コーヒーより効く眠気覚まし 【テーマ:不眠】

月曜日の部活中、私は図書室の端の席でずっと考えていた。


コーヒーは働く人間の味方だとかなんとか言われているけど、そうは思わない。


だってあれ苦すぎるのよ。本当に人間が飲む用に作られてるの?


文芸部長、高校三年生のいおりみおは最近寝ても眠気が取れない。

かといって薬を飲みたくはない。確実に私の眠気を取ってはくれるだろうが、意識がふっと途切れてしまう眠りなんて怖すぎる。


"そうだ、眠気覚ましに"と思ってコーヒーに手を出したが……これが飲めたものじゃなかった。

何度でも言うわ、苦すぎるのよ本当。

飲んだ時にすごい顔をしたらしく、母親には「かわいい」などと笑われる始末。


「五歳児が初めてコーヒーを飲んだ時とおんなじ顔ねぇ」だって。

……何よもう! 私の身長が低いからって……。




「なーに七面倒なこと考えてるんですかいおり先輩」


此木このきちゃん! 聞きなさいよ、最近眠気が取れないって話」


「そんなことですか〜、聞くのはやめておきますねぇ」


「ちょ、そんなことって何よ……死活問題でしょう」


「わたしは毎日よく眠れてるので、問題ありませ~んっ」


「うぐ……」


この後輩、此木実花は超生意気。

スラっと身長が高くて、低身長の私はうらやましい。

文芸部には部員が六人いるが、一年生はこの子だけ。


他の先輩に対しては敬意を払っているようだが、私に対しては敬語ではあるものの明らかに馬鹿にしている。


絶対に身長のせいだ……。


「それで先輩はコーヒーを飲んでみたが苦すぎて飲めなかったと。うん、子供っぽくてかわいい」

「なっ……の、飲めるにきまってるじゃない!? って、何よ子供っぽいって!?」


「だって自分で言ったじゃないですか。苦すぎるのよ、あんなの飲めたものじゃない~って」


「え」口に出てた?嘘でしょ。


「独り言は今に始まったことじゃないですから気にしませんけどねっ」


……うっざ。


「そんなかわいそうでかわいい先輩に、いい眠気覚ましを教えましょう♪」

「いい眠気覚まし……?」

「目を閉じて、口を開けてくださいっ」

食べ物かしら……?

そんなことを考えていると、錠剤と同じくらいの大きさのものが口に放り込まれた。

「噛んで大丈夫ですよ~」

そういわれたので噛んでみる。

ん?なんというか口の中がすーっとして……

ちょっと辛い……?

これくらいの辛さなら……と思った瞬間。

「------っ!!??」

とんでもない辛さが口の中をあちこち刺してくる。

「あっははははっ、やっぱり耐えられないですよね先輩。かわいいから」

「かわいいとか言うな……っていうか辛すぎ!! お水お水……!!」

通学用リュックの中を漁る。

あった、私の生命線……!


水筒をつかみ取ると、水を一気に飲む。

ひりついた口や喉を潤していく。助かった……。


「ちょっと此木!?なんてもの口に入れるのよ!?」

少し大きい声で怒鳴る。

すると彼女はこてん、と首をかしげて、

「私がよく使っている眠気覚まし用のタブレットですよ?」

なんて言った。

「こんなものよく口に入れられるわね……あんたの味覚どうなってるのよ」

「目は覚めたでしょう?」

くすくす、と笑う此木ちゃん。もう、その余裕が腹立つ……。

「覚めたけどこれはちょっと非人道的すぎるわよ……」

「大人はこういうのをよく使ってるものですよ~っ。あ、もう部活終わる時間ですね」

「嘘、もう6時前……」

私は時計を確認すると、みんなに帰っていい旨を伝えた。

「じゃあお疲れさまでした庵先輩、明日はちゃんと寝れるといいですね~」

「はいはい、お疲れさま……」









次の日の部活。

やっぱり眠気がとれなかった。

私は仕方なく、目の前の席に座って本を読んでいる此木ちゃんに声をかける。

「此木ちゃん……」

「なんでしょう不眠先輩」

ふ、不眠先輩……事実だけど。


「昨日みたいに非人道的じゃない、眠気覚ましってある……?」

「非人道的なやつはあるんですけどねぇ」

やめなさい。心の中で突っ込む。


「非人道的じゃない眠気覚まし……」


此木ちゃんは少し考える仕草をして……。

「そうだ。庵先輩、ちょっと着いてきてください」

「どこにいくの?」

「お花を摘みに」

そう言うと、彼女はすぐさま椅子から立ち上がり教室を出る。

「ああ……」

トイレね。

私は置いていかれまいと後ろについて行く。


トイレに着いた。

「うん、誰もいないですね」

彼女はきょろきょろと辺りを見回す。

そして、私の方に近づいてきて……。


「え、あ、え?」

ちょ、ちょ……近い近い近い!

