東の国①
ああ、クソ。歴代最速だったんじゃないか?
ある意味、今までのパターンから外れてたけどまさか開幕早々に殲滅魔法を撃って来るなんて思いもしなかった。
おかげで取っておいた
まぁいっか。こうして考える事が出来るってこともう一度チャンスを貰えたってことなんだから。
……それにしても妙だな。いつもは真っ暗になったら直ぐに魔王城入口に戻るのに、今回はヤケに長いな。
まさか、さっきのが最後だったのか? だとしたら、俺は本当に死んだのか?
と、思っていたけどそんな心配は杞憂だったみたいだ。
なぜならいつものように、暗闇から光に変わったからだ。ああ、良かった。またやり直せるんだ。
そうしてパッと光が強くなると、一気に視覚が機能した。
「ここは……?」
違う、魔王城じゃない。でも俺はここを知っている。
この無駄に豪奢な造り……覚えてるぞ。
金ピカで趣味の悪い柱、甲冑を着て槍を持った兵士、馬鹿みたいに広い癖にあるのは無駄な飾り付けだけだ。
覚えてる。足元のレッドカーペットも、その先にある立派な椅子。そしてそこに座る、冠をつけた髭もじゃの爺さん。
ここは王宮だ!
「おお、勇者カイン! そなたが来るのをずっと待っておったぞ。勇者カインよ、1000年前の伝説を知っているか? 1000年前の勇者は魔王を討ちこの世界に平和をもたらした。勇者は死の間際、いつか来る災厄に備えその力の全てを一つの剣に封じたんじゃ!」
カイン? ああ、そうだ俺の名前だ。名前なんてもうずっと呼ばれなかったから忘れてたや。
なんか色々思い出してきたぞ。ここは王宮でこの人は東の国の王様だ。
「それが勇者の剣なんじゃ。その剣は我が国が管理している洞窟の最奥にあるんじゃが……情けない話、我が国の兵達はその剣を抜く事は出来なかったんじゃよ。だが勇者よ、お主なら……いや、お主にしか抜けぬ! 勇者の剣を抜き魔王を討ってはくれないか?」
これは確か、俺が勇者だって判明して一ヶ月位経った頃だ。村で暮らしていた俺に召集令がかかったんだっけな。
それで服とか色々貰って王様の前にいるんだった。
懐かしいなあ。でも、なんで急に? 俺は魔王城にいたはずで、何度も何度も繰り返していたはずだ。
夢だったのか? いやそれなら俺はここで寝てた事になるし、そんな事は絶対にありえない。
可能性があるとしたら、やり直しの地点が変わった。地点っていうよりも、時間か。
それもずっと前だ。魔王を倒す旅にでる初日に。
「これ、聞いておるのか! なんとも気の抜けた勇者よのぅ」
「あ、あー、はい。すんません」
髭もじゃの王様の話なんて全然聞いてなかった。とりあえずで返事したけど、機嫌悪そうだな。
確か俺がこれを了承した後、この人はほんの少しのお金だけしかくれなかったんだよな。
見た目に反してケチくさい王様だった気がする。そのせいで結構苦労したっけな。それなら、
「魔王を倒しには行くんですけど、その……装備とかぁ、アイテムとか……お金とか多めにくれたらなぁーなんて……ははは」
「痴れ者がッ!! 世界の危機に金を要求するとはけしからん!! これでも持ってとっとと行くがよい!!」
小さな布袋を投げつけられ、それをキャッチしたら衛兵に外へと放り出された。
城門の門兵と目が合ったが鼻で笑われてしまった。
なんとなくいたたまれなくなった俺は、王都を出て勇者の剣のある東の洞窟を目指してトボトボ歩き始めた。
東の洞窟までは草原続きで特に危険なモンスターもいない。
やっぱりこうなるよな、わかってた事だけどさ。
でもさ、その世界の危機とやらに金を渋るのはどうなのかなって思うよ。
皆知らないだろうけど、ここから魔王城に行くまでで物凄い金がかかるんだぜ?
「食費に宿泊費に装備代、アイテム代、安くないんだぞ! 本当は少しくらい娯楽費だって欲しいんくらいだぜ」
俺一人ならともかく、仲間は絶対に必要だから金も4人分だ。4人分の生活費ともなると、節約していてもそれなりの金額になってしまう。
全く、ケチくさい王様だ。
「って違う。俺、なんで東の国なんかにいるんだろ。やっぱり変だよな……今までは魔王城をループしていたはずなのに……なんで今回急に変わった? 」
思い返してみても特に異変はない。ボルカニカの話や魔王の行動は珍しいパターンだったけど、それが理由だとは思えない。
しばらくの間その事を考えながら歩いていると、一面緑の草原に違う色が飛び込んできた。
「うわっ、懐かしいな。スライムかぁ……昔はこいつでも倒すのに手間取った気がする」
目の前には楕円形の青いスライムがプルプルしていた。スライムは基本的に人間領にしかいないし、戦闘力なんてモンスターの中でも最弱じゃないか? それでもコツを掴まないと倒せないんだけどな。
と、ここで俺にはある疑問が浮かんだ。
「ここまで時間が戻ったってことは……もしかして俺の強さも戻っちゃった……?」
もしそうなら最悪だ。俺は魔王城につくまでに相当身体を鍛えたし、剣術も苦手な魔法もかなり訓練したつもりだ。
それがゼロになっているって考えると、なんだかやる気がなくなる。
「いや待てよ。筋力はどうしようもないけど、技術は理解してるし問題ないんじゃないか? スライム君、ちょっと試し斬りさせておくれ」
俺が剣を抜くとスライムはブルブルと震えた。きっと了承してくれたんだと思う。
心優しきスライムに感謝を──
「おりゃっ!」
1歩踏み込み、真上から剣を振り下ろした。
単純な動作だけど技術がある人とない人とでは威力がまるで違う。
スライムはスパッと両断され、刃は地面も少しだけ斬り裂いていた。自分で言うのもあれだけと、素人の剣さばきじゃあないな。
「うん……力はないけど最低限の動きは出来そうだな。良かった、これなら何とかなりそうだ」
なんで東の国からやり直したのかをこれ以上考えても答えは出ないし、ちょっと面倒くさいけど戻ってしまったものは仕方ない。
諦めてここからやり直そう。
僧侶、戦士、魔法使い。もう一度さ、辛い旅をやり直すことになっちゃったけど、それでもまた仲間になってくれるか?
そんな事を思いながら歩いていると、まだ少し先だけど目的地が見えてきた。
「お、洞窟が見えてきたぞ」
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