第3話 冒険再開!

 翌日、新しく家に連れてきた二代目の竜・ピニオンを冒険者バッグに入れ、3ヵ月ぶりに竜使いギルドに向かう。新しく竜使いとして登録し直すためだ。


 僕らが住んでいるこの王国では竜使いや魔獣使い、何かを使役しながら一緒に戦う冒険者がほとんどで、それぞれが独立したギルドに登録しているんだ。例えば魔獣使いなら魔獣使いギルド、みたいなね。


 そこで主人と使役する者の名前、種族、今までの実績に応じたランクなんかが分かる登録証を発行してもらう事になっている。だから使役していたピートが亡くなった時点で、それも申請しないといけなかったんだけど……行けないままで今の今まで来てしまった。ちょっとギルドの建物に入るのが怖いなぁ。


 そうそう! 新しい竜の名前はピニオンにしたんだ。ついさっき決まったばかりだけど。


「んー、どんな名前がいいかなぁ?」

「キュウゥゥン?」

「お前の名前だよー。名前が無かったら呼びにくいだろ?ええっとー」


 立ち上がって狭い部屋をぐるぐると歩き周りながら考える。ピートの次の子だから……なんだろう?近い名前にしたいな。でもさすがに同じ名前はダメだと思うし、でも全然違う名前もなぁ……


 なんてあれこれと考えている僕を尻目に彼はベッドの上でうたたねを始める。犬で言う「伏せ」の姿勢に前足に顎を乗せ、鼻の先を伸ばして潰れたような格好だ。「へにょ~ん」って擬音語が尽きそうな感じで『つまんないから寝てるわ~』って言いたそうな顔。


 それを見ていて僕の中で急に閃いたのだった。


「そうだ! お前の名前はピニョンにしよう♪」

「キュイ?」

「よし、決まりだ!! お前は今日からピニョンだぞ!! 」

「キュルルルル!! 」


 僕が大声を出したからか、起き上がって身体をブルブルと揺すり、前足を伸ばして大きく伸びをする。


「ホントに犬とかウサギみたいなヤツだなぁお前って」

「キュルルィ♪」


 得意げな表情で僕の足元にトコトコやってくる。犬だったらきっと尻尾を振りながら来たところだ。『名前決まったんなら早速出掛けようよ! 待ちくたびれたよ』って言いたそうな仕草。そのままドアを開けて宿屋の階下へと降りる。


「おはよう、リュート。あら? その子が噂の新しい竜? ピートちゃんによく似てるわね」

「キュイー♪」


 滞在客のほとんどが朝食を終えた食堂で、テーブルを拭いている宿屋のおかみさんが声を掛けてくる。連れて帰って来た当日からピニョンは何故かおかみさんにはよく懐いていた。