此木ちゃんが私に近づいてくる。

思わず目を閉じる私。



唇に柔らかい感触。


え……これ……。



そっと目を開けると……。



私は此木さんにキスされていた。



え、え、え。待って。脳の状況処理が追いついてないって。


私の唇……奪われちゃった……?


その考えが頭をよぎった瞬間、熱が頬から顔全体に伝播していく。


「な、何……を……」


呂律がうまく回らない。顔がすごく熱い。

心臓の鼓動が、相手に聞こえてしまうんじゃないかって思うくらいにうるさい。

「非人道的じゃない眠気覚ましですよ。どうです?目覚めました?」


私の身長に合わせてくれたのか、中腰になった此木ちゃんがにこっと笑う。

「な、なんてことを……」

「先輩は幼いですから、こう言うことで眠気は覚ませるかなって」

「お、幼いって……こんなの、そもそも、普通、しない」

「え〜?みんなやってますよ、こんなの。先輩知らないんですかぁ?」


煽るような口調でそう言ってくる生意気な後輩。

……むかつく……!

仕返してやりたい……!

そんな考えが頭に浮かび、ふと今の状況を考える。

キスするため、彼女は中腰になった。

そして今もまだ中腰だから唇が届く、そう考えて、

「私だって、できる……ん……!」

私からも口付けし返す。


一瞬、此木ちゃんが驚いたような顔をした。

勝った、と思いながら目を閉じ、少しして顔を離す。

そして、再び目を開ける。

「ふぇ、あ」

彼女は顔を真っ赤にしている……。


か、可愛い……。

「ほ、ほら。私にだってできるでしょ。貴女だって照れてるじゃない」

「これは、その、不意打ちされたからで……別に、先輩が好きとかそう言うんじゃ……」

此木ちゃんは焦ったのか早口になっていて、なんというかしどろもどろだ。

何を言っているのかよく聞こえない。

「と、とにかく、先輩の目は覚めましたよね! ほら、早く戻りますよ……!」

そう言い残すと、彼女は足早にトイレを去った。

……ぅう……まだ心臓がうるさい……顔も熱い……。

これじゃあ戻れないじゃない。どうしてくれるのよ、此木ちゃん。


「別に……あの後輩が可愛いとか、私が口付けされる前の表情がちょっと凛としてて大人みたいだった……とか、絶対、思ってないから」

そう口に出して信じ込もうとする私だが、心のどこかでそう思っている自分もいると納得してしまう。

信じ込もうとしてしまう辺り、やっぱり本当に私はまだ幼いんだろうな……。

自分で認めるのはなんかむかつくけど。









ああもう、貴女へのこの変な感情、どうしてくれるのよ…………此木ちゃん。















【感想戦】


プニッチです!

やっぱ百合のキスっていいですよね(キモ)。



僕は百合とにかく大好きなんですけど、優位に立ってた人が不意打ちで崩されちゃうシチュエーションがなんと言うか好きです。


正直終わり方とか一切決めてなくて、ノリだけで書いたんですけど、まぁまぁの結果に落ち着いたかな……って言う印象。


昔ほどではないけど駄作にも程がある。


ちなみにキャラの名前は前回と違い深く考えず、こんなんでいっかくらいの気持ちです。


ちなみになんですけど。

これだけで終わらせてしまうと物足りないと思うので、後日談も次書こうと思ってます。

あえてここでは書きません。

終わり方が綺麗にできないのと、今後をここで確定させると皆んなの妄想が捗らなくなると思うからです(妄想前提)。

後日談はちゃんと記しますが、読むもよし、読まないで妄想するもよしです。


まぁそんな感じで今回の作品は終わり!


コメント、評価、フォローお待ちしてます!

プニッチでした、また次の話でお会いしましょう。ばいばーい。




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【ショート】プニッチのショートラブコメ集 プニッチのGWL(グッドライトライフ) @punicci_gamer

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