4.片想い


「二人ともお疲れ様。これ、待たせちゃってごめんと付き合ってくれたお礼ね」


 猛暑とは言わないけれど、最近は夕方になっても暑い日が増えてきた。いよいよ夏の訪れを感じさせる。


「後輩に捕まってただけだし、別に奢りはいいよ。自分で払うから」

「先輩があげるって言ってるんだからおとなしく貰っとけ」


 しかたなく受け取る。葵はもう蓋を開けて飲んでいた。


「そういえばよかったの。あの子、なんだっけさっきの可愛い子」

「立花さんのこと? なにが?」


 確かに帰り際、体育館の傍でまた会ったけど。


「なにがって、あの子一緒に帰りたそうだったじゃん。二人が終わるの待ってたんじゃないのかなーって」

「えーそんなことあるかな。ね、葵」

「俺はともかく、ミヤのことは待ってたかもな。てことで俺はこっちだから」


 そんなに仲良しかなあ。

 葵は僕らがまたねを言うよりも早く行ってしまった。愛想がなさすぎる。


 ただそうなると隣には先輩だけになる。思えば、小学生の頃はこんな状況がよくあったな。


「そういえばさ、洋輔」

「ん、なに」

「立花さんのこと可愛いって思ってんだね」

「あーまあ、だって今日会った子って立花さんくらいだし流れ的に」

「可愛いと思ってんだね」

「……まあ思ってるよ」


 僕がそう答えると先輩は、ふふんと上機嫌に弾んだ。


「わかってると思うけど、繊細な子ってほんとに些細なことで落ち込んだりするからね。優しくしてあげなよ」

「じゃあ先輩には優しくしなくてもいっか」

「はあ? 私も繊細でかよわい女の子だがあ?」


 こんなつまらないやり取りが好きだったりする。

 

「ほら、近いうちに体育大会もあるし、精々モテるために頑張りなさいよ」


 背中を叩かれる。たまに身長差も相まって、姉がいたらこんな感じなのかなと錯覚してしまうのが悔しい。


「本当にモテて他の子に取られても文句言わないでよ」

「まず私の身長越してからそういうこと言いなよ」


 一つ年上で身長差もあって見向きもされない叶わぬ恋かもしれないけれど、やれるだけのことはやりたい。


「先輩は本当に昔から変わらないよね」

「童顔ってことか?」

「性格とか人柄の話だよ。人を応援するのも気を使うのも上手い」

「知らんがな。てきとーに喋ってるだけよ」


 がははと豪快に笑ってみせる。姉貴分っぽい。


 でもやっぱり、好きだなあ。高校に入ってもまだこの想いに際限がない。


「今度の体育祭さ。もし僕が優勝したらさ」

「うん?」

「一緒に遊びに出かけない?」


 友達が多くて、後輩に慕われる良い先輩だから。


「打ち上げってこと?」

「ううん。二人で、デートってこと」


 この片想いを終わらせたい。

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