第12話 冷たい狙撃手

周りが一気にざわめき出した。そう言えば、ハイデベルクは毎年試験内容を大きく変えていると聞いた事がある。最低限受験に必要なレベルを見誤った親が多いんだろうな。


結果、試験開始前に半数近くが脱落した。他のグループも大体同じようなもんだろう。


「それでは、先頭の方、どうぞ。」


最前列に残った赤髪の少年がサークルに入った。かなり緊張している様子が窺える。


「試験を開始します。」


フランツィスカは右手の懐中時計に目をやった。ありゃかなり良い物だぞ、いつか見たエンターナショナルの時計に似ている。


「…よし、雷属性魔法・中級 スパーク!」


少年の放った雷撃が赤い的を黒く焦がした。

素早く横で待機していた用務員らしき男が新しい的と取り替える。


「えっと、次は…。ほ、炎属性魔法・中級、ファイアアロー!」


少年が自信なさげに放った火の矢は的より遥か上空を飛んで行く。その後も射出速度と精度のバランスを何とか調整しようと試みていたが、彼には180秒は短過ぎた。


「タイムリミットです。残念ですが、お帰り下さい。」


「ごめん、ママぁ…。うぅ、ひっぐ」


まあ、やはり5歳のガキに課す試験としてはかなりハイレベルだ。その後も途中棄権者を含みながら俺の番まで2時間ほど試験が繰り返されたが、クリアしたのはたった4人だった。


「次の方、どうぞ。」


ようやっと最後尾の俺の番だ。2時間もクソつまらん光景を見せられるこっちの身にもなって欲しい。まあ変に目立つつもりもないし、ここは中級魔法で突破するか。…さっきからしきりにエルヴィンが俺の使える最高級の魔法を出すよう圧を掛けて来ているが、知った事ではない。


「試験を開始します」


「氷属性魔法・中級 ヘイル」


俺の放った氷の礫が的の真ん中を撃ち抜いた。直ぐに2つ目の標的が出現する。


「氷属性魔法・中級 アイスランス」


続け様に放った氷の槍が的を砕いた。


「…おめでとうございます。合格です。この後は校長の指示に従って下さい。」


今一瞬フランツィスカがニヤっと笑った気がしたが、気のせいだろうか。

何はともあれ合格だ。不満げなエルヴィンを無視しながら暫く待機していると、霊装メガホンで拡散された校長の声が耳に入る。


「一次試験に合格された皆さんには、私が直接二次試験の説明を致しましょう。今回一次試験を突破された204名をランダムに2組に分け、模擬戦を行なって頂きます。」


ほう、最後は実力主義って訳か。分かりやすくて良いじゃないか。しかし、それだと定員を2人オーバーしてしまうが。


「そして、最終的に残った102名全員に入学資格が与えられます。定員はあくまで100名と説明しましたが、この程度の誤差は毎年生まれるものです。」


パワープレイと来るか。ハイデベルク、細かいとこは意外と適当なんだな…。

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