戦士①
ちくしょう、また僧侶が死んじまった! また救えなかった!
惚れた女一人守れないなんて、俺は戦士失格だ。
でも大丈夫。僧侶はまだ死んじゃいない。どういう事か分かるか? これな、実は夢なんだ。って誰に話しかけてんだっつーの! がははは。
まあいいや、とりあえずさ脳内の誰かに話したいんだよ。
だってずっと同じ夢見るんだぜ?
あー、夢から醒めた。って思ってもまた始まるんだ。
とにかく、この次は魔王軍No.2のデュラハンが待ってるんだけどさ。
そこに行くまでに少しだけ話を聞いてくれよ。
皆知ってると思うけど、俺ら勇者パーティは魔王を倒す為に旅をしてきた。皆強いからな、魔王城に辿り着くのはそんなに不思議じゃなかった。結構辛い旅だったけどな!
俺はいつから夢を見ているのか、もしかしたら勇者と出会った頃から夢の中なのかもしれない。俺の見る夢は同じ所から始まって、大体同じ所で終わる。
分かりやすく言うと、魔王城入口から始まってデュラハン戦で終わるんだ。
不思議と俺はボルカニカでは死んだ事がないな。
でもそこが一番嫌いな部分なんだよ。
少し恥ずかしい話だけど、俺さ僧侶の事が好きなんだ。なんて言うかアイツは大人しくて品がある。そんでもって何時でも優しくて気配りも完璧だ。
俺が勇者と出会った時、勇者は僧侶と2人だった。
俺が僧侶を見た時は雷にでも撃たれたんじゃないかって言うほど衝撃だった。
さっき僧侶の中身の話したけど、あれは後付けだ。本当は一目惚れだったよ。
だから勇者から誘われた時、内心喜んでたんだけど、それじゃあ格好つかないだろ? 俺は勇者に条件を付けたんだ。
誰も死なずに魔王を倒すって言う条件をな。中々イカしてるだろ?
あの時、勇者は「当たり前だ」って、そう言って笑ってたっけな。
多分さ、僧侶は勇者の事が好きなんじゃないかって思うんだよ。鈍い俺だけどなんとなくそう思うんだ。
ふとした時に僧侶はよく勇者を目で追ってるよ。
それに二人でいる時はなんだか楽しそうなんだよ。
っていうのもいつも僧侶を見てるから気付くんだけどな! これがまた辛いのなんのって!
惚れた女の幸せを願うなんて、そんな潔い男にゃなれんね俺は。
叶うなら俺に振り向いて欲しいし、なんなら喧嘩でもしてくれないかなって思ったりもする。
別に勇者が嫌いな訳じゃないぜ? むしろ逆だな。
アイツはどんな時でも絶対に諦めたりしないんだ。いつだったか、どっかの街で魔王軍幹部が襲撃してきた事があったんだ。
情けない話だがその時、勇者以外の俺達は流行病で床に臥してた。だから戦えるのなんて勇者一人しかいなかったんだよ。
あの時の俺達は旅に出てそんなに経ってなくて、実力も大してなかったと思う。
サシでやり合った勇者はボコボコにされたよ。窓から見ることしか出来なかった俺は、罪悪感で潰されそうだったさ。
勇者は回復薬に頼りながら、少しづつ少しづつ相手の体力を削っていった。
最後なんて回復薬の飲みすぎでゲロ吐きながら戦ってたな。
そんでさ、最後にはしっかり勝っちまったよアイツ。
その時俺は悟ったよ。やっぱりコイツは勇者で、俺はどう足掻いても勇者みたいにはなれないってな。僧侶が惚れた理由が少しだけ分かった気がするんだ。アイツ、かっけーんだよ本当。
俺は助けて貰ったくせにさ、あんまり嬉しくなかったんだ。悔しさと不甲斐なさの方が何倍も大きかった。
同年代の男に身も心も完敗だ。なんでだろうな、恋敵なのに少しだけ勇者に憧れてるのかもしれないな。
あんな風に誰かの希望になれたらってさ。
まあとにかく、そんなこんなで俺は勇者が嫌いじゃない。尊敬してるんだ。
俺と勇者は《誰も死なずに魔王を倒す》って事を約束してんだ。アイツの中ではそれがもう無くなっちまってるかもしれない。
これは夢の中だし、正確にはアイツじゃないんだけどな。
そういえば全然話が変わるんだけど夢の中だからなのか、身体が思うように動かないんだよな。そんでいっつもデュラハンに殺されちまうんだ!
でも一回だけ、俺が死なずに魔王に辿り着いたことがあったんだ。
びっくりしたよ。いつの間に夢から醒めたんだって思ったさ。不思議とその時は自由に動けるようになってたし。
で、ふと思ったんだ。二人なら魔王を倒せるんじゃないかって。うん、いけたと思う。
その時俺は勇者にこう言ったんだ。
「勇者、ここから先はお前しか進めない。頼んだぞ」
ってな。勇者は一瞬ポカンと口を開けたかと思うと、必死に説得してきたよ。
本当に必死に。涙を流しながら何度も何度も、こんな馬鹿な俺に頭を下げてきた。悪いのは俺で、正しいのはアイツなのに。
それでも俺は首を横に振り続けたよ。
俺の説得に諦めた勇者の顔は、多分死んでも忘れられないと思う。
この世の終わり……いや、もっと酷い。どうすればあんな表情が出来るのかっつーくらい、絶望してた。
勇者は耐えられなかったんだろうな。
希望が絶望に変わった事が、辛かったんだろうな。
勇者は優しいからさ、俺じゃなくて自分を殺そうとしたんだ。自殺ってやつだな。
アイツが死ぬとこなんて見たくなかったから、勇者の腕を掴んで俺の首に剣を刺すようにしたよ。
不思議と痛くなかった。
すげぇ泣いてた。昔の勇者みたいにさ、純粋な涙を流してたよ。
もしかすると、その時が魔王を倒す最初で最後のチャンスだったのかもしれない。
きっと俺の事恨んでるんだろうなあ。俺のせいで倒せなかったんだから。
でもさ勇者、聞いてくれよ。
俺は別にこの世界が滅んでもたった一つだけ守れたら、他はどうでもいいんだ。
お前との約束だ。
誰も死なせないってやつ。結果としてバンバン死んでるけど、それは夢の中だから許してくれよ。
最後に魔王を倒す時は、勇者がいて僧侶がいて魔法使いがいて俺がいる。
だからあの時、俺は魔王とは戦わなかったんだよ。
もし倒しちまったら約束破っちまうだろ?
ごめんなぁ、何度も何度も辛い思いさせて、俺のわがままに付き合わせて。
「いくぞ」
ああ、ボルカニカの事で怒ってるなこりゃ。
あのままだと自爆して皆死んじゃうんだよ、許してくれよな。
あーあ、一人で行っちゃったよ。俺も行かなくちゃな。
さて、25000回目のデュラハン戦だ!!
気分がいいなあ! これで死ねばまた僧侶に逢えるぜ! 長い夢だけど、お前に沢山逢えるから俺は幸せだ。
待ってろよ僧侶、すぐ俺も死ぬからな! そしたらまた一緒だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます