第2話 初日と魔物

「……んあ」


左手で布団をまさぐり、ノールックでアラームを止める。

見ると時計は午前七時十分を指していた。

欠伸をしながら大きく手を伸ばす。


「今日は……金曜日か。授業は三限の民法だけ。バイトもなし。ふぁ、んん……眠。昨日って何時に寝────」


「独りでよく喋るの」


「うぁッ!?!?」


隣に寝転ぶミロクに驚きベッドから落ちる。

ミロクは肘を着いて「クハっ」と笑った。


「悲しいではないか我が主よ。昨夜契りを結んだばかりというのにもう我のことを忘れていたのか?」


「いや……そうだった。牛人間に襲われて、お前と契約して……それから……」


「家に帰るなりベッドに倒れて寝てしもうたぞ。まぁ我が回復のためにかなり魔力を貰ったからの。疲れておったのじゃろう」


「そうだった。……まだ残ってる脱力感の正体はそれか」


喜助は打った頭を擦りながら立ち上がり、机に置かれていた手帳を手に取る。

だんだんと目が覚め、それに伴って昨日のことも鮮明に思い出してきた。


「背に腹はかえられぬと了承したが、いざ回復しきってみれば、やはり人間なぞに支配されるとは屈辱じゃな。キスケの寝ておる間にその手帳破り捨てようかと思うたぞ」


「おい」


「当然、直前で体が動かなくなり実行できんかったがの」


「危ねぇな。……契約してすぐ書いといてよかった」


ミロクの行動を制限するための手帳。

既に昨夜ミロクを連れて家に帰る際に、箇条書きでいくつか記載していた。


【①この手帳に危害を加えてはいけない】

【②人間に危害を加えてはいけない】

【③俺の許可なく魔法を使ってはいけない】


二つ目と三つ目は当然のこと。

そして一つ目の文言は、そもそも喜助がミロクを制御できなくなることを防ぐものだ。

ミロクが制約を受け入れてまで主従契約を結んだのは怪我を治すため。その目的が果たされた今、もはやこの手帳はミロクにとって邪魔でしかないだろう。

実際、さっそくその文言が効果を発揮したらしい。


「まぁ、半分は冗談じゃ。人間は好かんが、悪魔たるもの契約は遵守する。お主を傷つけることはないと約束してやろう。共にある以上、できる限り友好的な関係を築いておきたいしの」


「……まぁいいや。とりあえずシャワー浴びて来いよ。そのワンピースもボロボロだろ?俺、着れそうな服出しといてやるから」


喜助がそう言ってベッドから起きるも、ミロクは眉をひそめた。


「しゃわあ?なんじゃそれは」


「……そういやそうか」



**************



「 正直驚いたぞ。この世界のからくり仕掛けはずいぶんと発達しておるのじゃな。魔法を使わずして自在に湯を出すとは」


一人暮らし大学生宅にしては広めの浴室だが、流石に二人が入れば狭いものだ。

喜助はミロクの頭を洗ってやりながら、その頭部にある小さな赤い角を見て神妙な顔をする。

昨夜は片方が欠けていたが、これもすっかりキスケの体内魔力で治っている。


────やっぱ魔物……なんだよな。、コイツ。寝て起きて冷静になってみれば、俺、何かとんでもないことをした気がしてきたぞ。いくら人を傷つけないよう制限をかけたとはいえ、魔物を助けて、しかも手元に置いてるなんて────


