第3話 認識されていない
光に飲み込まれた香峯子は、気がつくと血の臭いが漂うどこかで立っていた。
「臭いますわね……」
常日頃から命を狙われて戦っていたりする香峯子でさえ、ここまで濃い血の臭いを嗅いだことは無い。
美しい顔を嫌悪に歪めながら、香峯子は周囲を確認する。
これ程までの血の臭いだ、戦闘の真っ只中にやってきてしまったのかもしれない。警戒するに越したことはない。
しかし、聞こえてきたのは戦闘音や、怒号でもなく、一つの手を叩く音だった。
「はははっ、そうかそうか、君がそうなのか! 僕の傀儡となる災厄というのは!」
愛しの彼の声以外聞きたくない香峯子の耳に、それはもう不愉快極まりない男の声が届いた。
「帰りたいですわね。まあ、待っていれば望杉家が助けに来てくれると思うのですが……」
届いたからといって聞いてはいない。
「災厄というのだからもっと悍ましい者を想像していたのだが、まさかこれ程まで美しい者だとは思わなかったよ」
「とりあえず、わたくしの状況を確認しないといけませんわね」
香峯子は上に広がる青空を目指して、地下の広間から縦ロールを使って飛び上がる。
地面を叩いた拍子に、血が自慢の縦ロールに付いてしまったが仕方ない。
「さあ呼び出されし災厄よ! 僕と共に全てを抹消しようじゃないか!」
クレリアムが手を掲げる。呼び出した災厄はクレリアムの傀儡となり、自由にその力を振るうことができる――はずだった。
「え……?」
もう中央には、香峯子の姿は無く、この場にいるのはクレリアムと、正気を失った彼の父のみ。
「え……?」
クレリアムは目を擦って、もう一度確認する。
百の死体は無くなっているし、青空も綺麗だ。だから魔術で呼び出すことは成功したのだと思う。
しかし誰もいない。
呆気に取られたクレリアム。呼び出した災厄は傀儡にできるのではないのか。
「いや……」
クレリアムはすぐに止まっていた思考を再開させる。
相手は災厄だ、このまま野放しにしておくと、呼び出したクレリアムも消されるかもしれない。
そうなる前に、どうにかせねば、もしかすると、力を示せば言う通りにできるのかもしれない。前例の殆ど無い魔術のため、もしもの時のことを愚かにも考えていなかったクレリアムであった。
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