第13話 2度目の初陣

「ここからは模擬戦のルール説明を致しましょう。用いて良いのは魔法のみ、どちらかが敗北を宣言するか、戦闘不能となった段階で決着です。対戦相手に致死的なダメージを与える攻撃は失格処分の対象となりますので、くれぐれもご注意下さい。模擬戦のフィールドとなるのは校庭中央に展開される結界内部です。待機中の方は、結界外からお好きな場所でご観戦下さい。」


校長の説明が終わると、白い髭を蓄えた壮年の男が校庭のど真ん中に結界を張った。恐らく半径、高さ共に数十メートル規模の円状の結界だ。この規模の結界を、確実に破壊されないように展開すると言うのは中々の高等技術に見える。エルヴィンや周りの反応を見てもかなりハイレベルな結界術師らしいな。ハイデベルクは教員の質も最高級と言う事だろう。


「それでは、まず1組目の試験を行います。ヨーゼフ・リュッチェンス君、エヴァ・カイテルさん、結界に入って下さい。」


どうやって入るのか俺も呼ばれた2人も疑問に思っていたのだが、どうやらあの結界は魔法だけを通さない特殊結界の部類らしい。逆に言えば戦闘によって生じる砂煙なんかは通すって事だ。最前列の観戦客は距離を取り始めた。


「それでは、試験を開始します。」


どうやら二次試験のレフェリーをフランツィスカが務めるらしい。実はお偉いさんだったのか?


「光属性魔法・上級 ライトソード!」


なんと。エヴァ・カイテルなる茶髪の少女は光の剣を作り出した。接近戦を仕掛けるのか。女の子らしくないパワーファイターだ。


「!風属性魔法・中級 エアカッター!」


瞬時にリュッチェンスが風の刃を放ち突撃してくるカイテルを迎撃するが、彼女は鋭く横薙ぎ一閃。これを叩き切ってしまった。

右手に剣を構えたカイテルが更に間合いを詰める。


「炎属性魔法・初級 ファイアボール!

 水属性魔法・中級 バブルショット!」


リュッチェンスは結界の1番左端まで下がり、続け様に迎撃の魔法を繰り出す。しかしカイテルの剣技は大したものだ。全力疾走で迫りながら楽々リュッチェンスの魔法を斬撃で霧散させて行く。


「______もらった」


遂にリュッチェンスがカイテルの射程に入った。彼女は輝く刀身の峰を中段に構える。打撃を鳩尾に叩き込んでトドメを刺す算段だろう。これはもう、万事休すか。


…お?ここまで焦りの表情を隠さなかったリュッチェンスが笑みを浮かべた。あれは謀が成功した悪い大人の笑みだ。


「空間魔法・上級 エアボンバー!!!」


カイテルが剣を振り下ろさんとしたその刹那、俺の視界に飛び込んだのは赤い閃光。結界を超える爆風と砂塵に観客がどよめく中、立っていたのはリュッチェンスだった。カイテルは倒れている、が、意識はある。

…これは致命的なダメージと判定する事は出来ないだろう。リュッチェンスはカイテルを油断させて自分の眼前まで引き込むと、射程の短い爆撃をモロに浴びせて見せた。賞賛せざるを得ない作戦勝ちだ。つうかこれ本当に6歳児同士なんだろうな?どうも受験生の中でもかなり実力格差があるような気がしてならん。


「まだ戦える?」


「…いいえ、私の敗けよ…。」


「ヨーゼフ・リュッチェンス君。合格です。入学おめでとう。」


会心の一撃を決めた小さな戦士は、誇らしげな笑顔で母親の元へ駆けて行った。


「続きまして、2組目の試験を行います。パウロ・イグナーツ君、…リーゼ・シャーロットさん、結界に入って下さい。」


「よし来た。リーゼ、暴れて来い!」


本当にアンタは。


「あのシャーロット少将の娘さん…」


「エルヴィン様に似て水属性魔法の使い手なのかしら…」


…周りからの視線が痛いな。しかも1人エルヴィンガチ勢が混じってないか?まあ良い。未就学児くらい軽く捻ってやろう。


「それでは、試験を開始します。」


「土属性魔法・上級 ストーンインパクト」


先手必勝だ。俺は宙に浮かせた岩の塊を叩き込んだ。勿論死なせないように加減はしてある。


「障壁魔法・上級 シールドバッシュ!」


少年が作り出した透明の盾は俺の放った岩の砲弾を撃ち返した。マジか。これで決まると思ったんだけどな。魔法としてのシールドバッシュは非常に使い勝手が良い分、使い手は決して多くはない部類の障壁魔法だ。良いモノを持っている。


「空間魔法・王級 攻城弩砲バリスタ!」


「王級魔法だと!?大人の魔術師でも扱える人間は限られているんだぞ?!」


「いや、でも『蒼い死神』の血を引く子ならあり得ない話じゃないわ。」


「あの子と当らなくてよかったー…」


何やらギャラリーが騒がしいが、何はともあれ俺の放った空気の矢は迫り来る岩を粉々に砕き、その勢いは落ちながらもパウロ・イグナーツに直撃した。恐らくシールドバッシュで威力を増幅し、岩を撃ち返した時点で勝ちを確信しちまったんだろう。回避行動も取らずに吹っ飛ばされていた。勿論、これも手加減はしてあるけどな。


「リーゼ・シャーロットさん。合格です。入学おめでとう。」


悪いな、イグナーツ君よ。これを糧に他校でも精進してくれたまえ。その歳で希少な上級魔法が使えるのなら引く手数多だろう。


その後、残りの試合を観て帰っても良かったらしいが、そこまで興味は無いので俺達はさっさとお暇する事にした。

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