第5話 振り回す縦ロール

 水のある方へ風を切りながら駆けていく香峯子。


 さっきの街があったであろう場所から出ると、今まで感じ取れなかった命の気配が満たす森の中に入る。


 街道のような足元が安定して、確実にほかの場所へ行くことができる道は、今この時は使いたくなかった。


 それよりも、もし罠など仕掛けられて入ればそれはそれで危険なのだが、身を隠したうえで移動できる森の中の方が香峯子には都合が良かった。


 太い木の枝を渡っていける――といような巨大森林ではないが、かなり広い面積を占めているだろう。ここまで広大な森林だ、香峯子の感じ取ったように水辺は近い。


 通せんぼをしてくる木の枝や長い草を縦ロールで切り裂きながら香峯子はひたすらその水辺へ向かうのだった。


 

 邪魔な草木を切り裂き進み続けた先、遂に目指していた水辺へと辿り着いた。


「まあ、綺麗な泉ですわね」


 この森林の丁度中央にある泉、地下深くにある豊富な水源から湧き上がるそれは透明度が高く、先程の凄惨な現場と同じ世界かと思ってしまう程に神秘的で綺麗だった。


 そこが見えるがかなり深いこの泉、香峯子はその畔に近づき、血に汚れ、また草木で汚れた縦ロールを浸けて洗っていく。


 綺麗な泉を血で汚すのはどうかと思ったが、大目に見てもらおう。


「ここで時間を潰すのがいいかもしれませんわね」


 ざっと周囲を確認したところ、人の気配は無いし、凶暴な猛獣の類もいない。


 助けが来るまで、この場に留まる方がよさそうだ。


 洗い終えた香峯子は、濡れた縦ロールを振り回して乾かす。


 遠くで煙が立つのが見えたが、そんなもの気にせず縦ロールを振り回すのだった。

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