第21章 対応策

 午後イチのジム。数人の奥さまたちが練習をしている。コーチがジムに入ってくる。コーチが「おーす」と言うと、「ちーす」という声がジムのあちこちから帰ってきた。コーチがイスに座ってジムを見回すと、ユー子が新しいウェアで練習していた。谷間を出している。コーチ、困り顔。


 ゴングが鳴って、ユー子がコーチの横に座った。胸ごと体をひねって、すこし甘めの声でコーチに言った。


「おはよー」


 コーチはユー子を見ないでリングの方を見ながら言う。


「おはよ」


 ユー子は不満げ。


「なによ。見てよ。今日の新しいウェア。可愛いでしょ?」


 コーチが困り顔で答える。


「だ、ダメだよ。みんなに怒られるから。見たいけどさ。すごく、見たいけどさ」


 ユー子、不満げに実力行使に出る。


「そんなの気にしないでさ。ほらほら、、、」


 両手で乳を持って揺すりはじめる。コーチ、見たそう。すごく、見たそう。必死に目線をとどめている。両膝に置いた手を握りしめている。


「だ、ダメなんだよ。見たいけど。すごく見たいけど、ダメなんだ」


 ユー子あきらめて前を向いた。


「ちぇ。あのさ、昨日さ、お店に自治会長たちが集まって、キヨシが勝ったらその勢いでジム閉鎖しちゃおうって話してたよ」


 コーチ、ビックリしてユー子を見る。そして、つい視線を落として谷間を見る。ユー子、声をあげずに口を大きく横に広げて笑った。



「なにーぃ!」


 漁協長が声をあげた。ユー子が説明する。


「ソーカイ?とかでなんかやるって言ってた。だから、こっちも対策練らないといけないでしょ?」


 漁協長がユー子の肩に手をかける。


「そーだ。その通りだ。ユー子、ありがとう」


 ミッコの老人ホームの入口。広いスペースに置かれた丸机にユー子、コーチ、漁協長、ミッコが座っている。回りでじーちゃん3人、ばーちゃん5人がシャドーボクシングをやっている。ジャブを出しながら、進んだり退いたりしている。コーチをしているルミが声をかける。


「はーい、ワンツー、ワンツー、、、」


 ミッコが言う。


「でも、あいつ、人望まったくないから、そんなに人集まらないでしょ?」


 漁協長がうなづく。


「まーなー。でも、何かの拍子でトラオあたりが乗っかっちゃうと面倒だべよ?」


 ミッコが言う。


「そりゃ、そんなことになったらユー子が教えてくれるよ。ねー?」


 ユー子、うなづく。


「うん。あたし、みんな大切なお客さんだけど、漁協長派だから」


 漁協長、うれしそうに笑う。ユー子がコーチの方に胸ごと向けて続ける。


「あたし、イチロー君に助けてもらったことがあるの。小学校の時。その時から漁協長派なの」


 コーチ、つい谷間をみて言う。


「へー。漁協長、覚えてるの?」


 漁協長、即答する。


「覚えてない」


 ミッコが笑う。


「イチローは子どもの頃から偉いからね。人気あるからね。そこが自治会長との違い」


 4人笑う。ミッコが漁協長に尋ねる。


「JBC加盟どう?」


 漁協長が困り顔で答える。


「ダメだなー。もう二十社以上の声かけたけど、ダメだわー。ちっちゃい金額なら強力してくれるけど、1千万円は無理だわー、、、」


 みんな「うーん」と考え込む。じーちゃん・ばーちゃんが前にステップを踏み、次に後ろにバックしながらシャドーボクシングをしている。だいぶ上達している。それを見ながらユー子が言う。


「ミッコちゃん、出してあげなよ。お金持ちなんだから」


 ミッコが顔をしかめる。


「そら、出せれば出したいよ。でもさ、このホーム作るのに無理して借金したから、首回らないんだよー」


 ユー子が心配そうな顔をする。


「あらー。そう。あたしんとこもお客さん減ってるしなー」


 漁協長が言う。


「みんなで少しづつ出し合うか?」


 コーチが言う。


「でも、そうすると、権利関係が複雑になって、みんなが元気なうちはいいけど、数十年後に問題になるような、、、」


 漁協長が困り顔で言う。


「あー、そーかー」


 4人で「うーん」と考え込んでいる。その横でじーちゃん、ばーちゃんがシャドーボクシングをしている。

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