山越え②


魔法使いが空に向けて火の玉を放った。

空腹でおかしくなっちまったのか?

鳥を落としたいんだろうけど、あんなに高い所から落ちたんじゃ探すのだって一苦労だ。


それなら少しでも体を休めておいた方がマシだ。


猪でもいりゃあ俺と勇者で狩ることも出来たのに、動物なんて近寄ってきやしない。

こんな事ならもっと食料を持ってくるべきだった。


3日も何も食べてないから僧侶が心配だ。何とかしてやりたいが、その方法がない。


そんな事を思っていると鳥を撃ち落とした魔法使いが、声を上げた。


「これはワシの仮説じゃが、ワシらは幻術の類の中におった。そしてそれは、今しがた撃ち落とした鳥……と言うよりは魔物、いや魔族かの。とにかくあれは術者じゃろう」


ああ、やっぱり。コイツおかしくなっちまったんだ。鳥がそんな魔法使える訳ないのによ。魔族なら正々堂々襲ってくるはずだ。そんな卑怯な事するか?


「待ってくれ魔法使い。さすがにそれは突飛すぎやしないか?」

「その……魔法使いさん、そう思われたのは何故でしょう」


ほれみろ。勇者も僧侶も俺と同じ考えだ。

俺も口を開こうとしたが、魔法使いによって止められた。


「まず、通常山越えにかかる日数は早くて10日、遅くても更に2日もあれば十分に越えられる距離じゃ。お主ら、今何日目かわかっておるか?」


えっと、最初の7日は食料があった。食料が尽きてから今日で5日めだったよな。


「つまり、今日で11日──」

「12日目じゃ阿呆。計算も出来んのか」


魔法使いはかなり食い気味にそう言ったけど、腹が減って上手く頭が回らないんだ。頭が悪いわけじゃないんだぞ。


「じゃあなんで鳥が術者だってわかったんだ?」

「あの鳥はワシらが山に入る時にも真上にいたんじゃ。それが12日も後に居るのは不自然じゃろう?」


魔法使いはやれやれと言った様子で、


「結局ワシらは、してやられたという事じゃ。これ以上の問答は意味をなさぬ。理解出来ぬならそれでもよい。もう数日もすれば山を抜けるじゃろうて」

「え」


思わず俺は声が漏れてしまった。

声こそ出さなかったけど、多分勇者も僧侶も似たような心境だろうな。

口をあんぐりあけて心底嫌そうな顔をしてる。


「なんじゃ、まさか幻術を破ってすぐにでも山を越えるとでも思ったのか。これじゃからお主は馬鹿だと言われるんじゃ」


魔法使いはため息混じりそう言って俺の頭を杖でコツンと叩いた。

別に痛くはないけど、俺ってそんなに馬鹿なのか?

勇者も僧侶も同じ反応してるだろ!









それから更に2日。その間に運良く野ねずみを3匹捕まえた。

正直食べたくはないけど、これ以上空腹を我慢出来る気がしなかった。1人1匹すら食べれないのかと思ったけど、それでもないよりは幾分マシだ。


魔法使いが焼いてくれた。4人で3匹、足りる訳がない。だから俺は食べなかった。

皆は食えと言ったけど、たまたま俺は腹が痛かったんだ。それなら仕方ないだろ?


久々に肉を食ったおかげか皆よく寝ている。俺は何も食ってないせいかどうも寝付けない。

腹が減った。水ばかり飲んでいるからか体調も悪い。


まだ、山は越えられないのだろうか。

このままでは俺達は餓死してしまう。魔王討伐に出たのに餓死って……はは、なんだか笑えるな。


なにか食える物はないだろうか。


魚でも肉でも米でも、なんなら野菜でもいい。


とにかく、少しでも腹を満たしたいんだ。今ならカビたパンだってご馳走に見えるだろうよ。


ボケっと寝転んでいる俺の目の前に、1匹のバッタが飛び込んできた。


バッタ。


「虫って、食えるのかな」


どっかで聞いた話だと、生命体を丸々食べるのは栄養があっていいらしい。


虫、バッタも生命体だよな。


「め、し……はは、捕まえた」


ああ安心してくれ、虫なんか食べるつもりはないぜ? ただ、捕まえてみただけだ。


脚をバタバタさせて必死に逃げようとしてる。


食べる訳がない。


虫だぜ? 食用ですらないんだありえない。


こんなもの、絶対に食べない。


「くそ……くそォ!」


涙が止まらなかった。心当たりなんかない。

なんでだろうな、不思議とよく眠れた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る