第3話


 青年が立ち去る姿を見つめたままナイアードは夜を迎えました。

 空には月が昇り白銀の光が降り注ぐためかナイアードの髪と瞳もまた同一のものになっていました。


「幼げなニンフ。如何にした?」


 突然の声にナイアードが振り返ると金色の髪の美しい女神がいました。その手には凛とした雰囲気の女神には相応しい弓矢を持っています。

 その女神が誰であるか分からず、ナイアードは数度瞬きます。


「私が分からぬか?仕方ないことか。そなたの周りはそなた一人。外界を知る術もない」


 女神は可笑しそうに笑います。

 女神の勇ましさを表すような鋭い瞳は白銀のそれでナイアードは空を見上げました。

 自身を染める光。

 そうしてゆっくりとナイアードはその身を伏せました。

 女神は光を司る者とようやっと気が付いたからです。


「幼げながらに理解はあるな。ニンフよ。何を見ていた?」


 ナイアードは顔を上げて唇を開きこぽこぽと音を出します。

 女神にはその言葉が分かりました。


「ふむ。人の子が気に掛かるか。ニンフはことごとく人に惹かれるものだな」


 女神は何処か皮肉げに笑います。

 それでもナイアードはなおも言葉を紡ぎます。


 全てを話すと女神は赤い唇を吊り上げました。


「ならば、私が力を貸そう。夜の時のみその身を人と成そう。そうして人の子を探すがよい」


「しかし、条件がある。私の力は夜のみ。我が兄弟の馬車が空裾に覗かぬまに水に隠れなければそなたは泡となろう」


 その言葉の意味を理解していてなのか、ナイアードは小さく頷きました。


「そして、そなたを罵るような言葉を人の子が吐けば私の矢がその胸を貫こう。…私は純潔の誓約者。さりとて、従わざるニンフを縛るつもりはない。そなたが望むなら歩め。強き願いを私は好む」


 ナイアードは泉から自身を覆う森へと歩きだしました。

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