脳裏によぎるのは無数の魔物関連の報道。

体内魔力を得ようとする魔物に襲われ、これまで多くの人々が命を落としてきた。

ミロクをここに置いておくことは住宅街のド真ん中で仕組みの分からない爆弾を所有しているのと大差ない。

そもそも魔物の保護は立派な犯罪だ。

こうもしっかり角と羽としっぽがあれば、「知らなかった」なんて言い訳は通らない。


その後2人は洗面台に立ち、喜助のパーカーを着たミロクにドライヤーをかけてやる。

人の髪を乾かすのは初めてだったが、どうせ相手も初のドライヤー。

下手と思われることは無いだろうと安心して臨んだ。


「なかなか心地よいな。放っておけば乾く髪を、わざわざこうする理由は分からんがの」


「自然乾燥じゃ髪が痛むだろ」


「何を。痛めば魔力で治すだけじゃ」


年増な口調のミロクだが背丈は喜助の胸の辺りほどしかない。体もやや細めで、無害な子供のようにすら思える。

しかし昨夜見た光景が頭から離れない。

地面から槍を生み出し、巨大なミノタウロスを突いて即死させた。

あの敵意が人間に向いたらと思うと恐ろしい。


「……ミロクだっけ。名前」


「そうじゃキスケ。我が主よ」


「なぁミロク。今後どうする気なんだ?この世界で生活していくのか?」


喜助が低いトーンで言うと、少し間を置いてミロクが答える。


「いいや、帰る方法を探すつもりじゃ。新しく転移魔法を編み出すことになるが、『行く』ことに比べれば『帰る』のは簡単なはず。どのくらいの時間を要するか未知数じゃが、それまでキスケには我の魔力貯蔵庫になってもらわねばな」


「未知数か……。まぁ乗りかかった船だし、それまでは面倒みてやる。その代わりできるだけ家にいてくれ。もし通報されたら俺は牢屋、ミロクは殺処分だぞ」


「何を言う。せっかく別世界に来たのじゃ、観光せねば勿体ない」


「いやそんなこと言ってる場合じゃ────」


髪が乾ききったミロクはとっと洗面所を離れ、ベッドに座り込んだ。


「それに、世界間の転移魔法を作るとなれば、この世界についてもよく知る必要がある。この部屋に篭っておろうと、徒に時間が過ぎるだけじゃ」


「うーん……」


喜助は鏡に映る自分をしばらく見つめ、覚悟を決めてため息をついた。


*************




「……言葉が出ませんよ、本当に」


職員らがブルーシートの囲いを作っていく中、“それ”を見た若い警察官が言った。


「通報を受けた時は、一体何事かと」


「この巨体を地面から伸びた槍で一突き。間違いなく魔物の仕業だな」


両手を腰にあてた中年警官がそれに続く。

立ったまま絶命したミノタウロスは今にも動き出しそうな気迫を残していた。


「こんな住宅街に魔物が二体も現れたってことですか。最近、都心部の魔物出現が多すぎますよ」


「あっちの世界で何が起きてんのやら。地理的に東京とリンクした場所の魔物が一斉に狩られてるとかか。……まぁ何にせよ、俺らができるのは後始末だけだ」


と、ミノタウロスから視線を外した時だった。

大学生くらいの青年と少女の二人が現場横を通りすがるのが見えた。

チラッとこっちを見た青年と一瞬目が合ったが、すぐに行ってしまった。


「先輩。どうしたんですか?」


「あぁ、いや。……さっきの二人、兄妹かわかんねぇけどよ、こんなデカブツの死体をちょっと見るだけで行っちまいやがった。もっと驚くとかよ、なんか反応があっていいはずだろ」


「妹にこんなものを見せたくなかったのかもしれませんよ」


「……そういう感じじゃなかったがなぁ」


納得いかない様子の中年の警官はそう言って、ポケットから手帳を取り出した。



一方の喜助は住宅街を抜け、早歩きで大通りを進んで行く。


「完ッ全に忘れてた。朝食を買いに出るだけと思ってたけど、スーパー行くにはあの道を通るんだった。そりゃもう通報入ってるよな。……いやまさか疑われたりはしないだろうけど、でもなんか警察官と目が合っちゃったし……」


