CODE:AW 赤き指輪と夢見の魔女

黒咲鮎花 AYUKA KUROSAKI

プロローグ

テクノロジーが更なる発展を遂げ、AIが日々進化する現代

どんなに物質的な豊かさを得ようとも

人間の心は進化すること無く、同じ過ちを繰り返し続けている


我々は変化しなければならない

許さなければならない

救わなければならない


光の女神アルサードの祝福あれ 全ての命に輝きあれ


アルサード教会 聖典”創世の書”より




 私は走っていた…… この誰もいない異様な街の中を……

目の前に広がる異様な空間…… 赤黒い空は夕暮れなのか異世界なのか判断できず、本来なら騒がしいはずの都市の騒音も、季節特有の蝉の声も何一つ聞こえてこない。

普段ならたくさんの人が歩いているはずの道。車すら一台も走っておらず、大都会のど真ん中にいるにも関わらず、生命を何一つ感じることができない……


 まだ日は暮れていない筈なのに、急激に気温が下がったような異様な感覚。寒さによる震えなのか、恐怖による震えなのか、背筋が凍るように寒い……


(何が、何が起きたの……)


 もうどれくらい走り続けているのか分からない。

エレベーターを降りて、フロントから外に出た…… 今思えばそこから既におかしかったような気がする。視界に広がっていたのは、見たようで見たことのない景色だった。突然異世界に迷い込んでしまったかのような恐怖。吸い込む息が重く、苦しい。


 形容しがたい不気味な赤黒い空に、心がジワジワと侵食されるような一切の静寂。たくさんのビルはまるで蛻の殻のように、大都市の墓標のように並んでいるだけ……


 そして、明らかにが、私を追ってきている……


 振り返ることはしなかった。振り返った瞬間に恐怖で体が動かなくなる。『振り返るな』と本能が告げている。


 全身が汗だくになり、呼吸が苦しい。足も限界に痛くなっている。汗で下着やキャミソールが肌に張り付き、不快感が激しい。もう何処を走っているのか見当もつかない。


 永遠と続くような見慣れない景色。いつもの道のようで、明らかに違う景色……

 

やがて走ることが出来なくなり細い脇道に入ると、入り組んだ脇道の先にあった、大きなビルの外階段を登り始める。


(苦しい… もうダメ…)


 足を引きずるように、階段を登っていく…

必死の思いで階段を上りきり、やがて屋上に辿り着いた。息が苦しく、その場に崩れるように座り込んでしまう。コンクリートの地面が何ともいえぬ温かさで気持ち悪い…


(!?)


 ふと俯いた顔を上げたその時だった。

私は空中に浮かぶソレを見て、恐怖で体が動かなくなる…


 赤黒い空。いつの間にかに出ていた大きな月……

不気味にこちらを見下ろすソレは、神々しくも禍々しい絶対的なオーラを放っていた…


「――ゴキゲンヨウ」


 空中に優雅に浮かぶソレが発したと思われる言葉が、直接脳裏に響いてくる… その低く冷たい声が心臓を鷲掴みするような恐怖に、声すらまともに発することが出来ない…


「――お前はその指輪を使い、他人の恋人を奪い、他者を傷つけ、幾多の人間を危険に晒した」 


 凄まじい恐怖で身震いが止まらなくなる…

右手の中指に嵌められた赤黒い指輪が、まるで生きているかのように輝き鼓動し始める。まるで心臓とリンクするように、その鼓動が徐々に速くなっていく。


「許し…て… ユメミ…サマ… わたし… わた…しは…」


 必死の思いで振り絞った声。次の瞬間、空中に浮かぶソレが一瞬まばゆく光ったかのように思えると、その手には大きな銀色の大鎌が握られていた。


「――払え。その願いの代償を」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る