第8話 激闘のあと

前回のあらすじ

 ロックブロスの群れを討伐するために緑竜の森に入ったリュートたち。

だがそこで通常の数倍もあるボス猿・変異型ロックブロスと遭遇し戦闘になってしまう。ピンチに陥ったリュートとピニオンだがその時、ピニオンの身体が光りだし、不思議な力に助けられてリュートはピンチを切り抜ける。だがそこに、ピニオンの姿は無かった。

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「先輩……大丈夫、ですか? 」


 俯いて口を開かない僕に気付いて声を掛けるルシエル。


「え、あぁ、うん……こっちはケガはないよ。ルシエル達は大丈夫だった?」


 僕は敢えて平静を装って、淡々と被害などがないかどうかだけを尋ねた。


「辺り一帯が光に包まれた瞬間、樹木魔法で傷付けられて痛んでた足首が治ったんです。その後、身体が考えられないぐらい軽くなって皆、普段以上に動き回れたおかげで無事でした」

「ピニオンちゃんがね……助けてくれたのよ。リュート君と、皆を」

「そう……だったんですね」


 ルシエル達3人からはピニオンが光と共に姿を消したところまでは見えなかったんだろう。それっきり、誰も喋ろうとしない空気をフォローするようにレッドとリヴァルが口を開く。


「俺は、先輩の竜は生きてるって信じるぜ! だって死体があったわけじゃ無いんだろ?」

「ちょっとレッド、言い方……」

「確かに。コイツも種族進化したのが戦いでピンチに陥った時だったけど、一瞬こうピカっと光って戦ってた魔物を全部吹っ飛ばしたんだ! だからもしかしたら同じように……」


「じゃあ何でここに居てくれないんだよ!? おかしいだろ!?? 」


 思わず、僕は叫んだ。


 そうだったら良い、戻ってきてくれるならって一番思ってるのは、僕だ。でもそうやって期待して、もしそれが外れたら……って考えたら。


「アイツは僕らを助けてくれたんだ。最後に! 自分の身を挺して! そのためだけに戻ってきてくれたんだよ、きっとそうだ」


 そう。ピニオンが僕の目の前に現れたのは、僕を心配してピートがほんの少しだけこの世界に戻ってきてくれただけなんだ。でもそんな奇跡は、もう終わり。


 そう思って諦めるしか、自分を納得させられる方法は無かったんだ。




 誰もが言葉を失っている中で、誰かが僕の腕を後ろから引っ張ろうとする。


「キュイイ! キュイイ!! 」

「やめてよ! そんな風に鳴き声を真似たってアイツは……へっ!? 」


 振り返ると大きな舌で顔を舐め回される。くすぐったさに身体を離すとそこには……ピニオンが後ろ足で立ち上がっていた。


「キュルルイ? 」

「ピニオン!! お前! 生きていたんだね!? 」


 驚きながらも僕はピニオンを抱きしめていた。


「ホントに……いなくなったかと思って心配したんだぞ! もう……」

「キュイイ」


 温かさと顔の周りの柔らかい毛の感触に思わず涙が溢れそうになる。まるで『悪かったよ』って言ってるみたいにピニオンは僕の頬に自分の頭をグリグリと擦り付けて甘える。


「リュート君……ホントに良かったね」


「あれ?でもなんかコイツ、デカくなってません?」


 レッドに言われて身体を離し冷静に見てみたら、前足で立ち上がると僕の身長と変わらないぐらいの大きさになっていた。この前までは立ち上がっても腰ぐらいまでの高さだったから、小型竜に進化したって事なのかな。


「オレの予想、当たってたでしょう。でもホントに良かったですね、先輩」


 そう言ってリヴァルが安堵の笑みを浮かべる。本当に、生きていてくれてよかった。



 その後は5人で竜使い・獣使いなどの全てを束ねる冒険者協会へ、ロックブロスの巨大化変異と小鬼族の出現、それらについて早めに手を打って貰うように証言とお願いに向かった。数日後、僕らの証言はかなり重大な事だと認識されたのか、この町の全てのCランク以上の冒険者に討伐召集が掛けられる。



 それから5日後、大規模なロックブロスと小鬼族の掃討作戦が行われてロックブロスは緑竜の森から姿を消した……らしい。僕はそれに参加できなかったので分からないけれど。


「今回の功績はアナタたちのお陰よ! 本当に、ありがとう! 」


 冒険者協会の会議から戻ったエレノアさんが僕たちに深々と頭を下げる。掃討作戦の件で知ったんだけど、エレノアさんは元Aランク冒険者で竜使いギルドのリーダー役として前線で戦ってきたらしい。そりゃルーカスの斧の一撃を片手で受け止めちゃうわけだ。


「討伐の結果、相当数の小鬼族コボルドがロックブロスの巣に紛れていたことが分かったわ。それにBランク冒険者でも手こずるレベルの、通常のロックブロスではありえない成長をした個体が十数匹。

 そいつらがどんどん成長して数を増やして、幼竜や森に入った冒険者をエサにしていたらと思うと……ココで手を打てたのはあなた達の快挙よ! 」


 そう言われてルシエルが照れくさそうに斜め下を向く。彼女にとってあこがれの冒険者は現役時代のエレノアさんだったらしい。冒険者協会へ報告に行った後のお疲れ様会でリヴァルから聞いた話だ。


「ルシエルさん、レッド君、リヴァル君。三名はこの功績を称えてDランクからCランクへの昇格とします! 」


「え!? マジで!? 」

「俺達が!? Cランクだって!? やったぁぁぁぁ!! 」

「嬉しいです! 先輩、ついにオレ達も先輩に並びましたよ!! 」


3人ともランク昇格にそれぞれの反応で喜んでいるみたい。


「そしてリュート君。本来ならば現在はEランクだからDランクへの昇格となるのだけど……今回は特例を認めてCランクへの昇格とします! 」


 えええっ!! それには僕もさすがに驚いた。

 異例の事とは言ってもFランクから4年かけてやっと獲得したCランクまでの昇格を、こんなに簡単に認めちゃって大丈夫なの?


「獣使いギルドのフィオナちゃんと共同とはいえ、今回あなたが倒したロックブロスのボス猿は大きさ、強さから言ってもBランク冒険者パーティーで挑んでやっと勝てるレベルの存在だったハズよ。それを倒した冒険者がDランクで良いワケないじゃない! そんな事したら竜使いギルドが冒険者協会から怒られるわよ。フィオナちゃんもきっと獣使いギルド向こうでBランクへの昇格を受けてると思うわ」


 エレノアさんが笑顔でそう言う。冒険者としてもギルド事務員としても経験豊富で優秀な彼女が言う事なんだから見立てに間違いは無いんだろう。


「それにね、私個人としては何かきっかけになる理由があればアナタを元のCランクに戻したいと思っていたの。それだけの実力があるギルドメンバーなのはわかってるし、最近何かと魔物の活動も活発で調査や討伐に必要な人員も足りてなかったから」


 ああ、そういうことか。でも、そう思ってもらえてた事はすごく嬉しい。


「では改めて。Cランク竜使いのリュート君、お帰りなさい」

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お読みいただきありがとうございます。

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