黒騎士デュラハン
ボルカニカを倒し、次のフロアへと進むと次に待ち構えていたのは黒い甲冑に身を包み、城内だというのに騎馬に乗った騎士デュラハンだ。
黒い毛並みの馬は通常種よりもふた周りも大きく、張り裂けんばかりの筋肉と血走った攻撃的な眼でこちらを見ている。
そんな屈強な馬に跨るのは、傷一つない良く手入れのされた美しい甲冑を着た騎士。
腰に差した剣の柄は何かの骨で出来ているらしく、趣味が良いとは言えない。
もっと趣味が悪いのは左腕で抱えているものだ。
それは兜だ。デュラハンは首なし騎士として名を馳せているが、それは彼の姿そのものを表している。
比喩などではなく、本当に首がない。
「ボルカニカを倒したか……だが、仲間の1人はやられたらしいな。残念だが、私はそのボルカニカよりもずっと強いぞ」
抱えられた兜がカチャカチャと動いている様はなんとも妙なものだ。
「それでもお前は俺達には勝てないよ」
勇者は死んだような顔で剣を抜いた。
それに続いて戦士も武器をとり、魔法使いは杖を構えた。
「くははは、何を言うかと思えば……面白い冗談だな。ならばその力示してみせよ」
デュラハンが嘲笑し剣を抜くと、同時に馬は前脚を上げ威嚇するように嘶いた。それが開戦の合図となった。
馬はデュラハンの意志を完全に理解しているのか、何をされるでもなく勇者に向かって真っ直ぐに突進。
「──させるかッ」
その間に戦士が割って入り、大剣での薙ぎ払い。
防具を付けているとはいえ、戦士の馬鹿力で振るった大剣が馬に当たれば確実にバランスを崩す事が出来る。
が、そう簡単に行く訳もなく馬上のデュラハンの剣戟により弾かれた。
並程度の大きさの剣の一振が大剣を弾くとなると強度は勿論の事、それ相応の腕力、もしくは卓越した技術が必要になる。
人間とは身体の構造が違うデュラハンは腕力において人間に劣る事はないだろう。
勇者はその隙に反対側に回り込み、左腕で抱えている頭部目掛けて突きを繰り出す。
「甘い!」
しかしそれも障壁により阻まれ有効打にはならない。
「二人とも下がるのじゃ」
魔法使いの声に反応した2人は即座にその場から離れる。既には杖を向けられており、展開された魔法陣からは炎の槍が放たれていた。
槍は障壁を突き破ると腹部に命中し、デュラハンは爆炎に包まれた。
「やったか!?」
この戦士の台詞もお決まりだ。そして今までの行動も、全てパターン化された内の一つでしかない。
なのでフラグ回収とは少し違うかも知れないが、やはりというべきかデュラハンは特に傷も負っていなかった。
デュラハンは防御力がずば抜けて高い。物理攻撃に関しては防いだり弾いたりしなくてもほとんどダメージがない。それに対し魔法攻撃は有効だが、それでも生半可な魔法では傷一つ付けることは出来ないだろう。
「ふん、この程度の魔法では話にならんな」
炎に焼かれながらも余裕たっぷりにそう言った。強がりではなく、事実だ。
それからは戦士と勇者が前衛でデュラハンの動きを止め、後衛の魔法使いが隙を見て攻撃をひたすら繰り返した。
デュラハンは防御魔法こそ使うものの、攻撃に関しては物理攻撃のみ。つまり、2人がやられない限り魔法使いは安全だ。
左右から迫る剣戟を器用に受け流すデュラハンの剣技は卓越していた。
甲高い金属音が鼓膜を揺らし、 激しい火花が絶えず散っている。
その間を縫って炎が、氷が、風がデュラハン目掛けて放たれていく。
そんな激しい攻防だが均衡は長くは保たなかった。
片方は生身の人間で、もう片方は防御力に特化した魔族。有効打に欠ける勇者達が押されるのは仕方のない事だった。
双方の剣は次第に当たるようになってきている。
勇者と戦士の刃は鎧に弾かれ、反対にデュラハンの剣は2人の血を流した。
やがて馬の突進をくらった戦士が吹っ飛び、デュラハンの投げた剣が左胸に突き刺さる。
「死ねい!」
「かはッ……ちくしょう、が……」
悔しそうな言葉を最後に戦士は呆気なくその命を散らした。だが、彼の表情は何処か安堵したような、安らぎの表情だった。
そしてその直後、魔法使いが強い輝きを帯び始めた。黄金の輝きは杖の先端に集束していく。
見ただけでそれが尋常でない事がよく分かる。
勇者は知っていた。このパターンを。戦士が死に、魔法使いがとる次の行動を。だから巻き添えをくわないようにあらかじめデュラハンとの距離をとっていた。
魔法使いは涙を流し、同時に諦めたような悟ったような顔で、
「勇者、必ずや魔王を討つのじゃ」
「……」
勇者は何も言わなかった。このやり取りもウンザリするほど繰り返していたからだ。
仲間の死すら慣れてしまった彼には、最早なにも響くことはないのかもしれない。
「な、なんだそれは……何なのだその力は!?」
杖先を向けられたデュラハンは驚愕し、怯えながらも最大出力の障壁を何重にも展開した。
「幕引きじゃ。ワシと、お主の命の」
杖から放たれた黄金の光は、いとも簡単に障壁を破壊しデュラハンの頭部に命中。
「─────」
炎はない。煙もない。眩い光が膨れ上がりデュラハンを包み込む。同時に床を破壊し天井を突き破ると、その光は天から降ってきた柱のようにどこまでも高く伸びていく。
やがて光が消えるとデュラハンは断末魔を上げることすら許されず、馬と共に塵と化した。
そして魔法使いは業火に焼かれたように灰になり、サラサラと零れ落ち、やがて全てが風に吹かれ辺りに散らばった。
勇者はそれを最後まで見届けると、その場に座り込んだ。
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