「さっきから怯えすぎじゃ、我が主よ。昨日はミノタウロスにも果敢に立ち向かっておったじゃろうに」


「それとこれとは恐怖のジャンルが違うんだよ!今職質されてミロクの角がバレたりなんてしたら…………いや、考えたくもない」


「狭苦しい奴じゃな」


「とにかく!今回は食材買ったらすぐ帰るぞ。昼からの大学は俺一人で行くからな」


恐る恐る歩く喜助に対し、ミロクは堂々と、興味深そうに周囲をチラチラ見ながら進む。

ぶかぶかのフードパーカー、丈と腰周りを安全ピンで調節したジャージパンツ、そしてふた周り大きなクロックス。

これだけで先程の警官らに止められてもおかしくない様相だ。


「しかし、昨夜はここへ来てすぐミノタウロスに襲われたからの。しっかりと街を見るのは初めてじゃが───」


「……どうだ?」


「盛観じゃ」


大通りに出た途端に現れた中層ビル群に圧倒されているようだった。

ミロクのいた異世界の街がどのようなものかよく知らないが、文明レベルは中世ヨーロッパに魔法を足した程度と聞く。

ベッドタウンよりの街といえど、それでも東京。

世界随一の都市たる街並みには流石のミロクも呑まれるらしい。


「アレはなんじゃ」


「車っていう乗り物だ。あの箱の中に人や荷物が入ってる」


「馬の代用というわけか。……おい、なぜ止まる」


「ほらアレ。信号機ってのがあってな。赤の時は止まれ、緑の時は進め、だ。車と事故を起こさないために、ちゃんと従ってくれ」


「なるほど。しかしどれもさっぱり原理が分からぬ。これほどの文明レベルであれば、そこらの魔物相手に苦労せぬじゃろう」


「そうでもないんだよ、これが」


歩行者信号が青になり、進む喜助にミロクが続く。

スーパーのある駅前までやってきた。

人通りもかなり多くなり、爆弾を連れ歩く喜助の肩が強ばる。


「一般人は自衛のための武器を持ってないんだ。警察とか自衛隊が来るのを待つしかない」


「なぜじゃ。自分の身も自分で守れぬようでは生きていけまい」


「ウチの国は今までそれで何とかなってたんだよ。ただ、確かに最近じゃ銃所持の合法化まで謳われ始めてるし、本当にどうなることやら」


喜助がそうため息をついた、その時だった。


「!!」


街のいたるところから非常アラートが鳴り響くのだ。

不快な音を発するのは街ゆく人々のスマホ。

もちろん喜助のそれも例外では無い。


「なんじゃこの音は。気分が悪い……」


「……魔物の出現を知らせる警報だ。しかもこの音は、大分ヤバい……」


周囲は半ばパニック状態にあった。

歩行者は蜘蛛の子を散らすように走り出し、車も一斉に信号を無視して交差点を抜け始めた。


「なに、なによ!」「魔物が来てるらしい!」「おい危ねぇぞ!信号赤だろうが!」「早く逃げろ!地下道まで逃げろ!」


悲鳴、怒号、クラクションの音が飛び交う。

駅の方から落ち着くようにとのアナウンスが聞こえてくる。


「我が主よ、いくら魔物が現れたとはいえこの様子は異常ではないか?いちいちこんなに取り乱していては気が持たぬじゃろうに」


「いや……確かにそうなんだが、今回ばかりはこうなるのも仕方ない。俺だって、隣に落ち着いてるミロクがいるから、何とか平静でいられてるだけだ」


喜助は冷や汗を拭い、落ち着いてスマホの画面をチェックする。

非常事態を伝えるメッセージが表示されており、そこには【危険度6+】と大きく記載されていた。


「危険度6+は……このアラート音が鳴るってことは、本当にヤバい魔物が現れたってことだ」


「基準が分からぬ。昨夜のミノタウロスだと危険度はどうなる」


「せいぜい3だろうな」


「ふむ。それを聞いてもやはり分からぬな」


「お前なぁ……。半年前、ヨーロッパの郊外に現れた超巨大蛇が同じ危険度6+だったんだが、駆除に10時間かかって、いくつもの街が全壊した。結局、民間人と軍人合わせて8000人が亡くなってたはずだ。その規模の魔物がこの東京に来るとなれば……被害は半年前を超えるかもな」


「巨大蛇……。確かちょうど半年前、人間共が西火山帯の巨大サーペントを討伐したと聞いておったが、恐らくソレじゃな。例の転移魔法にやられてここへ来ておったのじゃろう。なるほど確かに、あのサーペントと同等と言うならなかなかの大物じゃ」


