海辺①



山越えて3日目、ようやく村が見えてきました。

村人の方は私達を暖かく迎え入れて下さり、食事や寝床を手配してくれました。


村長のおばあさんは、私達を見るなりとても親身になってくれて、勇者一行だと知ると涙を零していたのです。


一体なぜ泣いたのでしょう。

わかりせんが、きっと何か理由があったのでしょう。


他の方達も皆優しく、貧しい村ですが心は豊かな人たちばかりです。これが人の優しさですよね。

やっぱり、あれは悪魔だったんです。そうとしか思えない。


でもこの村にいつまでもいる訳にはいきません。私達がいる事で彼らに不利益があってはならないからです。

魔法使いさんの言っていたことが本当なら、魔王軍の手先が来るかもしれない。


でもあと1日、ご好意に甘えさせてください。








村を出てから2日が経ちました。村長さんは最後に沢山の食料を用意して下さりました。


私達はそれを拒否する事ができませんでした。彼らの優しさに甘え、飢餓の恐怖に負けたのです。


彼らも貧しく、食料が豊富でないのを分かっていながら……

神よ、どうかお許しください。そして心優しきあの村の方たちに救いを。






それから更に3日、森を抜けると小さな港町につきました。ここでは勇者一行と言うことは言いませんでした。

港町からすぐの所には広大な海が広がっていて、夕陽を水面が反射してとても綺麗です。

なんていうか、本当に凄く凄く綺麗でした。


寄せては返す波も、雲ひとつない空で照らす夕日も、真っ白な砂浜も。


「ねぇ皆さん、少し……ほんの少しだけ魔王討伐は忘れて遊びませんか?」


それくらいはきっと、許してくれますよね。


皆さんも笑顔を頷き、気が付けば誰が合図する訳でもなく海へと走り出していました。




楽しい時間はあっという間で、気が付けばお月様が顔を出しています。

本当に、幸せな時間でした。

私達は砂浜に並んでしばらくお月様を眺めていました。

月明かりに照らされる勇者さんが、とっても素敵です。


本当は2人っきりになりたいんですけど、さっきから戦士さんがお邪魔です! 乙女心を分かってください!

もぅ! 勇者さんの隣に座ればよかった!


まぁ別にいいんですけどね。こうして皆でいるのはとっても楽しいですから。


「くっ……」


突然、魔法使いさんが立ち上がりトテトテとどこかへ歩いていってしまいました。


「魔法使いさんどうしました?」

「……」


こちらを見つめる彼女の目を見て、私は悟ってしまいました。魔法使いさんの目は問いかけた私ではなく、隣の戦士さんに向けられていたのです。

そしてそれは、きっと私が勇者さんを見るものと同じな気がします。


ああ、魔法使いさんは彼の事が好きなんだ。


その彼の気持ちは別の所……いいえ、濁すのはよくないですね。戦士さんの気持ちは、私に向けられています。


私にはどうする事も出来ませんが、魔法使いさんの気持ちは痛いくらいにわかります。


だって勇者さんも私を見てないんですから。


「あ、おい!」


ほらね、勇者さんは魔法使いさんを追いかけてしまいました。

隣の戦士さんはなんだか少し悪い顔でニヤケていますが、本当に彼は単純ですねぇ。


仲間として戦士さんは大好きですけど、異性としてと言わると……うーん、ちょっぴりタイプではないですね! ごめんなさい!


「なぁ僧侶、俺さ……」

「あ……あー! 流れ星ですよー! 見てください戦士さん! 流れ星!」


全く、気を抜く暇もありませんねぇ。

貴方はその言葉を言ってしまうと傷ついてしまいます。応えてあげれなくて本当にごめんなさい。

魔王討伐の旅じゃなければ、それでもいいのかもしれません。


でもね、この戦いの最中、落ち込んで力を発揮出来なければきっと貴方は……


だからすみません、卑怯な手を使いました。


もしもこの旅を終えて、それでもまだ気持ちがあるのならもう一度伝えてくれませんか?


ふふ、ちゃんとお断りしますけどね!

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