「さっき名前決めたんだ! この子は今日からピニョンだよ!! 」

「そうなの。いい名前ね! あ、でも勇ましさで言ったらピニオンの方が語呂は良いかも。昔この国で活躍した将軍の名前でもあるし」

「んー、言われて見れば確かに、その方が良い気もするね! じゃあピニオンで!! 」

「キュルルルルィ!!! 」


 さっきピニョンと名付けた時よりも元気の良い鳴き声から察するに、彼自身もその方が良いみたいだ。だからピニオンの方を採用することにした。


「その子が来てくれてから元気になってくれてよかったよ、リュート。今日はお出かけかい? 気を付けて行っておいで」


 そうして元気よく宿を出たものの、色々考えたら段々と足取りは重くなって、今立ち止まってるのが竜使いギルド、ラ・グラン支部の前。


「悩んでても仕方ないや! えぇい!! 」


 重い扉を開け、ギルドの受付へと向かう。


 どうか苦手なヤツに会いませんように、って心の中でお祈りしながらだ。


「よぉリュート! 久しぶりじゃねえか!! 今更何の用で来たんだ? 」

「もしかしてギルドの登録証返しに来たの? だってもう竜使いは辞めるんだよね? 」


 願いもむなしく、受付の手前でその『会いたくない苦手なヤツ』に絡まれてしまう。ルーカスとクレイブ。いつも僕にちょっかいをかけてくる同じ村出身の二人だ。


「どうせ新しい竜なんて見つかってないんだろ? お前みたいな弱虫をご主人様だって認める竜なんか、居ねぇもんな」

「そうそう、リュートは今度は人形使いにでもなって泥人形でも作ってるのがお似合いじゃないの?」


 二人でそう言って顔を見合わせて笑う。いつだってこんな感じだ。


「ちょっと二人とも! 茶化してないで仕事をさせてもらえないかしら!? それでリュート君、今日はどのようなご用件で? 」


 まだ何か言いたそうな二人を大声で止めてくれたのは竜使いギルドの受付係、エレノアさん。大体ギルド内で絡まれてたりする時はこの人が割って入ってくれる。僕にはありがたい存在だ。


「あ、新しい相棒が……出来たので。申請を」

「そうなんだね♪ リュート君。相棒とのお別れは辛い事だと思うけれど、それをちゃんと乗り越えてもう一度竜使いになるのを選んでくれたこと、ギルド職員として嬉しく思うわ。それではこちらの用紙に記入をお願いね」


 そう言って一枚の契約書みたいなものを手渡される。前に同じ用紙に記入した記憶があるけど、それは10年前だ。ピートと、竜使いとして相棒になった時。

 その時の事を思い出して少ししんみりとしながらも、なるべく淡々と書き間違いがないように慎重に記入していく。この世界では紙は貴重なんだ。それにずっと残るものだし。


「はい。書き終わりましたね! それでは確認します。

 ……ふむふむ、記載に不備な点はないですね、大丈夫です! 新しい相棒ちゃん、ピニオンちゃんというのですね」

「キュイー♪」


 片眼鏡をかけたエレノアさんがふむふむと項目を確認して、最後にピニオンの名前を確認する。すると呼ばれたと思ったのか、彼は冒険者カバンから頭を出して応えた。


「なんだよリュート!? コレ、前の奴と同じ弱っちい種類の竜じゃねえか!? 」

「お前、懲りずにまたこんなの飼うの? どうせすぐ死ぬに決まってるのに」

 

 それを見て笑いながら横から絡んでくるルーカスとクレイブ。「死ぬ」という単語に思わずムッと反応しそうになるけどこんな所で争うわけにはいかない。必死で怒りたいのを抑える。


「どうせアレだろ? 空も飛べねぇし息吹も吐けない、進化もしないでチビのままの役立たずだろ? さっさと捨ててきた方が良いぜ? お前の為にもな」


 ルーカスはそう言って挑発的にピニオンを指差しながら僕に至近距離で顔を近づける。だからこんな所で争う気は……


「いててててて!! いってええええええええ!! 何しやがるんだこのクソチビっ!! 」

「グルルルルルル! 」


 驚いて視線を下に移すとピニオンがルーカスの人差し指に噛みついている!

 ルーカスが腕を天井側に引き上げるとピニオンは吹っ飛ばされ、ギルドの床を転がる。僕は必死で地面に叩きつけられたピニオンの方に駆け寄った。彼は痛そうな表情は浮かべていたが、動きを見る感じでは何処も怪我している感じではなさそうだ、よかった。


「そんなクソ竜ブッ殺してやる!! そこをどけよリュート!! どかねえならテメ―ごとぶった斬るぞ」


 振り向くとルーカスが斧を振り上げてそこに立っていた。ギルド内で武器を振り回すなんてそもそも前代未聞の行為だと思うけど、今の彼にはそんな事を言っても聞いてはくれないだろう。でも、どうやって止めたら良いんだろう!?


「はいはいそこまでよー! ギルド内での乱闘は禁止って知ってるでしょ? やるなら正式な決闘手続きでね」


 振り下ろされた斧の刃を片手で受け止めながらエレノアさんが言う。彼女は竜と人の血が混じった竜人族。だから見た目に寄らずこのギルドの誰よりも怪力なんだ。でもその力よりも驚く発言が次の瞬間、彼女の口から告げられた。


「あ、でもリュート君は今、FランクだからBランクまで上がらないとダメね」


え?そんな……僕がFランク!?

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