らは禿鷹をやれ!! いくぞゾンダ! 」
ボーラさんが叫んで竜たちの方を指差すとゾンダはそちらに向かい突進していく。一方、こちらに向かって急降下してくる禿鷹の攻撃を僕とカルとミアで防ぎ、フィオナの風魔法と飛べるようになったピニオンが空中へと逃げる彼らを追撃する。
ある程度の交戦のあと、こちらを簡単には倒せないと悟った彼らは遠巻きに去っていった。
「大丈夫ですか?」
「ああ、問題ない。ゾンダには竜の爪や牙も、炎の息吹もこの程度なら効かないからな。そっちはどうだ?」
声を掛けるとボーラさんは涼しい顔でそう答える。でも僕らは今の攻撃を無傷で切り抜けるので精一杯だ。見るとカルもミアもピニオンもぐったりしてる。傷こそ無いけどこの暑さの中の戦いじゃ体力が持たないだろう。
こんな状態で戦闘を繰り返しながら谷の探索を進める事に不安を覚えつつも、僕たちは火竜の谷の奥へと足を踏み入れた。
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