第6話 ロックブロスとの戦い
ここまでのあらすじ
2代目の竜、ピニオンをお迎えした主人公・リュートは友人のフィオナと後輩の竜使い3人組ルシエル・レッド・リヴァルと共に、緑竜の森で活動を広げる猿型魔物・ロックブロスの討伐作戦に参加した。
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しばらく森の中を用心深く進んでロックブロスの生息域の近くまで来る。するとそこは数日前に訪れた森とは雰囲気が違っていた。
なんだろう、鳥のさえずりも聞こえないし風もどことなく淀んでいる感じ。
聞こえてくるのはロックブロス達の甲高い奇声だけで、森の中のすべての生物をロックブロスに排除されてしまったかのような気がしてくる。
「アイツら、森を我が物顔で荒らしやがって。一匹残らず駆逐してやる! 」
「そんな風に逸ってはダメよ、レッド。こちらはどうやったって何十匹も相手にするには人数が足りないんだから。奴らの巣を各個撃破で2つぐらい、30匹も駆除できれば今日は上出来じゃないかしら」
「そうだな。今回はルシエルの言い分の方が正しそうだ……でもこの戦力で俺なら3つは潰しておきたいけどな」
血気盛んなレッドと慎重に計画を練るルシエル。それを客観的に見ながら妥協点を探るリヴァル。バランスの取れた良いパーティーだと思う。
今回の駆除依頼の岩を投げてくる猿・ロックブロスは火と刺突には弱いし、近付いて個別に叩いてしまえば大した脅威では無いのだけど、大勢に囲まれてしまうと分が悪い。大体は十数匹の群れで集まっているのでこの人数なら多分、各個撃破は大丈夫だろう。
「ググワ!? キキィー!! 」
そう考えていたら早速、こちらの姿を見つけたロックブロスから顔の大きさぐらいの石が飛んできた。その一匹の声を聞きつけてか、数匹のロックブロスが投石に加わって何方向かから僕らに向けて大きさがバラバラの石が投げ込まれる。
それらを躱しながら石の飛んでくる方を冷静に観察すると敵は多分6匹ぐらい。向かって左側の大きな木の周辺と、右側の大岩の陰から2、3匹が交互に石を投げているような状況だ。
「リヴァル、俺は左側のをやる! お前とルシエルは右を頼む! 」
「おう! 任せとけ!! 」
すぐさまレッドが左に、少し遅れてリヴァルが右に飛ぶ。サポートするようにルシエルとフィオナも左右方向へと展開した。
「いけっデュラ!! あの木の根元に向けて
「ギュオオオオオオ!! 」
レッドの相棒、火竜のデュラがロックブロス達の隠れる大木に向かって息吹を放つ。燃え盛る大木を見て逃げようとする二匹の猿にレッドの矢が貫通した。
「一緒にいくぞアルテ!!
「ギュイイイイイイイ!! 」
リヴァルとその相棒の岩竜アルテが突撃する姿勢をさらに前のめりに屈めると槍先が光り、ロックブロスの投げつけた石を砕いて速度を増す。次の瞬間、岩から飛び退いた二匹のロックブロスは槍と角の一撃に貫かれ、絶命した。
「逃がさないわよ!
ルシエルが地面を蹴ると風の力がその背中を押し上げ、後退しようとした一匹の猿に向かって飛んでいく。次の瞬間、彼女の剣は猿の身体に吸い寄せられたみたいに深々と突き刺さっていた。
三人の戦いぶりは久しぶりに見るけれどもう、一人一人が先輩後輩とか無くて僕と同格の冒険者だよなって感じる。例えば他の依頼、他の場所で居合わせたとしても彼らになら安心して背中を預けられるくらいだ。今回の依頼は安心して後ろから見守るだけでホントに良いのかな?って思った瞬間だった。
「きゃああああああ! 」
「ぐわぁっ!!! 」
取り逃したもう一匹を追いかけようとしたレッドの服に数本の矢が刺さっているのが見える。視線を移すと反対側では足元を伸びてきた木の根に絡めとられたルシエルが倒れていた。
おかしい! ロックブロス達は群れで襲ってくる魔物とはいえ、武器や罠を使うほどの知能は持ち合わせていないはずだ。となると敵はロックブロスだけじゃないのか!?
「ケヒーッヒッヒッヒ! 」
人間にしては甲高い、本能的に癇に障る感じの笑い声が聞こえて、ロックブロス達の居た場所の奥に見えたのは背の低い人型の集団。この森には本来居るハズの無い魔物、
小鬼族は一匹一匹では大人の腰ぐらいまでの大きさで、身体も小さく力も弱い生き物なんだけど人間と同じように武器や罠を使い、魔術を使う個体まで居る。そんな奴らが集団で襲ってきた時の脅威度でいえば、戦術の多様さからロックブロスよりも遥かに格の上がる相手だ。現に猿たちでは使ってくると思わなかった魔術とボウガンで窮地に立たされている。
僕は地面を蹴って右側に飛び、ルシエルの足元を絡めとろうとしていた魔術の木の根を切り払った。
「リヴァル! ルシエルのフォローを頼む! 」
そう告げると突進した勢いのまま、魔術を放ってきた小鬼族の
左側を見るとちょうど同じくらいのタイミングでフィオナの従えるカルとミアがボウガンを構える小鬼族に噛みつき、倒して消滅させていた。小鬼族に混じって遠巻きに様子を見ていたロックブロス達はそれを見て一旦引き揚げていく。
「レッド! 怪我はない!? 」
「大丈夫よ、間一髪で致命傷はまぬがれたみたい」
フィオナがレッドの服に刺さった矢を素早く抜きながら応えてくれる。でも当のレッドは何カ所か血も出ていてしんどそうな表情だ。
「今日はこれぐらいで引き上げた方が良いかもね……」
確かに今の僕らの戦力じゃ同じようなヤツらが襲ってきた時、対応しきれない。この森にあとどれくらい小鬼族が入り込んでいるか分からないけれど、それらも相手にすることを想定してせめて8人以上の腕の立つパーティーでの駆除作戦に切り替えをお願いした方がよさそうだ。
ルシエルとリヴァルも無事なのを確認して僕の判断を伝える。レッドは自分のせいだと悔しがって落ち込んでいたが一旦撤退する事には承諾してくれた。
「先輩、すみません。俺のせいで……」
「いや、仕方ないよ。小鬼族まで居るなんて想定してなかったし」
そんな会話をして森の入口へ向かおうとしていたその時、岩が動くような大きな音と共に何かが近付いてくる足音が聞こえた。
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