ミロクは不敵に笑い、すっかり誰もいなくなった駅前の花壇に腰掛ける。

喜助はその場に立ち尽くし、警告が表示されたスマホを見つめる。

遂に街に公共アナウンスが流れ始めた。


【太平洋上空に出現した魔物とみられる飛行体が関東方面へ直進して来ています。速やかにシェルターや地下など安全な場所に────】


「……」


男性の落ち着いた声が一層恐怖を掻き立てる。

喜助が日常を過ごしていたこの静かな街はもう跡形もない。


「……さっきから何を突っ立っておる。我らは逃げぬのか」


「いや、悪い。そりゃもちろん……逃げたい……けど」


喜助は文末を濁し、ミロクに向き直って続けた。


「────なぁミロク。お前で、この魔物を倒せないか……?」


「……ほう」


ミロクは楽しそうに口角を上げる。


「いや、不思議に思っておったのじゃ。お主が我に課した制限は『魔法を使うな』ではなく『許可なしに魔法を使うな』であったからの。何のためかと思えば……魔物退治に使うわけか」


「まぁな。あの時見た魔法の力、ムダにするのは惜しいと思ってさ。……同族殺しは嫌か?」


「馬鹿を言うな。それこそ昨夜も一匹刺し殺したばかりじゃろうて」


ミロクは花壇を降り、ブカブカのクロックスを脱いで裸足で喜助のところに寄ってきた。


「そうさな。お主はどうも我を侮っておるようじゃからの。ここいらで我の偉大さ、恐ろしさを見せてやるのも良いか」


「それはOKってことでいいのか?」


「好きにとるといい」


「……じゃあ、頼むぞ」


ひとまず了承を得たということで、喜助は考えを巡らせて魔法の制限解除の言葉を告げる。


「────ミロク。今話してた魔物を殺す目的に限定し、魔法の使用を許可する」


するとミロクに何か鎖のような物が砕ける感覚が襲う。

喜助にも心做しかそれが感じられた。

少し驚いた後、ミロクは再び笑みを浮かべる。


「承知した。ほれ、臓物が揺れぬよう腹に力を入れておけ」


「え?ッッ────!!!!」


突然ミロクが体に触れたかと思うと、そのまま喜助と二人で天高く飛び上がってしまった。

襲いかかる重力と急激な気圧の変化で喜助の身体が悲鳴をあげる。

富士山ほどの高さまで来て上昇は止まり、嘔吐く喜助を抱えたミロクが海の方を向いた。


「見よ我が主よ。アレは龍じゃな。また大層な魔物が現れたものよ」


「うぉ、ぇ……はぁ、はぁ……。り、龍?」


顔を青くし、涙を零しながらミロクの視線の先を見る。

確かにこれは龍だろうか、うねるように飛んでくる魔物の姿がそこにあった。

遠くてよく分からないが、旅客機ほどの大きさはあるだろう。いや、もしくはそれ以上。

こちらに気づいたのか、龍が発した咆哮が空気をビリビリと揺らし、遠く離れた喜助の鼓膜をも刺した。


「っ……いや無理だろ、あんなの。あんなにデカいとは思わなかった。ミロクの【刺突】も凄かったけど、あれは流石に……」


「……やはり命令を受けて正解じゃったな。あんな瀕死で撃った初級魔法が我の実力と見られておったとは」


ミロクは不機嫌そうにそう言った。


「しかし全く傷を負っておらぬな。あれほどの魔物が万全の状態で転移魔法を素直に食らうとは思えぬ。瀕死の状態でこの世界に飛ばされた後、その回復に費やした体内魔力の補給を求めて人間の多いこの街に来ておるとみた。クハっ、気持ちはわかるぞ。この世界は大気中に魔力がない故、人を殺さねば餓死してしまうからの」


