第4話ー2
あの日は夏が終わって秋に入りかけの頃だった。
お天気はめまぐるしく変わって、冬のようにとっても寒い日もあれば、夏が戻ってきたみたいに暑い日もあった。あの日は少し暑い日だった。
あの日、ママさんは寝坊をしてしまって、病院の時間に間に合わないって大騒ぎをして、とっても慌てて家を出たんだ。
「あっ! ママさんたら、そこの窓開けっ放しで出掛けちゃったよ」
「本当だ! しっかり者のママさんが窓を締め忘れるなんて、よっぽど慌てていたのね」
ぼくたちは、そのことを大して気にしていなかったんだ。
「ねえ、チッチ」
「なあに?」
「チッチもママさんみたいに、赤ちゃん欲しい?」
チッチはまた、頬を桜色に染めた。
「何言ってるのよ! もしかしてアンタも欲しいの? 赤ちゃん」
「うん……ぼくとチッチの赤ちゃん欲しいな」
「しょうがないわねえ……アンタがそう言うなら、産んであげてもいいけど」
チッチは照れ臭そうに、ぼくに背を向けながら言った。
ぼくは、そんなチッチをとても可愛らしいと思ったんだ。
とその時、ママさんが締め忘れた窓から、ぼくたちの様子を窺う来訪者が居ることに気づいたぼくは、チッチにそのことを伝えた。
チッチの表情が一変した。
「まずいことになったわね」
「どういうこと? あの子はネコさんでしょ? お隣のマリーさんはぼくたちと仲良くしてくれるじゃないか」
「マリーさんは私たちと同じ。ぬくぬくとぬるま湯につかって暮らしている飼い猫よ。今、私たちを狙っているのは野良猫よ! 痩せ細っているし、相当お腹が空いてるみたい。とても危険だわ! とりあえずこの鳥かごを出て命懸けで逃げるわよ!」
ぼくたちは協力して、くちばしで鳥かごの扉を開けようとしたけれども、恐怖心から体が震えて中々うまくいかない。
そうこうしている間に、野良猫は窓から部屋の中に入り、あっという間にぼくらの鳥かごの上に飛び乗った。鳥かごは、猫が飛び乗った衝撃で激しく揺れ、ぼくたちはパニックに陥った。鳥かごの上から、猫は、いとも簡単に扉を開けた。
「もう一週間もエサにありつけていないんだ……もう限界なんだ……悪く思うにゃよ」
猫の前足が鳥かごの中に飛び込んできた。
鋭利な刃物のような爪がぼくの眼前まで迫った。
「ああ、ぼくもここまでか……チッチと幸せな家庭を築きたかったな……」
ぼくは死を覚悟した。
刹那、ぼくの目の前に、美しい空色が広がった。
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