第2話 一方その頃
この世の禁忌とされている魔術がある。
命を失った者の魂を呼び寄せ、傀儡とする魔術。
この魔術の恐ろしい所は、呼び寄せることのできる魂に制限が無いところである。この世界の者は勿論、別世界の魂でも自由に呼び寄せることができる。
例えば、とある世界で猛威を振るっていて、勇者に滅ぼされた魔王。遥か遠い昔、世界を一度零にした神と形容されし者など。その様な災厄までも呼び出し傀儡にすることができる。
百人の生贄を捧げるだけで、世界を我が物にできる程の力を得ることができるという魔術。
そしてそのような禁忌の魔術を使用したのは、とある国の王子であった。
この国――エルゼルダン王国はこの世界を実質的に支配している最大の王国である。しかし、今はこのエルゼルダン王国の支配から逃れようと反旗を翻した連合国軍との戦争状態であった。
戦況は連合国軍寄り、いくら世界最大の軍事力を誇ると言っても所詮は一国。十を超える国から成る連合国軍には分が悪い。
そこで国が取った方法。それがこの禁忌の魔術である。
カビた空気が漂う、暗く重苦しい地下の大きな広間――少し前まではそうだった。
今は百の死体が中央に、幾何学的な模様に並べられている。死体はできてから時間は経っていないのだろう血の臭いのみが広間に充満している。
「始めろ」
一人の男の、唸り声の様な声が反響する。
その言葉の後、六人の腰の曲がった人型が、闇色のローブをずるりずるりと引きずりながら、死体の上で等間隔に円状に並ぶ。
膝を付き、手を組み、ポッカリと空いた中央に向かって呪文だろう。意味が分からない言葉を矢継ぎ早に唱えていく。
その様子を見ていた、唸り声を発した男の隣に立つ一人の青年は、冷たい怒りを瞳に宿しながら口の端を吊り上げる。
「これで……僕の邪魔するものは全て抹消できる……‼」
青年の名はクレリアム=エルゼルダン。このエルゼルダン王国の王子であり、この魔術の発動を指示した人間である。まあ実際はこの国の王である父を正気を奪って指示させているのだが。
クレリアムは血みどろの広間には似つかわしい白銀の髪をかきあげながら、間もなく来るであろう災厄を待ち望む。
災厄を傀儡とすることができれば、気に入らないもの全てを消すことができる。
思わず笑いだしそうになるが、クレリアムはそれに耐え、着々と進む魔術に目を向ける。
中央に小さな光が現れ、やがて死体でできた幾何学模様をも飲み込み、大きく、大きく成長していく。
全てを飲み込んだ光は、やがてここからは見えない空へ向かって広間を突き破る。まるで溶かされたかのようにポッカリと大きな穴が空き、光は溶けていく。
――そして広間の中央に彼女はいた。
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