第14話風、来たる
鼓膜に響くゴブリンの叫び声。その叫び声はすぐに悲鳴に変わる。
氷塊をぶつけられ後ろに倒れたゴブリンはピクセル状になって消滅した。
背後から殴られた傷がジンジンと痛むが、気にしている場合ではない。
「ガァ…!」
私達は今、ゴブリンに囲まれているからだ。
ゴブリン駆除の依頼を受けやってきた私達は、やけに数の少ないゴブリンと対面し拍子抜けしていた。
だが魔道士のような姿をしたモンスターがゴブリンに杖をかざすと魔法陣からゴブリンが大量に現れ、あっという間に私達を取り囲んだのだ。
アイツは他のモンスターを召喚することはなかった。恐らく、モンスターを”コピー”する能力を持っている。アイツを潰さなければジリ貧。だがアイツに近寄れない。
勇者と背中合わせになり、ゴブリンの大群を見つめる。スキルを使わなければ。でも隙ができてはマズい。
『じれったい。早くどうにかできないのか?』
「ッ…!」
もう一人の私の言葉に苛立ち、落ち着きを忘れそうになる。
深く息を吐き、考える。今、何をするべきか。
一体ずつ倒すのはあまりに非効率。効率よくゴブリンを蹴散らす方法は…
数秒考え、一つの結論に至る。
両手を横に広げ、叫んだ。
「氷結ッ!」
氷塊を勇者と私を囲むようにして出現させる。それを一気に同じタイミングで放った。
何匹か短くうめき声を上げて倒れたが、まだ攻撃が足りない。
連続で同じ攻撃を放ち、数十匹倒すことに成功した。
「よくやった!だが――」
称賛の言葉を送りつつも顔を曇らせる勇者。
これじゃキリがない。やはり大元の魔道士を倒さなければ。
「私がゴブリンを倒します。勇者様はあのモンスターを」
「了解」
私はすぐにスキルの準備をする。手から冷気が発せられ、白い煙が漂っている。
私が駆け出すと、ゴブリンは威嚇するように短く叫び駆け出してきた。
落ち着いて右手を突き出し、ツララのように先の尖った氷の弾を扇状に繰り出す。そしてそれを一気に発射した。
数体にヒットしたが、依然数は多いまま。
…あれをやってみるか。
勇者との特訓で身につけた技。
「ふぅ………!」
ゆっくりと、慎重に。拳に氷を纏わせる。
「ガァッ!」
ゴブリンがこちらに向かってくる。すかさず顔面に一発。
「グッ!?」
モンスターは後ろに仰け反る。ただ殴っただけではないか、と言わんばかりにほくそ笑むと、再度私に駆けてきた。
抵抗もせず、ただゴブリンを見つめる。
ゴブリンは棍棒を振り上げる。すぐにそれを勢いよくそれを振り下ろした。
「ガァッ――――」
棍棒はゴトッと音を立てて地面に落ちた。
眼の前のゴブリンは、氷漬けになっている。断末魔は聞こえなかった。
これが私の新技、時間差で相手が氷漬けになる拳。
仲間が死んだ怒りからか、自衛本能からなのか、ゴブリン達は血相を変えて襲いかかってくる。
殴って殴って殴り続ける。順調に数が減っていっている。
「あともう少――」
突如腹部に響く鈍痛。どうやら足元から腹部を叩かれたらしい。
そこまで見ていなかったという後悔と自責。
ドサッと尻もちをつく。早く立ち上がらないと。
「――あれ…?」
腕が動かない。拳が地面にへばりついている…?そんな感覚。
もしや手をついた拍子に拳から氷が広がってしまった…?その証拠に背中が冷気で冷たくなっている。
ゴブリンが迫ってくる…マズい…!
『足を使えばいいだろ!』
ハッとする。咄嗟に足を横に勢いよく振った。
「氷ッ…結!」
氷弾を弧を描くようにして放つ。
幸いにもそれはすべて命中し、ひとまず時間ができた。増援が来ているが、ゴブリンの足は遅い。
『お前が死ねば私も死ぬんだよ!シャキッとしろ!』
「うっさいなぁっ…ぐっ…!」
思いっきり力を入れて立ち上がろうとする。
ピキピキ、とヒビが入る音が聞こえたかと思えば拳はいきなり開放され、慌てて手をついた。
あと数十体。もう一息だ。
こちらを見てケラケラと笑う魔道士。
剣も矢もすべて避けられる。正直もう手詰まりだ。
ケラケラ笑いながら杖から火球を飛ばしてくる魔道士。剣で弾き返すことしかできない。
…結局これを使うしか……
「ハイドロ・ブースト…!」
剣を構えて軽くジャンプする。足の裏から一気に水を放出し魔道士に突撃して切りつけた。
「ギャッ!」
手応えあり…魔道士は悲鳴を上げ動きを止める。
もうこうなればこっちのもの。後は体勢を整えれば万事OKだ。
水の勢いを緩め速度を落とす。後は着地するだけなんだが…
「うおっ――」
いっつもここでミスをする。足がつく前にバランスを崩してしまい転倒してしまった。
「ぐっ…」
膝の痛みをこらえながらなんとか起き上がりすぐさま弓を構える。矢を持ち、最高速で放った。ビュンっと音を立てて突き進んでいく矢は魔道士の胸部に突き刺さった。
「ギャアァッ!」
悲鳴が耳をつんざく。魔道士の茶色いローブには穴が空いた。
後はもう一斬りするだけだ。
剣を構えて地面を蹴る。魔道士は振り返り焦燥に満ちた表情でこちらを見ている。だが時すでに遅し。
「ギャアァァ!」
コイツは知能が高い。「死への恐怖」から発せられる悲鳴は想像以上だった。
任務は完遂。後はヨドンナの様子を見るだけだ。
振り返り、魔道士がいた場所を見ると、太陽の光を反射して何かが輝いていた。
拾い上げて見てみると、それは紫色の角張った小さな石を連ねたブレスレットだった。恐らくヨドンナの”氷結”等のスキルを強化することができる。後で渡そう。
「ヨドンナ!」
見ると、ヨドンナは数十体のゴブリンに苦戦しているようだった。
「っはい!」
「今行く!もう少し耐えっ――」
その時、猛烈な突風が俺を襲った。
風の音で周りの音が聞こえない。明らかに自然のものではない突風だ。
土煙で視界も奪われた。
マズいマズいマズい…!一体誰が――
――突風が止んだ。
直ぐに目を開けて状況を確認する。
「――は?」
信じたくない…見たくない。
そもそもなんで彼が?
なぜ風の国の王子がヨドンナを拘束し、首にナイフを当てている?
「魔王の側近…いや、元側近と言うべきか?あ~とにかく。
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