魔法使い①



わからぬ、この世界が全くもって理解出来ぬ。


何故こうも繰り返し同じ場面をワシは生きておるのじゃ。身体の自由も効かぬ。

これではまるで、牢獄ではないか。


気持ちが悪い。ワシの意志に反した言葉を吐き、意志に反した行動を取る。そしてワシは、同じ所で死ぬ。


一体、何なのじゃこれは。

僧侶はボルカニカより先へは進めぬ。戦士とワシはデュラハンで死ぬ。勇者は魔王で死んでいるのか、それとも倒しているのか……ワシにはわからぬ。


ワシは300年も生きておるが、それ以上にこの繰り返す世界にいる気もする。数にすれば30000回。


戦士もこの苦しみの中にいるのだろうか。

あやつはドがつく程の大馬鹿者だからの、そうだとしても夢だと思っていそうなものじゃがな。

ワシは今、何のために戦い、死んでいるのか。始めは魔王を討ち、世界の為に戦っておったがその世界からはこの仕打ちじゃ。あまりにも救われぬ話ではないか。


この無意味にも思える繰り返しに意味があるのとするのならば、是非ともご提示願いたいものじゃ。

魔王を討つ事も、最早ワシにとっては己の解放の為。解放されるかも分からんが、それ以外できる事が見当たらぬ。



繰り返される世界で、ワシはある2つの仮説を立てた。

1つは歴史は繰り返しているかもしれぬということ。

1000年前の勇者伝説。有名な話じゃ。魔王が現れた昨今、この世界で知らぬ者はおらぬじゃろうな。


先代勇者は当時絶大な力を誇った魔王を仲間と共に討ち滅ぼし、闇に包まれた世界を光で照らした。


かなりザックリ纏めるとこういう内容じゃ。

ワシは幼い頃からこの伝説に疑問を感じていた。

何故絶大な力を持つ魔王をひょっこり現れた勇者如きが倒せるのか。


魔王とは即ち、魔族の頂点。権力ではなく力で上り詰めた者じゃ。魔族という種の頂点とは、勇者如きに敗れるのか疑問じゃった。

今代の勇者は確かに強い。じゃが、戦士とて引けを取らぬし、ワシもそれは同じじゃ。

三人の力はほとんど拮抗しておる。ほんの少しだけ、勇者が上やもしれぬがな。


逆に言えば、魔王とはそれまでの存在なのかと。

現時点でワシがわかっているボルカニカとデュラハンに関しても、サシの勝負ではワシらは1人として勝てぬじゃろう。よくて相打ちじゃな。


1000年前とて幹部や魔王の力は大きく変わらないはずじゃ。

とてもじゃないが、誰一人死ぬ事なく倒せるような相手ではない。それなのに、どの史実を辿ってみても当時の仲間は寿命や病気で亡くなっておる。


改竄された歴史かと疑いもしたが、先代勇者パーティの末裔をワシは知っておる。本当に生きて帰ってきたと先祖代々言われておるのだ、嘘ではなかろう。

だから、思ったんじゃ。当時の勇者達も同じように繰り返していたのではないかと。


何千何万と繰り返し、奇跡を待ち全員揃って魔王を倒したのではないかと。

こちらの仮説なら、まだ救いようはある。何万と繰り返す中でもゴールはあるのじゃからな。


もう1つは出来れば外れていて欲しい。何故こんなことを思いついたのかも分からぬが、不思議と頭にこびり付いて離れないのじゃ。


あえて自我と呼ぼうかの。それが目覚めたのは実はこの繰り返しの中なのではないかということじゃ。

今までの記憶も体験も全て、作り物なのではないか。ワシがワシとして産まれたのは、つい最近なのではないかと。


わからない。この世界が本当にあるのかどうかさえも。

神のような存在があり、ワシは盤上で駒として動かされているのではないか。


これは神の遊戯で、作り物の世界ではないか。


最初から、現実には勇者も魔王もワシも誰一人存在しないのではないか。

遊戯の設計ミスで魔王が強くなり過ぎて、ワシらは繰り返しているのではないか。


そう考えると怖くてたまらない。


ワシのこの葛藤や感情、あやつへの想いもあるいは──



それだけは嫌じゃ。


それだけは嫌じゃ。


ワシは今ここで確かに、生きておる。


息をして、確かに存在しておるのじゃ。


エルフの里にきたばかりのあやつとは、よく喧嘩した。それを勇者と僧侶が何度も止めてくれた。


ワシら三人が床に臥し、勇者が独り戦っていた時も慰めてくれた。あの流行病にかかったのはワシが原因だと言うのに。一言も責めはしなかった。


魔王城に来る途中もそうじゃった。

先程も言うたがあやつは頭が悪いが、その分身体は頑丈なんじゃ。だから誰よりも前に立ち、誰よりも敵を斬り伏せた。その分、傷も絶えなかった。


何度止めようと、あやつは笑って言ったんじゃ。


「僧侶にいい所を見せたいんだ」


バカモノが、言われたワシの気分は最悪じゃ。

でもまぁ、そういうずさんな所は嫌いじゃない。


例え他の全てが作り物だったとしても、この気持ちだけは絶対に、絶対にそうでないとワシは信じておる。


のぅ戦士、ワシはまたあの魔法を使う事になるじゃろう。


それを知るとお主は怒りそうじゃが、お主の居ない世界でワシは生きたくないのじゃ。そこだけは、勝手に動く身体に感謝せねばならんかのぅ。同時に勇者は魔王の元へと進ませねばならぬ。


それなら、答えは簡単じゃろ?


「いくぞ」


勇者よ、お主は決まってソレを言うのじゃな。最近、それが2つの意味に聞こえてしまうんじゃ。

お主もこの世界を繰り返しておるのか? それともワシだけなのか?

いや、きっと──

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