盗まれたモノ

黒片大豆

車の盗難の際にはご注意ください

 車を盗まれた。

 深夜のうちに犯行が行われたらしい。

 いつの間にか、家の車庫から忽然と姿を消していた。

 あまりに鮮やかな手口で、全く気がつかなかった。


 車種は、泥棒に大人気のハイブリッドカー。しかも近隣では、同車種の盗難が頻発していた。

 そろそろ、この家も狙われるかもな……などと漠然と身構えていたが、いざ盗まれると、やはり動揺を隠せない。


 正に、危機一髪だ。

 警察はまだ動いていない。


 車の中には、いろいろなものを入れっぱなしにしていた。

 ひとたび犯人が後部座席を覗き込めば、あまりの雑多さに度肝を抜かれるだろう。そのままショック死くらいしてくれると助かる。

 なんせ、捨てるに捨てられない荷物が積んであるのだ。


 おととい、不倫相手と二人でドライブから戻ってから片付けてない。その時に脱いだジャケットも置きっぱなしだ。

 外したネクタイや、破けたシャツも片付けてなかった。お互い激しく絡みすぎて、つい放ったままにしてしまった。


 そういえば彼女のカバンも、そのままだ。

 免許証や財布、それにスマホも入っていると思う。

 絶望的だ。見られれば、車の持ち主である私との関係が問い立たされてしまう。

 こうなれば泥棒が、後部座席の荷物に一切手をつけず、目をつぶって全て処分してもらうことを願うしかない。

 泥棒の目的は車なのだろ?

 足がつかないように、荷物を処分するのはお手のもののはずだ。


 しかしそれは望み薄だろうな……。

 ちょっと荷物が特殊すぎる。


 なんたって、彼女も首にネクタイを巻いたまま、後部座席に押し込まれているのだから……。



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