東の国②



岩山をくり抜いたようにな洞窟。それが東の洞窟だ。これが自然にできたものなのか、人工的に作られたものなのかは分からない。


ヒカリゴケっていうコケのおかげで真っ暗って訳じゃないけど、それでもやっぱり薄暗くて視界がいいとは言えない。

奥行は結構あるけど分かれ道とかがないのは高得点だ。こんな特徴もなく薄暗い洞窟が迷路みたいになっていたら、とてもじゃないけど覚えられる自信がない。


幸い、基本的に生息しているモンスターも大したことない。

ポイズンスライムと吸血コウモリの2種類で、強さ的にはスライムとあんまり変わらないかな。

毒も弱毒で命の危険はないし、コウモリの吸血なんて少し血が吸われて痛いだけだ。


ただ気を付けないといけないのは、勇者の剣と超回復薬のある部屋だ。

俺がボケてなければ、番人としてゴーレムがいたはず。他のモンスターに比べると格段に強い。


古い記憶を掘り起こしながら歩いていると、早速紫色のポイズンスライムが出てきた。

基本的にはスライムと同じように、ブルブル震えたり体当たりしてくるけど、たまに毒を飛ばしてくる時がある。


「ま、それでもスライムはスライムだけど……なッ!」


体当たりしようと飛んできたポイズンスライムをカウンターで両断。

ベチャベチャした液体が周りに飛び散った。一応この液体も毒があるらしく、触らない方がいい。


その後歩いていると直ぐにバサバサと羽音が静かな洞窟に響いてきた。吸血コウモリだ。

不規則に飛び回る吸血コウモリだけど、コツを知っていれば倒すのは簡単だ。


「こいつの狙いは首。ならそれまでは待ってればいいだけだ!」


吸血コウモリはやっぱり首を狙ってきた。そのタイミングで一歩下がって剣を振る。

あまり斬れ味の良くない鉄の剣でも一撃で十分殺せる。東の国にでるモンスターは元々強くないから、だいたいは一撃なんだけどね。


その後もポイズンスライムと吸血コウモリをサクサク倒していくと、見覚えのある扉が目に入る。

扉には古代文字の羅列、その周りの壁にはヘンテコな壁画が彫ってあった。


前に来た時はあまり注意して見てなかったせいか、それらが同じようにあったか少々疑問だ。


「こんなのあったっけ……?」


右の壁画には勇者っぽい人が何かを飲んでいるだけで、意味がわからない。きっとジュースでも飲んでいるんだろうな。

左の壁画は多分魔王と戦ってるっぽいけど、


「なんでこんな沢山……気味悪いなあ」


小さめのサイズで壁画がビッシリと彫られていた。

因みになんで勇者かわかったかっていうと、持っている剣の柄には赤い石が嵌め込まれているからだ。


魔王はわかりやすく邪悪な感じに掘られているし、何よりも勇者の剣がある洞窟だ。普通に考えれば勇者と魔王で間違いない。


でも、これが何を意味するかまでは全然分からないんだけどね。


「とりあえず開けてみるか」


考えても仕方ないので俺はそれらを無視して、石の扉に手をかざすとズリズリ擦れながら開いた。

なんでもこの扉は勇者が触れないと開かないんだとか。どういう原理だよってな。


中は少し広い空間で、奥の方にある台座に勇者の剣は刺さってた。ここまでは記憶の通りだ。


「……ゴーレムが、いない?」


この洞窟一番の難所といっても過言ではないゴーレムの姿が見当たらない。記憶違いなんかじゃない。絶対にゴーレムは剣を守っていたはずだ。

初めて来た時、俺はそのゴーレムに殺されかけてるんだ。


「なんかおかしいな」


嫌な予感がした。なんていうか、違和感って言うのかな。でもここでは何も起こらないと思う。

この空間に俺以外に何かいる気配はないし、隠れるような場所もない。


今回のループは何か違う気がする。それも多分、悪い方だ。理由はわからないけど、漠然とそう感じるんだ。


「なんか嫌だな。剣と超回復薬持ってさっさと──嘘だろ」


ない、超回復薬がない。剣の横にあったはずだ。


「あれがないと、話にならないんだぞ!? どこだ! きっとどこかにあるはずだ!」


それから俺は部屋中を隈なくさがした。

超回復薬の入った小瓶は人差し指くらいの大きさしかない。もしかすると、どこかに転がっただけかもって思って、転がってる岩をひっくり返したりもした。


それでもやっぱり、超回復薬はなかった。


「まじ、かよ……もしこれが最後のチャンスだったら……」


心臓がうるさい。呼吸が荒い。

考えただけでも吐き気を催す。最悪だ、考えうる限り一番悪い。そんなことはないと思うけど、今までにないパターンだ。そこまで考えないといけない。

魔王の殲滅魔法は避けれない。絶対に超回復薬が必要なんだ。


あれは製法もわかってないし、この洞窟以外で見つけたこともない。どんな街でもどんな遺跡でも見つけられなかった。


「やっべぇな、まじで」


全身から嫌な汗が吹き出る。何千回と殺されてきて俺の中ではそれがこびり付いてるんだ。

俺一人で勝てるイメージがわかない。


仲間だ。絶対に仲間を死なせちゃいけない。今度こそ、本当に。

俺は少し震える手で勇者の剣を握った。


「もうこれ以上、負ける訳にはいかない……! 終わらせる、この回で──必ず」


キンと少し高い音を響かせ、勇者の剣を引き抜いた。

柄に嵌め込まれている深紅の宝石がキラリと光った気がした。


もう後がない。


なんだかこの剣に、そう言われている気がした。





勇者の剣を引き抜いた俺はあれから仲間を集めるべく、北の国へと向かった。

北の国には僧侶がいるはずだ。超回復薬みたいに人間は消えたりしない。そう思っているけど、そんな確証なんでどこにもないんだ。


「少し考えが甘かったかもしれない」


ガタゴトと揺れる馬車の荷台でループのことを考えていた。

そもそも魔王城でやり直していた時からそうだった。あんな超常現象を宛にしてたなんて……でもそれに救われていたのは事実だ。


もう戻らない、そう考えて旅をした方がいいかもしれないな。

そうなると危険は魔王城だけじゃない。寧ろ魔族領に入ってからの方が危ないかもしれない。


あの時はたまたま誰も欠けずに進めたけど、もう一度同じことが出来るかっていわれれば、


「難しい、な……とにかく、出来ることは全部やらないと駄目だ。装備ももっと充実させて、薬草や回復薬とかも大量に必要だ。くそ、やっぱりなんとしてでももっと金を貰っておくんだった!」


こうなってくるとさっきよりも断然、融資をケチった王に腹が立つ。

あの王は、いや、王も他の人間も魔王討伐を軽く見すぎてる。辿り着くのでさえ相当しんどい旅なのに……


「言っても仕方ない、か。とりあえずまずは僧侶だ。僧侶がいれば戦闘面はかなり楽になる」



それから馬車に揺られて数時間、辺りはポツポツと雪が見える。北の国の領地に入ったんだ。



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