第8話 親バカ?
その日、俺が隠れた英雄になった日の夜の事だった。エリナは2階で裁縫中、俺は下で魔導書を読んでいたのだが。
「へぇー… 簡易詠唱にそんな効果が…。」
「ただいまリーゼ、ママはどうした?」
「2階でお裁縫してるよ。私に着せたい服があるんだって。」
「そうか。それならちょうど良い、リーゼ。少し話がある。」
エルヴィンは、仕事中は欠かさず背負っているバックパックをダイニングテーブルに置いた。
「ん、なにパパ」
「今日、パルヴスウルフを片付けた英雄。あれリーゼだろ?」
え…?どうしてエルヴィンがその事を?見られたか?いや、俺が退いた時にはまだ軍は間に合っていなかったはずだ。
「ちょ、何言ってるのパパ。わたしにそんな事出来るわけ…」
「隠しても無駄だぞリーゼ?今日、たまたま最寄りの駐屯基地に居た俺に連絡が入って駆けつけたんだが、ウルフの屍の山から確かにリーゼのマナを感じた。魔法ってのは人によってどうしてもクセが出るんだ。マナの質、匂いみたいなものが異なるんだな。魔法が行使されてから余り時間が経っていなければ、その痕跡を直感で辿る事が出来る。リーゼも経験を積めばいつか分かるようになる。」
何だその感覚…。基本魔物としか戦って来なかった俺にはそんな特殊能力は備わっていないぞ。
「……わたしだったらどうするの。」
「別にどうもしないさ。寧ろその歳であれだけの実力がある魔術師に育ったなんて誇らしいくらいだ。それと、俺の前ではわざと子供っぽく話さなくて良い。」
「……………、そこまで見抜かれてたのか…。」
「ハッ、俺とエリナが1番リーゼを近くで見てきたんだ。余り親を舐めるなよ?」
「お見それしました…。じゃあ、ママもこの事を?」
「いや、エリナは基本抜けてるからな。でもそこがまた可愛いんだよ。分かるだろ?」
わかる。俺はアンタが日中家を空けてるのが気が気でならないくらいだぞ。世の男性諸君が放っておかないだろう。
「まあそれは置いておいて、リーゼに1つ提案があるんだ。」
「……何?」
俺は少し身構えた。お国のために働くつもりはないんでね。
「そんな硬い顔するなよ。どうだ、ハイデベルク魔法学院に行ってみないか?」
ハイデベルク魔法学院。魔術師ではない俺でも聞いた事がある超名門魔法学校だ。学費も決して安くはない筈だが…エルヴィンなら払えるのか。確か6歳からの幼年コースも設けられていたな。
「興味はあるけど…ここから近いの?私寮生活とか絶対嫌だよ。」
「ああ、ここは田舎に見えるが、王都ルームシュタットまで繋がる大街道の中継地点にある。モンスターライドでプテリクスでも借りれば1時間とかからない。」
なるほどな。やっと今俺がどこに住んでいるのか分かった。国際都市ルームシュタット。
世界有数の魔法大国として知られるフランツ王国の首都だな。前世ではフランツとは殆ど縁が無かった。適当に観光して回るのも良いかもしれない。
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