第3話ー2

次の日はとっても良い天気だったけど、ぼくの心は曇り空だった。


ママさんは、ぼくたちをベランダで日光浴させてくれた。

きれいな青空を見ていると、ぼくは、今すぐにでもこの鳥かごから飛び出して大空を旅してみたくなる。気持ちが高まったぼくは、ついうっかり、チッチにぼくの夢の話をしてしまったんだ。


「ねえ、チッチ、君は幸せかい?」


「そうね。見世物小屋みたいなペットショップから出ることもできたし、この家の飼い主さんたちは、きちんと面倒見てくれそうだし、幸せなんだと思うわ」


「そうなんだ。君はちっぽけな存在だね。ぼくはね、君には想像できないくらい、とっても大きな夢を持っているんだ」


「アンタって、けっこうナチュラルに失礼なこと言うのね。まあいいわ。あたしは心の広いレディーだから、アンタの“大きな夢”とやらを聞いてあげるわ。さあ、おっしゃいなさいよ」


ぼくは、羽と足を大きく伸ばして、一呼吸してから話し始めた。


「ぼくの夢はね、この狭い鳥かごを飛び出して、あの広い大空を自由自在に飛び回って、世界中を旅することなんだ!」


(どうだ、びっくりしただろう?)


チッチは、目をまんまるにしてキョトンとしたあと、ピッ……チッチッチッチッチッチッチッチッ……と大笑いをした。


「何を言い出すのかと思えば、ピッ……そんなこと無理に決まっているじゃない? あたしたちは野生の鳥じゃないのよ? ぬるま湯につかったあたしたちが外の世界になんか飛び出したら、たちまち死んでしまうわ。外の世界はね、アンタが思っているほど甘くないのよ!」


「そんな! やってみなけりゃわからないじゃないか! なんで君はそんな意地悪なことを言うんだい!」


「アンタのためを思って言っているのよ。今の生活の何が不満なの? 私たちは飼い主さんに持ち前の可愛らしさで癒やしを与えるために生まれてきたのよ。美味しいゴハンを食べて、愛嬌を振りまいて、人間の言葉でも喋ってあげたら大喜びしてくれるわ。この平穏な生活の中で寿命が尽きるまでぬくぬくと幸せに暮らすのよ。これ以上の幸せなんてあり得ないわ!」


ぼくはとっても悔しかったけど、言い返すことができなかった。

チッチの言ったことは間違っていなかったからだ。

それに、ぼくは夢を叶えるための努力もしていなかったし、覚悟もなかったんだ。

ぼくは、夢を語ることで、ちっぽけな自分を大きく見せたかっただけなのかもしれない。

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