第7話
いつの間にか彼は木の台に乗せられていました。
太陽の光に金髪をキラキラとさせながら膝をついていました。
それでも瞳には絶望や恐怖はありませんでした。
傍らには剣を持った人間。
人間たちは何かを叫んでいましたがあまりの数に互いに言葉を消し合っていました。
この中の何人が、彼が何故この場に立たされているのか知っているのでしょうか。
彼はただ間違いを指摘しました。
一つの、そして大きな間違いを。
血で血を洗う真似はどんな理由であれ許されない。
国を広げる。
そんな些末な理由で。
同じ空の下に生まれてきたのだ。
国が異なる為に、己が国の為だけに他を侵す理由が正当であるわけがない。
彼は己の意志を貫き叫びました。
しかし、その声を阻む盾は国。
従わぬ者に恩情がいるか?
国を守る為。国を栄える為。
自国の為ならば他など知らぬ。
彼は賛同など出来ませんでした。
何度も説得を試みました。
侵略ではなく同盟ではダメなのか。連合ではダメなのか。
そんな日々。
彼の家が焼かれました。
彼が外出し、家族がまだ中にいるその夜。
助けだそうと中に飛び込む彼は顔に火傷を負いました。
降り掛かる火。
顔に火傷を負ってなお助けだしたのは年の離れたまだ小さな妹一人。
だが、その妹も朝の光を浴びる前に冥界の王に連れ去られてしまいました。
家と家族を焼かれた彼を待っていたのは偽りの罪。
【家族を自ら殺し他国に寝返った裏切り者】
彼は国から逃げました。
怒りを燃やしながら生きることを選びました。
生きて叫ばなければならない。
間違いを。これ以上冥界の闇に人々を送らせない為に。
追われながら逃げた先。
そこで出会ったのは何も知らない水の身体と魂を持った泉の精霊。
何も知らない。
それ故に美しい瞳のナイアードは焼かれた肌を癒してくれた。
その幼げな微笑みは疲れた心も癒してくれた。
だから、さらに逃げた。
巻き込んではいけないと。
私のように失ってはならない。
彼は森を抜けて町を転々としていましたが、遂に捕まってしまいまた。
そして、今この場に立たされていました。
彼は人の海を見つめました。
かさついた唇を開きました。
「真実を見ろ!我等が国の行為は人が人を食らう卑しき呪われた過ちだ!」
刃が一度煌めき、高々と振り上げられました。
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