第一章 配属と再会

着任

2026年 8月28日 午前6時40分

新宿ワシントンホテル 1203号室


 爽やかな朝。ルームサービスの朝食を食べながら、ゆっくりとホットコーヒーを飲んでいた。大きな薄型テレビでは朝のニュースが流れている。


『次のニュースです。東京都品川区にある聖アルサード女学院高等学校の3年生、はまさんが先日から行方不明となっており――』


(最近日本でも多いのね。こういう事件……)


 テレビのニュースを眺めながら暖かいコーヒーを半分ほど飲み終えると、ガウンのまま洗面台に向かい、顔を洗って一通り髪を整える。胸当たりまで伸ばしている深い栗色のまっすぐな髪は綺麗な艶が出ており、自慢の髪だ。髪をくるりと結び、化粧水と乳液で肌を整える。


 今年の8月から所属していたFBI(アメリカ連邦捜査局)からの推薦を受け、とある機関に転属する事になった私は、先日の夜に日本に着いたばかりだ。


(この街も、離れていた間にずいぶん変わったなぁ……)


 ホテルの窓から見える新宿の景色…

高い部屋を取っていてくれたのか、眺めも良いし朝食も豪華なものだった。出されたコーヒーもブルーマウンテンと気が利いている。空は綺麗に晴れており、遠くには白い入道雲が見えた。


(――やっと会えるね。神蔵)


 ベッドの脇に置いたからスマートホンを手に取り、私は昔撮った写真を見つめる。そこには仲良くスーツ姿で並んだ二人の写真。私と長身でハンサムではあるが、あまり気乗りしなかったのか無愛想な顔で映っている彼がいた。


(これでも、がんばって笑ってくれていたのかな。――そうだよね)


 思わず微笑みながら、鞄の中から真新しいIDカードを取り出すと、まじまじと見つめてみる。先日スタッフが夜に届けてくれた物だ。


UCIA - Unknown case Criminal Investigation Agency -

特別捜査官:ASAMI HIMEMIYA - 姫宮麻美 -


 そう書かれたIDカードの右上には、よく撮れた顔写真が映っている。正直なところ捜査官とはあまり思われた事が無い。素敵な容姿だとは思うが、犯罪捜査の現場には似つかわしくないだろう。つまりは馬鹿にされやすい容姿なのだ。

 

 ――子供の頃からずっと一緒に過ごしてきた幼馴染みの神蔵かみくらと言う男がいた。その背中を追って、神蔵とは1年遅れでFBIに配属された私だったが、念願のコンビを組んでもらって1年ほど経ったある日のこと。


神蔵はFBIから突然姿を消し、一切の連絡が取れなくなった……


 上司に必死で問い詰めたものの、という情報以外、なにひとつ聞き出せなかった。周囲にも神蔵の行方を知る人物は皆無だった。


 それからというもの、心にぽっかりと空いた穴が埋まらず、仕事にも身が入らない日々を送っていたが、ようやく立ち直ってきた矢先、UCIAという聞いたことの無い機関への転属を上司に勧められた。


 UCIA日本支部への転属を決めたのは、驚いたことにUCIA日本支部のスタッフリスト、その捜査官に神蔵の名前があったからだ。


 同姓同名の人間かとも思ったが、どうやらそうではないらしい。UCIA日本支部への転属を勧めてくれた上司が、神蔵の存在を知って人事に掛け合ってくれたらしい。


 連絡が取れなくなって早1年半… 聞きたいことも話したいことも山ほどある…

怒りたい気持ちもあるが… 私は何より再会できる事をとても嬉しく思っていた。


 入念に化粧をし、身支度を調える。そして私は同区内にあるUCIA日本支部へ向かった。

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