第7話 変異猿の強襲
ここまでのあらすじ
緑竜の森にロックブロス討伐にやって来た主人公リュートと少年竜ピニオン、友人で獣使いのフィオナ達。しかし予想外の敵に苦戦を強いられる。一時撤退を考えていた彼らだが、そこに遠くから近づいてくる大きな何かの足音。果たしてそれは何なのか?
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それは僕らの身長の2倍以上、森に茂る樹の高さと同じくらいの巨大なロックブロスだった。
森の木をまるで伸びた枝でも払うようにかき分け、薙ぎ倒し、僕らの前に出てくる。その後ろにワラワラと普通のロックブロス達も数十匹、付き従うように飛び出してきた。
「貴様ラガ今回ノ侵入者カ。コレシキノ人数デ歯向カウトハ愚カ者メ! 」
ロックブロスって普通は知性も低くて人語を解さないので喋ることは無いハズ。なのにこんな風に喋る個体に出会うのは初めてなので僕もフィオナたちも驚いている。
「お、お前!! 普通のロックブロスとは違うのか!? 」
軽く怯みながらもレッドが大猿に向かって叫ぶ。
「アァ、コイツ等ガ『竜ノ子供ヲ食ベレバ強ク賢クナレル』ト教エテクレタカラナ。竜ノ子供ヲ10匹モ食ベタラコノ通リヨ!! フハハハハハ! 」
僕が切り裂いた小鬼族の祈祷師の残った服を指しながらボス猿が笑う。
「コイツ……なんて事を!! 」
普段は口数が少なくて冷静なリヴァルが怒りに拳を震わせている。僕だって同じ気持ちだ! 人と会うべくして生まれた平和的な幼竜を食べるだなんて!!
「勿論オレハ更ニ強クナル! ソシテコノ森カラ邪魔ナ人間ドモト竜ドモヲ滅ボシテ我ラノ森トスルノダ!ソノ為ニ貴様ラノ竜ヲ差シ出セ!! 」
「絶っっ対にお断りだ!! お前は此処で僕たちが駆除する!! 」
僕がそう叫ぶと他の全員が武器を構える。このパーティーの中で一番小さいピニオンですら、姿勢を低くして唸っている。
「ソウカ、ナラバ戦イダ!! 」
大猿は上を向いて咆哮を上げ、自分の胸を両手でドスドスと叩いた。それが合図なのか、後ろを取り巻いていた猿の数がどんどん増えていく。まるで森中の猿が集まってきているみたいだ。
「僕とフィオナでボス猿の相手をする! 3人は周りの猿たちを切り崩してくれないか?」
「分かりました、先輩! どうか気を付けて」
「ルシエル達も3人で協力して、決して離れずに戦ってね」
僕は3人にそう告げて、正面の大猿と向かい合う。離れた位置からでも分かるくらいの大きさと威圧感。まだ戦ったことは無いけど、ゴーレムでも前にしてるみたいだ。こんな奴に僕とフィオナで勝てるだろうか?まだ小さいピニオンを連れて。
「ピニオン、君はこの辺で隠れて待っててくれ。絶対に戻るから」
「キュイイ! キュイイ! 」
そう言ったが僕のズボンの裾を噛んで離さない。
「リュート君、ピニオンちゃんも一緒に戦うって言ってるわ。側を離れないって」
「でも、巻き込んでしまったら……」
「それも含めての竜使いでしょう!? 絶対に守る!って。ピニオンちゃんだってリュート君に対してそう思ってる筈よ! 」
「キュイイ!! 」
大猿への警戒を解かずにフィオナが僕に言う。
「そっか……うん、そうだね! わかった! 絶対に離れないで付いてくるんだよ、ピニオン」
「キュイ!! 」
僕らが話している所にボス猿が岩を投げつけてくる! ロックブロスの投げてくる岩とは比べ物にならない、馬車とかそれぐらいの大きさの岩だ。
フィオナとアイコンタクトを取るとフィオナは左へ、僕は右に向かって地面を蹴る。そのまま姿勢を低くしてボス猿の方へと走り込んだ。途中でロックブロス達も岩を投げつけてくるので、速度に緩急をつけたり走る軌道を変えて躱しながら距離を詰めていく。振り返れないけど足音からピニオンもちゃんと僕の後を付いてきてるみたいだ。
「くらえぇぇ!! 」
低い姿勢から飛び上がってボス猿の脇腹に渾身の横薙ぎを入れる! タイミングを合わせてカルが左腕に食いつき、ミアは鋭い爪を右肩に突き刺す! ピニオンも必死でボス猿の太ももに食らいついてる。
「氷よ、我が槍となって敵を貫け! 【
そしてフィオナの唱えた氷魔法による槍がボス猿の心臓を貫いた!! ……ハズだった。
「コノ程度カ!! 」
「な、何で!? 」
僕の剣はボス猿の皮膚を浅く傷つけただけでそこから刃が通らず、フィオナの氷の槍も突き刺さる手前で弾け飛んだ。
ボス猿が身体ごと両腕を振り回すとカルとミアが吹っ飛び、僕も少し離れた地面へ吹っ飛ばされる。咄嗟に受け身を取ってボス猿の方に向き直ると、ピニオンが首の辺りを掴まれ宙吊りにされてジタバタと藻掻いていた。
「ホウ、美味ソウナ竜ダナ。望ミ通リ喰ッテヤロウ! 」
「待ってくれ!! ピニオンを返せッ!! 」
僕は必死でなりふり構わず、ボス猿に全速力で突撃する! ここで死んだり大怪我したって構わない、ピニオンを死なせずに済むのなら、ってそれだけを願って!!
「ギュオォォォイ!! 」
ボス猿の大きく開いた口にピニオンが飲み込まれる直前、ピニオンが発したと思えないような竜の咆哮が鳴り響き、辺りが光で包まれた。眩しくて細めた目から見える光の中に、巨大な竜が羽を広げて降り立つ姿がシルエットだけが見えた、様な気がした。
そして光が収まって目を開けた次の瞬間、ピニオンの姿は何処にも無かった。
食べられてしまったわけではない、と思う。それが証拠にボス猿も何が何だか分からないという顔をしている。
この状況でわかるのはただ一つ、ここが攻撃のチャンスだという事だけだ。
「てえぇぇぇい!! 」
僕は地面を蹴り、ボス猿に先ほど弾かれたのと同じ箇所に向かって剣を斬り付けた! 今度はイケる!! ってそんな気がした。だってさっきから足元から力が湧き上がってくるような感覚があるんだ。多分、これはピニオンがくれた力なんだと思う。
「グボワァァ!! 」
僕の渾身の剣は今度はボス猿の胴体に深々と傷を付けた!!
「今度こそ!! 光付与【氷結の鉾】!! 」
フィオナも先程の魔術にさらに魔力を込めた槍を放つ! 今度は弾かれずにボス猿の心臓に深々と突き刺さる。
「何故ダ……コレ程ノチカラヲ手ニシタトイウノニ……」
ボス猿は理解できないと言った表情を浮かべながらその場に倒れ伏すと、そのまま消滅した。周りのロックブロス達も3人にかなりの数をやられたのとボスが倒されたのを見て、森の奥へとバラバラに逃げていく。
「勝った……んだな」
「ええ。ピニオンちゃんが……助けてくれたおかげね」
なんとか勝ててホッとしたけれど、ピニオンの姿が此処に無い事が不安で、僕は心から喜べなかった。
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