第5話 緑竜の森とシーラム竜騎士団
夢を見た。
森の中で自分の背丈ぐらいもある茂みをかき分けて、縦横無尽に動き回る小さな影を追いかける、そんな夢。
「キュイ? 」
幾つ目かの茂みをかき分けた所で追いかけていた影の主が振り返り、首をかしげる。
「向こうはリュートに興味を持ってくれてるぞ! もう少しだ!! 」
夢の中で父さんが僕にアドバイスしてくれる。これまで何度も逃げられたり、噛みつかれたりしているので用心深く、刺激しないように姿勢を低くして相手と同じくらいの視線で距離を詰める。
「やあ、僕は君たちと友達になりたいと思ってこの森に来たんだ。僕のパートナーになってくれないかな? 」
彼らに人間の言葉が理解できるかどうかは分からないけれど、きっと聞いてくれると信じて話し掛けてみる。彼は首を傾げたまま、少し考えるような仕草を見せると次の瞬間、ピョコピョコと近づいてきて僕の顔を一舐めした。
それが僕が10歳の時の、僕とピートの出会いだった。
「キュルルル♪」
顔に生暖かい感触を感じて目を覚ますと、僕の枕元に寝ていたピニオンが僕の額を舐めていた。『早く起きてよ、朝ご飯まだ? 』って言いたそうな表情。そういえばピートも同じように僕の枕元で丸くなって額をくっつける様にして眠り、朝になったら顔を舐めて朝ご飯を催促してたっけ。だからきっとあんな夢を見たんだな。
「はい、コレ。いつもの朝ごはんだよ」
そう言って床に置いたお皿にご飯を盛ってあげるとドタドタと走ってきてポリポリと速攻で食べ始める。ドラゴンフードっていう小型竜(ミニドラゴン)までOKな竜族向けの固形タイプの餌だ。
それに対して僕は、ダンジョンでの保存だけを考えられた石みたいに固い味の薄いパンと塩辛すぎる干し肉。本当は宿屋のおかみさん特製フワフワの焼き立てパンと目玉焼きとスープが食べたいけれど、ランクが低い依頼の稼ぎだとそこは倹約しないといけない……それもあるから、早く元のランクに戻したいんだよな。
そんなわけで今日はEランクにしては少し難易度の高い討伐依頼に挑戦してみる事にしたんだ。と言ってもCランクだった時はよく相手にしていた魔物なんだけど。
「キュルー♪ 」
あっという間に終わってしまう量の朝ごはんを食べ終えると、ピニオンが僕のテーブルの足元に来て後ろ足で立ったまま何かを言いたそうな顔をする。
「大きくなったけど朝ご飯、この量で大丈夫だった? 」
「キュイ♪ 」
「そっか、僕はもっと食べたいけどね。それにしても大きくなったね」
「キュイイイイ♪ 」
この前までは後ろ足で立ち上がっても僕の膝下ぐらいまでしか届かなかった前足が、今は膝の上に掛けられてる。進化して大きくなってくれるのは嬉しいんだけど……エサ代、心配だなぁ。
身支度を済ませて竜使いギルドに指定された集合場所、街の真ん中の噴水広場に辿り着くと、そこには見覚えのあるカラフルな3人と3匹の小型竜が待ち構えていた。
「おっそーい! 先輩、寝坊でもしたんじゃないですかー? 」
「レッド、お前だってオレに起こされなきゃこの時間に間に合ってないだろ」
「はいはい二人ともうるさい! リュート先輩、復帰おめでとうございます。 また依頼をご一緒出来て嬉しく思います」
口々に声を掛けてきたのはシーラム村出身の竜使い3人組でパーティー名『シーラム竜騎士団』を名乗っている3人。
火竜デュラを従えて全身真っ赤な装備が目印の弓使い、レッド。
石竜アルテを従えて緑を基調とした服装の槍使い、リヴァル。
そして暴走しがちな二人を冷静にコントロールして上手くまとめてるのが風竜ソラを従えて青と白を基調にした服装の剣士、ルシエル。
僕がこの街で竜使い冒険者を始めた2年後にやって来た後輩で、冒険者ランクはDランク。そう、今の僕からしたら彼らの方がランク上位者だ。
「いや、今は僕Eランクだから先輩って呼ばなくても……」
「そんな! 一時的なランクの事なんて気にしないでください」
「ふぅん……リュート君って意外と後輩に慕われてるんだね」
声のする方に目をやると拗ねたような顔をしたフィオナがそこに居た。彼女も獣使いギルドを通して今回の依頼を引き受けたらしい。
今回の任務場所は緑竜の森。僕とピートが、ピニオンとも出会った場所だ。
緑竜の森は『竜の孵化領域』と呼ばれる、様々な種類の竜が集まって卵を産んで育てるいわば竜使いの聖域を守るように広がる大森林で、本来は魔力の強くはない低級の魔物と親竜から離れたばかりの色んなドラゴンベビーが暮らしていて、僕たち竜使いが新たな竜をお迎えするのに適した場所だった。
それがここ数年では岩を投げる猿の群れ、ロックブロスが生息域を広げて困っているので、幾つか巣を潰して数を減らして欲しいというのが今回の討伐依頼の内容だ。
「にしても竜使いギルドも薄情モンばっかだよな。オレ達には大事な場所なのに」
森の入り口を歩きながらリヴァルが言う。そう、この3人も僕も自分の相棒と出会った場所なのでとても思い入れがあるんだ。でもだからって討伐報酬が増えるわけでは無いのが悩ましい所なんだけど。
「仕方ねえよ、ロックブロス退治なんて簡単な初級冒険者の依頼だと思われてるし。報酬だって低いからな」
「その簡単な依頼で危機に陥ったのは何処の誰でしたっけね?」
そうルシエルに釘を刺されるレッド。彼らがまだEランクの冒険慣れしてない新米の頃、ロックブロス達のテリトリーの奥深くまで誘い込まれて危険な目に遭ったことがあった。その時にたまたま通りがかった僕が、戦闘してる音から駆けつけて窮地を救ったところから彼らに『先輩』と慕われるようになったんだ。
「こ、今度はあんなヘマしねえよ! それに俺らもうDランクだし」
「そうそう、無理しそうになったら私も止めに入るから」
とフィオナがレッドのフォローに入る。ルシエルはそう言われてしぶしぶ納得したようだ。
「敵の群れを補足したら俺とリヴァルで全速力で斬り込む。ルシエルは相手にする数が多い方のサポートに回ってくれ」
「レッド、今回は森の中よ。あなたが炎を纏ったスキルで暴れ回れば森が焼き尽くされる可能性が……
「それなら大丈夫よ、ルシエル。私の水魔法で彼のフォローに回ってあげるから」
「じゃあそれで決まりだな。リヴァルとルシエル、俺とフィオナ先輩でそれぞれ斬り込もう」
歩いてるうちにいつの間にか作戦というかフォーメーションも決まっているみたいだ。
先輩としては無鉄砲に敵に突っ込んでいたレッドがそういう所までしっかり考えられるようになっているのは嬉しいのだけど……
「あのー、そうしたら僕はどうしたら良いかな? 」
「先輩、久々に冒険者復帰してまだ二日目だろ?無理せず後方に居てくれ」
「そうですよ。後輩がどれだけ成長したか、見てもらうのが今日のお仕事です」
そんな風に言われても、ホントにそれで良いのかなって気になっちゃうけど。
こうして今日の作戦も決まり、僕たちは森の奥へと足を踏み入れた。
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