勇者■■■
結局、いつもと同じように俺一人で魔王に挑む事になった。
魔法使いは俺に託すって言ってくれたけど、多分1万回くらい託されてる。1度だってその気持ちに応えてやれた事なんてないけど。
今回は戦士が余計な事をしたせいでいつものパターンに戻った気がする。あれからずっとムカつきすぎてアイツが死んだ時少しだけスカッとしたんだ。
ざまあみろって気持ちで、アイツの死体を見たんだ。そしたら戦士の奴さ、満足気に笑ってたよ。
何回目からなんて覚えちゃいないけど、俺はいつからか仲間の死に目を背け始めた。
多分それは現実逃避とかそういうのじゃなくて、興味がなくなったんだ。
久しぶりに、本当の意味で仲間を見た気がするよ。
都合のいい話かもしれないけど、不思議と少しだけ心が安らいだ。
入口にいた時なんてかなり荒んでたのにな。自分でも自分がよく分からない。
戦士の顔をみて思ったんだ。もしかすると、俺以外の皆もやり直してるのかもしれないって。
戦士は僧侶の事が好きだったんだ。アイツは隠してるつもりらしいけど、結構バレバレでさ。
だから、アイツは嬉しかったんじゃないかなって思うんだ。
この抜け出せない世界で何度も何度も僧侶の死を目の当たりにして、それで結局自分も死んじまって。
そしたらさ、その後また僧侶に逢えるだろ? だから笑ってたんじゃないかって、少し考えすぎかな。
でもアイツ馬鹿だからなぁ……案外あり得ると思うんだよね。
ああ、そうだ。ついでだから話すけど俺含めて勇者パーティって4人いるだろ? これがまた面倒くさい関係なんだよ。
暴露していいのか知らないけど、まあ誰に言うでもないし別にいいよな。
さっきも言った通り、戦士は僧侶が好きなんだ。もうぞっこんって感じ。他なんて一切目に写ってないねありゃ。
それでさ、魔法使いは多分戦士が好きなんだ。
うちの魔法使いってエルフなのを差し引いても少し変わってるだろ? 見た目は可愛い女の子の癖に喋り方とかジジイみたいだよな。
いつだったか、随分遠い昔のように感じるけど旅の途中で港町に行ったんだよ。
その時は特に魔族もいなかったから観光がてらに色々見て回ったんだ。んで、でっかい浜辺があったから皆で遊んでたんだ。あれはいい息抜きになった。
気付いたら夜でさ、満天の星空が海面に反射して本当に綺麗だった。波音も心地よくて、皆で横並びに砂浜に座ってたんだ。
魔法使い、戦士、俺、僧侶の順番だったかな?
僧侶は鈍感だから戦士の気持ちに気付いてないっぽいんだけど、その時やたら戦士がアタックしててさ。ホント、笑っちゃうくらいすっげー勢いで。間に俺いるだぜ? ちょくちょく唾飛んでくるのも本人は気がついてなかったと思うな。それが臭せーのなんのってよ。
んで、それを見た魔法使いが真顔でトテトテどっかに行く訳よ。なんだろうって、こっそりついて行ったらさ。一人でうずくまって泣いてたんだ。
俺さー、それ見てなんか悲しくなっちゃって勝手に隣に座って一緒に泣いてたんだ。なんかわかんないけど、涙止まんなくてワンワン泣いてたよ俺。恥ずかしいヤツだよなぁ。
魔法使いはそんな俺を見て笑ってたんだ。
不思議とそれが嬉しかったなあ。
途中から俺の話になっちゃったけど、とにかく魔法使いは戦士が好きなんだ。
あと、これは自分で言うとかなり痛い奴みたいになるんだけど……多分、僧侶は俺の事が好きなんだよな。
分かんないけど、ふとした時とかよく視線を感じるんだ。それに戦士と話す時と少しだけ違うって言うのかな。言葉にするの難しいんだけど、なんか違うんだ。
もうね、正直気まずいよ。
僧侶は俺の事が好きで、戦士は僧侶が好きで、魔法使いは戦士が好きなんだろ? なんでこんなに噛み合わないかなあって思うよ。
でもそんな噛み合わない4人だからこそ、きっと魔王城に辿り着けたんだ。
誰かと誰かがくっ付いてたらここには来れなかったと思う。戦闘に支障がでるし、何よりも危険な旅なんかしたくないだろうしな。
なんでかなぁ、なんで俺は仲間の死に慣れちゃったんだろう。
思えば俺は途中から考える事を辞めてたんだ。ただ魔王を倒すことだけを考えて、それで失敗して同じことを繰り返してた。
10回目か、20回目かその辺からかな。本当に馬鹿なことをしたよ。
やり直せるからいいなんて、そんな訳ないのにさ。
何千回ってやり直してはいるけど、次がある保証なんてどこにもないんだ。
俺も仲間も死んでるって事実には変わりない。
人として絶対に慣れちゃいけない事に俺は慣れてしまってた。
「なぁ、魔法使い」
って呟いてみても返事が来る訳ないんだけどさ。
さっきまでちゃんと生きてたのに、いまじゃこんなサラサラの灰になっちゃってるんだから。
頑張って集めて見たけど、全然集まらないな。こんな事したって魔法使いは戻らないのなんて分かってる。久々に色んな気持ちを思い出せたから、一気に悲しくなっちゃってさー。気が付いたら魔法使いだった灰を集めてたんだ。
でももう大丈夫。きっと俺はこの先何度やり直したって俺のままだ。
これ以上は一度だって忘れやしない。魔王を倒すまで、何度だって挑んでやる。
僧侶がボルカニカ戦で死ぬ運命なら、そんな運命俺が捻じ曲げてやる。
戦士と魔法使いがデュラハン戦を乗り越えられないのなら、そんな壁俺がぶち壊してやる。
俺一人で魔王が倒せないのなら、仲間と一緒に必ず倒してみせる。
俺は勇者だ。絶望したり、諦めかけたり、後悔したり、寄り道ばっかりしてきた駄目な勇者だ。
それでも諦めないぞ。親友が思い出させてくれたんだ。
「神様、いるんなら一度だけチャンスをくれよ。もう一回、もう一回だけでいい。やり直すチャンスをくれないか」
そしたら今度こそ、皆で魔王を倒すんだ。
「さあ行こう、皆」
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