西の国


「戦士よ、そういう事だ。先日訪れた勇者と共に魔王を討ち滅ぼし、世界に平和をとりもどして来るがよい」


ガリガリに痩せ細った西の国王からの言葉だった。


世界に平和を、ね。建前としては上等だな。結局それを理由に俺を追い出したいだけじゃないか。

そんなの大した学のない俺にだってわかるぞ。


「……はい」


自分で言うのも少し恥ずかしいけど、俺はこの国で1番強い自信がある。

それこそ今の騎士団長よりもずっと強い。本来ならまだ俺が騎士団長なはずだったんだけど……


きっと騎士団を除名されたのも、この性格のせいだろうなぁ。

他国との戦争に反対したり、賄賂を寄越す相手を処罰したり、汚い事ばかりして私腹を肥やす上層部の命令を聞かなかったら除名処分受けちまったよ。


腕っ節じゃ勝てないからって魔王復活を体良く使いやがって。


まぁいいさ、魔王を倒したあとはこの腐った国をぶっ倒してやる!









「戦士、魔王討伐に力を貸してくれないか?」


そう言ったのは勇者だった。頼まれなくてもこっちは勅命があるから、元よりそのつもりだ。


「戦士さん、どうかご一緒して頂けないでしょうか……?」

「はぅわ!?」


流れるような艶やかな黒髪、修道服の上からでもわかるスーパーボデー!!

潤んだ大きな瞳に、この圧倒的な清楚感!!


天使だ。

勇者一行には天使がいたんだ!


そしてこの心臓を鷲掴みされたような感覚。俺の体に何が起こっている!?


まさか、これが恋!?


ああダメだ、自覚した瞬間から心臓がうるさい。この天使に聞こえてしまうんじゃないかと思うほどに。


「戦士さん?」


コテンと首を曲げる角度は45! 完璧だ。俺の心を掴むのにこれ程完璧な仕草はない!

落ち着け俺。ここで頷いてしまってはただのチョロい男になっちまう。


果たしてそんな男にこの天使の心を奪えるだろうか……? 否、断じて否!


クールにいくんだ。最高にクールに、歴戦の戦士のオーラを醸し出すんだ。

自分でいうのもあれだが、俺は顔は悪くない。中身さえ良ければこの天使だって振り向くはずだ!


「お、おい戦士、急に黙ってどうし」

「条件だ。たった一つだけ条件がある」


口を開いた勇者を手で静止し、ダンディな声で俺は言った。中々イカしてると思う。


「条件?」

「ああ、誰1人欠けることなく魔王を倒す。それが、俺が同行する条件だ……!」


決まった。完璧に決まった。チラと僧侶を見るとキョトンとした顔から、一気に笑みが零れた。

それに対して勇者はまるでこうなることを知っていたかのように、したり顔をしていた。


「ああ、俺達もそのつもりだよ。それじゃあこれからよろしくな、戦士!」


右手を差し出した勇者は、今度は爽やかな笑顔をだった。何を考えているのかよく分からないが、それでもきっと悪いやつじゃないだろう。


理由はないけど、なんとなくそう感じた。




次の日、俺達は南の国を目指す事になった。

南の領地にあるエルフの里に用があるらしい。そこには凄腕の魔法使いがいるらしく、魔王討伐には欠かせない存在みたいだ。


でもなんでかな。魔法使いに会ったこともないのに、勇者はその話をする時凄く嬉しそうなんだ。


ここから南の国までは馬車を使っても7日はかかる。エルフの里がどこにあるかは分からないけど、早々見つかるものでもないはずだ。

なんたって人を遠ざけて暮らしている種族だからな。

そもそもこの旅に同行してくれるのかも怪しいぜ。


ああそれと、全然関係ないんだが勇者と僧侶とはたった一日しか一緒にいないのに、どうも居心地がいい。

不思議とお互いに分かりあっている感じがする。


これはきっと僧侶への愛のなせる技だな!

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