第3話 鳥籠
周りが、1人立つ加藤を際立たせるように静かになる。
でも、加藤はそんなこともお構い無しに沈黙をかっ切りながら教室を縦断し、あらかじめ決められていたであろう自分の席つまり、私の隣の席に座る。
教室内は、加藤が座り椅子を引いた音を気付けにしたのか、座ったと同時に少しざわつく。
それは、加藤を案ずる音なのか、驚きと戸惑いによる音なのか友達のいない私には、分からない。
そのざわつきに、居心地が悪くなったのか、自己紹介が終わって安堵したのか加藤がずっと綻ばしていた表情を真顔に変えると同時に、担任が再び立ち上がり朝のホームルームを始める。
元々、クラス全員が仲のいいこのクラスは、いつもホームルームが静かでは無いのだが雰囲気がいつもとは違う気がした。
キーンコーンカーンコーン
チャイムがなりホームルームが終わるとクラスの学級委員長でありながらすルールカーストトップに立つ佐々木美香が加藤の前に現れる。
「おはよう、加藤君。
私、このクラスの学級委員の佐々木美香って言うの、よろしくね。」
「うん、よろしくね。佐々木さん」
「やだなぁ、加藤君ミカでいいよー」
「ほんと?
じゃあよろしく、ミカ」
加藤は、先刻の自己紹介をひとつを除けば完璧にこなしたのでこのクラスの子たちは当たり前のように加藤を受け入れた。
私は、友達もいなく愛読書もないのでスマホに意味もなく目を滑らせながら隣の席で加藤と佐々木が繰り広げる会話を小耳に挟む。
もっとも、その会話は、いつの間にか2人だけのものではなくなっていてクラスのほとんどが、加藤を囲うようにして集っていた。
それも、ご丁寧に私の席を避けながら。
「なあ、加藤って誕生日いつなん?
誕生日までこの学校いるならみんなで盛大に祝おうぜ!」
「ねぇ、加藤くんって彼女いるの?」
「来月に、文化祭あるんだけど皆で楽しもうぜ!」
加藤の耳は2つ、脳は1個しかないのにみんなは、それぞれ自分勝手に加藤に質問を投げつける。
次の授業が始まるまであと少ししかないのに殊勝なものだと私は思った。
案の定、加藤は全ての質問を捌くことなくチャイムの音がなり授業が始まる。
化学の授業になり小綺麗な若い女の先生が入ってくると、新しく入った加藤にいち早く気づき声をかける。
「あら、加藤君初めましてー。
吉田光と申しますー
今日は、多分教科書がないと思うから隣の、、、
そうね、山内さんに見してもらってねー
そう、左隣の子ー」
「分かりました」
加藤は、ハキハキした声でそう答えると
こんどは、少し絞った声でこちらに話しかける。
「見してもらってもいいかな?」
人との関係をできる限り切っている私からしたら面倒なものだが嫌がらせがしたいわけではないので抵抗なく見せる。
加藤は、机をくっつけ教科書を見して貰うとさっきよりももっと絞った声で、喋り出す。
「今ってどこやってんの?
俺、理系の科目苦手でさ分からない問題があったら教えてよ。」
私は、そんなことしたくないのでこう返す
「私も、苦手」
「そっかー、難しいよねー
特になんの教科が苦手?
俺はね、物理が苦手なんだ公式がややこしっくて」
加藤は、めげずにこう返す。
「私は、何も出来ない」
こんどは、分かりやすく突き放すように返すと
加藤はさすがに、虚しさを感じたのか軽く相槌だけして授業に取り掛かる。
そうして、私たちは気まずい時間を過ごし授業を終わらせた。
授業が、終わるとさっきの続きのようにみんなが加藤を取り囲う。
そこでは、やはり色んな声が行き通っていたがその中の一つに、
「山内さんとは関わらない方がいいよ
色々あるんだけどね」
と小さな声ででも、漏れ出てしまったかのようにそれは私の耳に入る
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