第2話 恋の告白を包んだメモ用紙
「──さっ、これを手渡して」
「今さらですが、照れくさいですね」
「何言ってんの、彼とお近づきになりたいんやろ」
「はい」
次の日、校内の昼休み。
仲の良いクラスメイトでもある
本当はバイト先で渡したかったけど、外部からの物の持ち込み禁止という規則を思い出し、学校へと場所を変えたのだ。
「ではいくよー。
やんちゃで元気な春草さんは自分ごとのように楽しそうに笑って手を振ってくれた。
****
「──だからさ、俺のところの大人のシェパード犬が、じゃれて怒った子猫の野良猫に追いかけられてさ」
「ははっ、まさに
購買パンの入った袋を持った
チャンスは今しかない。
「きゃっ!?」
「何だ? えらい派手に転んだな?」
何も段差がない床で大きくコケる私。
下駄箱に忍び込んだり、普通に手渡しは不自然なので事故に見立てる。
これなら内気な私でもきっかけが作れる。
春草さんのナイスなアイデアだった。
「あっ、あの……」
「うん、言わなくても分かってる。怪我はない?」
「えっ、は、はい?」
仲澤くんが私の怪我を気遣いながら、私の手を引っ張って起こしてくれる。
「ごめん、この子バイト先の知り合いなんだ。ちょっと先に行っててよ」
「ああ。いいよな、お前ばかり可愛い女の子が寄ってきて」
「ごめんな。今度、駅前のクレープ奢るよ」
「くっ。やっ、約束だかんなー!」
スイーツ好きな乙女のような会話で締めくくり、野次馬が去った所で優しいスマイルを見せてくる。
これで堕ちない女の子なんていないと思うんだけど。
「えっと、何の用かな。今朝から僕を付け回してる
「仲澤くん、クラスが違うのに私の存在を知っていたんですかー!!」
「いや、同じバイトの店員だし、尾行もバレバレだし、声も大きいから……」
「すっ、すいません」
渡り廊下の窓際で照れながら髪先をつまみ、小声で話しかけてくる可愛い
勘が鋭いというか、春草さん、私たちの完璧な計画、見事にバレてるよ。
「そのメモ用紙、僕宛てだよね?」
「はっ、はい。お酒のあてというか」
「宝塚さん、中身はおっさんなの? とても高校生のダジャレとは思えないよ」
「はい、よく友達に言われます」
駄目だ、下手に口走れば全てが水の泡だ。
悟られないよう、慎重に想いを伝えるんだ。
私は校舎側の窓枠にもたれかかり、必死に言葉を選ぶ。
通りすがりの二人組の女生徒が『熱いね〜』とか喋ってるけど、もうとっくに12月だからね。
「さてと何が書いてるかな?」
「あわわ!?」
ああ、何で翼くんの足元にメモが都合よく転がってるのよ。
これじゃあ、読んでくれって言ってるものだよ。
「えっと……好き──」
「ひやあああ!?」
翼くんが声に出して読む言葉に心臓が飛び出そうな声を上げる私。
女の子だからしおらしく?
向こうは好きだと言いかけてるし、こんな極限状態で自我を保てる方が普通じゃないよ。
「──好きなあんドーナツなら机の中に入れといたよ?」
「あぐは!?」
あのぉ……しれっと春草さんと友達が書いた文章の内容に変わってるんだけど。
だからってこのメモに気づかず、ずっと机に入れっぱなしという真相も嫌だよね。
「はははっ、宝塚さんって百面相みたいで面白いね。見てて飽きないよ」
「はい、よく家族から言われます」
私は翼くんの気を引くため、ありもしない話をでっち上げる。
これじゃあ、私の家族はひょうきん族だ。
「だったらさ、今度、僕もお呼ばれしてもいいかな? 宝塚さんのご家族に」
「えっ、それって私と付き合うという設定に」
「うん、友達としてね」
「……あはは」
友達という言葉の返しに気が狂いそう。
初めから女と意識するどころか、恋愛対象にすら入ってなかったんだ。
「たっ、宝塚さん、どうしたの!?」
あまりのショックで私はその場で気を失った──。
****
「──うーん、マシュマロを投げ打って……」
「あら? 翼、
次に気付いた時は見知らぬ部屋でふかふかのお布団で寝ていた。
自分の家にしてはおかしいな、私の部屋はベッドだし、翼と呼び捨てする聞き覚えのない女性の声がしたり……誘拐とかじゃないよね。
しかも花凛って呼んだからに、スパイかスパイス、スパイシーか何者かに部屋に閉じ込められたの?
「母さん、宝塚さんを名前で呼ばないで」
「何だい、彼女さんじゃないの?」
「だから違うって。何度言ったら分かるのさ」
「堂々とお姫様抱っこをしたまま、乙女の柔肌を堪能しながら、家まで連れ帰ったら誰だって」
「だからおんぶしたんだよ。勝手に話をねつ造しないでよ」
「一緒のようなもんじゃない」
どうやらここは翼くんの自宅で私をここまで運んできたみたい。
白馬には乗ってなくても王子様にお持ち帰りされちゃったよ。
「さっさっ、母さんは台所に戻ってよ」
「おっ、鬼の居ない間に究極の選択か」
「ただ様子を見に行くだけだよ!」
翼くんがお母さんの発言を否定し、こちらの方に向かってくる。
私はかけ布団を頭から被り、お花のいい香りがする布団の中で色々と考え事をしていた。
****
「ごめんね、宝塚さん。ウチの母さんがうるさくてさ」
病人だからか、放っておけない性格か、翼くんが私に優しく接してくれる。
「……仲澤さん、いや、翼くん」
「うん?」
「私、あなたに伝えたいことがあるんです」
六畳間ほどの部屋に二人っきりというこの状況。
ここなら人気がないから気兼ねなく口に出せるし、玉砕されてもからかうようなクラスメイトもいない。
神様がくれたチャンスとはこんな時のことを言うんだろう。
「あの、わっ、私……」
私はずっと秘めていた想いを伝える。
ストレートで大胆にあなたのことが好きですと──。
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