「海の魚でも食って満足してくれねぇかな」


「不可能じゃ。魚数千匹の体内魔力は人間一匹のそれに劣る」


ミロクは手のひらを掲げ、遥か彼方の龍に向ける。


「はてどうするか。我の力を見せつける機会じゃからの、一番派手なヤツにするか。それとも……」


「いや何でもいいって!急がないと!あいつが陸上にたどり着いた後に倒しても、死骸が人のいる場所に落下するんだよ!」


「あれだけの巨体じゃ。海に落ちたとて、大波が街を襲うじゃろうよ」


「た、確かに……。ならミロク、なんか、龍の死骸が落ちないような……そんな魔法で頼む!」


「注文の多い主よのう!我が主たるお主はともかく、そこらの人間共を救う義理は我にはないのじゃぞ」


「頼む!今晩、めちゃくちゃ美味いもの食べさせてやるから!……寿司!寿司とか知らないだろ?美味いんだよ、気になるだろ!?」


「……はぁ」


ミロクは呆れたようにため息をつき、掲げていた手に魔力を込める。


「仕方あるまい。これから長く共にするお主と不仲になっては敵わんからの」


ミロクの手に波のように紅い粒子が集まっていく。

それは段々と熱を帯び、近くにいる喜助もその熱風に目を細めた。


「我が主よ、しかと見ておれ。お主の従者がどんな魔物なのか」


熱気のうねりが最高潮に達したその時、ミロクは人差し指と親指だけを伸ばし、手の甲を前にするようにひねって言った。


「【爆花バッカ】」


「────ッ!」


突如、龍がくの字になったかと思うと、体内からその全てを覆い尽くすような爆炎が花開き爆ぜた。

空気を弾き叩いたような破裂音が遅れて響き、爆風が髪を掻き乱し、空が一瞬にして紅に染まった。


「嘘……だろ……」


龍を焼き尽くした火球はまだ消えない。

衝撃波が揺らした空気もまだ収まらない。

小さなこの体から、この威力の爆発が起こされたというのだ。

喜助は、とんでもない魔物を従者にしてしまったのかもしれないと思い知る。


「……クハっ。お望み通り、骨ひとつ残さず焼き尽くしたぞ。そこそこの魔力を食うが、これでもまだ中級魔法。我の全力とは程遠い」


ミロクが自慢げに語る。

全く疲れた様子も感じさせず、余裕そのものだ。


「これで分かったであろう。我がいかに偉大な魔物であり、それを従者に置くことがどれだけの栄誉であるのかを。我と出会い、、主従契約を結ぶに至った己の幸運にただただ感謝するがよいぞ、我が主よ」


喜助は圧倒されしばらく声が出なかった。

しかし、ふと昨夜を思い出し、余計なことを口走る。


「…………喉潰されて完敗して、この世界に送られた挙句ミノタウロスに殺されかけてたくせに」


喜助の言葉に、ミロクの笑顔が凍りついた。

それを見た喜助も自分の過ちに気づき顔を青くする。


「あ、いや。これは冗談というか、その、負け惜しみというか……」


「────そういえば、我を縛る手帳には『人間に危害を加えられない』とあったが……実際にやろうとすれば、どうなるんじゃろうな?」


「……へ?」


「おっと、手が滑ってしもうた」


「…………おおぉぉぉおぉおおいいいい!!!!」



真っ逆さまに落ちていく喜助を見て、ミロクは年相応の笑顔で笑う。


「クハハハハっ!いい反応じゃ我が主よ!元の世界に帰るまでの間、お主とおると退屈せずに済みそうじゃ!」






***************



「なんと……ミロク様が生きておられたか……!」


高層ビルの屋上。

爆炎が爆ぜた空を背中に、喜助を追い落ちるミロクの姿を見る魔物たちが3体。

コウモリが人の姿をしたような、まさしく悪魔という容姿をした彼らはみな驚きを顔にうかべていた。


「やはり我々と同じくあの魔法を受け、この世界に……」


「しかしあの人間はなんだ?なぜミロク様は彼奴を殺さぬのだ。ミロク様と言えど、この世界では人間の体内魔力がなくては生きられぬはず!」


指さす先には、落下する喜助を助けに落ちるミロクの姿がある。

手帳の制約によって、強制的に体が動いているのだろう。


「まさか……あの男と主従契約を結ばれたのでは」


「それこそ“まさか”だ!ミロク様は昔から気高く魔族の誇りを持ち、人間なぞ主にするなら死を選ばれるお方!万に一つも有り得はしない!」


「ではあの状況をどう説明するのだ!」


激昂する悪魔に対しもう一方が言葉に詰まる。

少しの沈黙があり、静観していた3体目の悪魔が割って入った。


「ここで見ていても何も分からぬ。ミロク様がこの世界にいらっしゃることがわかったんだ。……なんとしてでも見つけ出し、直接お聞きする他あるまい」

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